2010年代の20曲ヘッダ

2010年代の20曲 _ ⑩三代目 J Soul from EXILE TRIBE 「R.Y.U.S.E.I.」 (2014)


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LDHというカルチャー

日本の社会構造や流行について解説する際に、「日本人はヤンキー的な文化から逃れられない」というタイプの言説が語られることが非常に多い。「ヤンキー的」の定義については都度ブレがあるが、概ね「ちょっと不良っぽいものの方が好かれる」とか「繊細な良さを持っているものより大味な表現の方が好まれる」みたいなことを意味していると捉えれば解釈として大外れすることはないと思われる。ゼロ年代から支持を広げてきたEXILEを中心とするLDHの勢力拡大も、大きくはこういった「日本の深層心理」がベースにあるはずである。

それにしても、10年代におけるLDHの浸透力はすごかった。関連グループは続々と増殖し、『HiGH&LOW』のようなヒットコンテンツも生まれた。その根底にあるのは、縦関係とファミリー的な懐の深さ、世界を目指す大いなる野望、シンプルな男らしさを押し出したビジュアル。とにかくわかりやすい。ジェンダー的な観点から「わかりやすさへの警鐘」が鳴らされてきた10年代後半においても、彼らの影響力は相変わらず強大である。

その存在についてジャニーズやAKBと並べられるLDHだが、共通のカルチャーを背景にした組織力は前者2つよりもさらに強固である。EXILEのメンバーが実ビジネスをも束ねる仕組みは非常にユニークであり、海外戦略についても様々な仕掛けを積極的に進めている。VERVALやMIYAVIといったビジョナリーも取り込んだLDHは、アジアから世界に発信する88risingとも手を組むに至った。

一大勢力となったLDHの2010年代における代表曲といえば、三代目 J Soul from EXILE TRIBEの「R.Y.U.S.E.I.」だろう。サビで登場する振り付け「ランニングマン」のキャッチーさも相まってちょっとしたブームを巻き起こしたこの曲は、Jポップクラシックの一つとして定着した感がある。その後の「恋ダンス」ブームにあやかったと思われる「Happy?」や明らかに東京五輪を意識した「Welcome to TOKYO」、あとは常に「〇〇ダンス」を流行らせようと腐心しているGENERATIONS from EXILE TRIBEの楽曲などがどうにも跳ねていないのに比べると、「R.Y.U.S.E.I.」のインパクトは際立っている(もっとも、「Welcome to TOKYO」の効果かどうかは不明だがLDHの大ボスでもあるHIROは「東京2020オリンピック聖火リレー」聖火引継式の文化パート監督のポジションをゲットした)。


JポップにEDMがやってきた

「R.Y.U.S.E.I.」はサビの「ランニングマン」が見せ場、すなわち「歌わないパートこそ曲のハイライト」という発想で構成された楽曲である。サビのドラマチックなメロディこそが求められるJポップ、というか日本の流行歌の世界においてこういう曲がレコード大賞を獲得したというのは異色とも言える。

三代目はその後も「Summer Madness」のような「サビで完全に歌わなくなる」タイプの曲もシングルとしてリリースしているが、とかく「商売の権化」的な扱いばかりが際立つLDHが当時海外で盛り上がっていたEDMのアプローチを積極的に輸入していたことは注目に値するポイントである。折しも「R.Y.U.S.E.I.」がリリースされた2014年はEDMの巨大フェス「ULTRA JAPAN」が初開催された年でもあった。

同じく2014年にリリースされているのがSEKAI NO OWARIの「Dragon Night」。EDMテイストのこの曲で「ドラゲナイ」ブームを巻き起こしつつ紅白にも出場したセカオワは、その目線を海外にも向けるようになる(一方で「プレゼント」がNコンの課題曲となるなど「NHKに愛されるポジション」も獲得してしまったところにこのグループの不思議なパワーを感じる)。

ダンス&ボーカルグループの三代目と(もともとドラムレスという変わった編成ではあるものの)バンドとして支持されていたセカオワ。全くタイプの違う2組がEDMという磁場で交差し、ともに大きなヒットを呼び込んだのが2014年のメインストリームの出来事だった。ただ、実際のところ「JポップにEDMを持ち込んだ」のはこの2組が必ずしも最初というわけではない。たとえば三浦大知やw-inds.といった面々は2014年以前からいち早く自身の音楽にそういった要素を取り入れていた。彼らのセンスと先見の明が広く知れ渡っていくのはもう少し先の話である。

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