2010年代の20曲ヘッダ

2010年代の20曲 _ ⑲あいみょん「マリーゴールド」(2018)


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大ブレイクを呼び込んだ「温故知新」

2019年のビルボード年間チャートの総合で2位、ストリーミングで1位。リリース年の2018年がそれぞれ48位、21位だったことを考えると「瞬間的に大ヒットした」というよりは「時間をかけてじっくり広まっていった」という説明の方が正しそうである。にもかかわらず、この曲には「2018年を代表する1曲」とでも言うべき風格とインパクトが備わっているのが何とも不思議ではある。いつになくその年の顔が揃った2018年の紅白歌合戦においても、この曲のパフォーマンスは際立っていた。

「貴方解剖純愛歌 ~死ね~」ではエキセントリックな表情を見せてラジオで発禁になったり、「君はロックを聴かない」では「内向的な音楽好き」の心の揺れを描いて少しでも該当する部分を持つ人々の心を射抜いたり、「満月の夜なら」ではモダンなプロダクションとセクシャルな歌詞を両立させたり…自身のアーティストとしてのフェーズを踏まえての的確なアウトプットはともすれば「戦略的」などと説明されそうな趣もあるが、あいみょん自身はこういったものを本当にナチュラルに生み出しているのだろうというのは各種メディアでの立ち振る舞いからも想像できる。関ジャムでは「批評的」に彼女の言葉を分析しようとするいしわたり淳治がタジタジになっていたが、「良いものは良い」以上の深読みを無効化するような彼女のスタンスは清々しくもある(そう言えば、SNSを使ったアーティストの発信が定着する中で、「語るアーティスト」と「語らないアーティスト」がぱっきり分かれたのもこのディケイドの特徴でもある)。

「マリーゴールド」は、後付けの理屈を好まないあいみょんの魅力が特に凝縮された1曲である。イントロのギターはZARDを思わせるし、メロディの運びもどこか懐かしい。「シンプルにいい歌といい歌詞はいつの時代でも支持される」という原則に忠実なこの曲は、「時代のトレンドがどうこう」といった話や「早耳のリスナーに支持される」的なタコツボをあっさりと乗り越えていった。

彼女のルーツに浜田省吾があるというのは各所で語られているが、そういった「Jポップ以前」の感覚があるからこそその楽曲には「普遍的な強さ」が生まれていくのだろう。Jポップ、というよりは日本の流行歌の系譜は着実に受け継がれていく。星野源にせよ、ヒゲダンにせよ、「Jポップ以前」と「Jポップ以降」の感覚が巧みに混在するところに「2020年代のJポップ」のあり方についてのヒントがありそうである。

 
「個」を支える「チーム」

ある意味では「天然」というか「無邪気」というか、そういうスタンスを崩さぬまま天下をとってしまったあいみょんだが、対照的に彼女を支える面々からは「ぬかりなさ」も見え隠れする。たとえばあいみょんの所属するワーナーのスタッフは「マーケティング」(あいみょんが特に嫌いそうな言葉だ)の観点からそのブレイクの道筋をわかりやすく説明していたし、またアゲハスプリングスの田中ユウスケは彼女の楽曲の魅力を増幅させるために欠かせない存在である。「才能あふれる音楽家に優秀なパートナーがつき、それを野心的なビジネスサイドのスタッフが支える」という理想的なチームが編成されていたことがうかがえる。 

タイアップを絡めてCDを売りまくるという「勝ちパターン」が崩壊した今、アーティストサイドは「音楽をいかに届けるか」ということに頭を使う必要が出てきた。たとえば、ストリーミングサービスに対してどんなスタンスをとるか。ライブやYouTubeで自身の魅力を正しくプレゼンテーションするにはどんなアートワークが必要か。SNSによって発言力を手にしたファンをどうやって巻き込むか。こんなことを全てアーティストが考えていたら、さすがに「音楽を作る」という本分に影響が出るはずである。現状を俯瞰できるアーティストは前述したような音楽の届け方に関する考察を発信し、また具体的なアクションをとったりもしていたが、そういった善意の取り組みも「音楽ファン」から「音楽の話をしろ」と反発を受けるケースもあった。

そんな状況において、2010年代により注目されたのが「チーム」という概念である。アーティストを中心として、楽曲制作、売り方、ライブ、ビジュアルまで、それぞれの専門家が集まることでその出力を最大化する。特に2010年代後半に「勝っていた」アーティストに関しては、このチーム編成がうまくいっているところがほとんどだろう(星野源にせよ米津玄師にせよ優秀なマネジメントとセットである)。三浦大知が自身のインタビューで「三浦大知のチーム」という言い方をしていたのも印象深い。

2010年代は音楽に限らず「チームの時代」であり、会社組織にとらわれず専門家同士が自由につながることでまだ見ぬアウトプットを生み出すことが推奨されていった。こういった流れは大企業にも徐々に及びつつあるし、この傾向はこれからも進むだろう。2020年代は「メジャー/インディー」「メインストリーム/オルタナティブ」といった枠を越えたところで生まれる魅力的なチームがさらに音楽業界を活性化させていってほしい。




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