2010年代の20曲ヘッダ

2010年代の20曲 _ ⑰Dungeon Monsters 「MONSTER VISION」(2017)


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スポーツとしてのフリースタイルラップ

2017年6月16日。この日のミュージックステーションに出演した8人の男たちは、ゴールデンタイムの歌番組において何ともいえない存在感を放っていた。

般若、漢a.k.a.GAMI、サイプレス上野、R-指定、T-Pablow、DOTAMA、CHICO CARLITOそしてZeebra。テレビ朝日の深夜番組「フリースタイルダンジョン」の初代モンスターたちは、番組のオーガナイザーとともにコラボ曲「MONSTER VISION」を披露。番組の人気、ひいてはフリースタイルラップの人気がお茶の間レベルにまで浸透し始めていることを改めて印象づけた。

とかく「特定のカルチャーを"テレビ向け"にショーアップした形で紹介する」ことには「そのカルチャーの古いファン」が難色を示すことも多いし、実際に何らかの弊害が生まれることもある。「バトルが流行ったところでシーンには何も関係ない」という意見もある。Zeebra自身も「MCバトルは言葉の格闘技でスポーツみたいな部分がある。音楽を排除しても楽しめる」と述べており、その「スポーツ」としての側面が強調されるだけで「音楽」への還元が進まない状況に歯がゆい思いを持つ人たちがいるのも理解できる。

ただ、それでもやはり「フリースタイルダンジョン」が2010年代の後半に果たした役割を無視するわけにはいかないだろう。あの番組を通して多くの人たちが「ライム」「フロウ」といった概念を具体例とともに理解したという事実は、日本語ラップという文化がこの先育つうえで非常に重要な意味合いを持つはずである。

T-PABLOWはBAD HOPとして大きな人気を博し、R-指定はCreepy Nutsとしても活動中、さらにDOTAMAは複数のCMに出演するなど、「MONSTER VISION」に参加していたメンバーそれぞれが各人のフィールドにおいて活躍の場を広げている。また、「フリースタイルダンジョン」には三代目のモンスターが登場し、引き続き盛り上がりを見せている。そういった動きに加えて、マスメディアの目の行き届かないところでは若いラッパーが多数登場して新たなヤングカルチャーとしての深みを増しつつある。2020年代も日本のヒップホップシーンはメインストリームとアンダーグラウンドの二層が同時に蠢きながら前に進んでいくのだろう。


「懐メロ地獄」ではない音楽番組のあり方

「MONSTER VISION」が披露された回のMステには満島ひかりがMONDO GROSSOのフィーチャリングボーカルとして登場。そこでの「ラビリンス」のパフォーマンスは、もともとfolderの一員としてステージに立っていたというバックグラウンドを経て今では女優としての表現力を磨いている彼女にしか到達し得ない境地のものだった。

このようにMステには時として「尖ったアクト」がまとめて出演する。一方で、ここ数年の番組を取り巻く雰囲気は少しおかしなものになっている。古い曲が素人のコメントとともにランキング形式で発表され、またある時期には毎週のように放送時間の一定量が高校生の部活動としてのダンスパフォーマンスの紹介に割かれるなど、「シーンの今を伝える番組」としての役割を放棄したかのような状況が続いていた。

Mステの変容は2010年代を通して進んできた「音楽番組はみんなが知っている歌を紹介すればよい」という流れの帰結でもあるのだが、2010年代の後半からは徐々にそういった安易な切り口ではない音楽番組が注目を集めるようにもなってきた。その代表格が前述した「フリースタイルダンジョン」と関ジャニ∞がホストとなって音楽の多様な楽しみ方を伝える「関ジャム 完全燃SHOW」。どちらもMステと同じテレビ朝日で放送されている番組である。

「フリースタイルダンジョン」が日本語ラップの楽しみ方に関するリテラシーを高めるのに貢献したことに対して、「関ジャム 完全燃SHOW」は「日本には素晴らしい音楽がまだまだたくさんある、そしてこれからもたくさん生まれていく」というメッセージを発している番組である。いしわたり淳治や蔦谷好位置といった「語り部」による楽曲解説は非常にワクワクするものであり、そこからあいみょんや中村佳穂といった唯一無二の才能が世間に紹介された。また、そういったプロフェッショナルの話をキラキラした表情で聞いている関ジャニの面々にとってもこの番組の意義は大きかったのではないか。関ジャニとしてのメトロック出演や、渋谷すばるや錦戸亮のグループ脱退後のソロとしてのアウトプットなど、彼らの音楽活動の飛躍に「関ジャム 完全燃SHOW」で学んだことが大いに生かされているはずである。

2010年代は「インターネットが本格的にメディアとして機能し始めた時代」だが、そんな中でもテレビの影響力というのはいまだに無視できない。2020年代も「音楽の楽しみ方」を広げてくれるような音楽番組の登場を楽しみにしたい。まあその前にMステの惨状を何とかしてくれ、という話ではありますが…



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