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不動産仲介実務~躁鬱病のお客様~

◆不動産実務ドキュメント

こんにちは。
㈱REGATEの金城です。

本日のコラムテーマ
不動産仲介実務~躁鬱病のお客様~です。

前回掲載した長編の
「仲介手数料?払わんよ」

が思いのほか好評でして、調子に乗って仲介さんってこんな事やっているんだよ!見えない仕事だらけだよ!お金にならない仕事も多々あるよ!
という内容を書き起こしました。
厳密には過去にHPに書いていたコラムをお引越しして加筆修正しているので、読んだことある人にも更に臨場感を味わってもらう内容に仕上げています。


様々なお客様


不動産という仕事をしていると大なり小なり様々なトラブルや困ったお客様と出くわします。
今回の内容は躁鬱病のお客さまとやり取りした半年間の軌跡をご紹介。

不動産って多額のお金が動くせいか精神的に弱るお客様もいるんです。
親戚付き合い、離婚、転勤、リストラ・・・
頭を悩ませた末に不動産の売却という方も多いという実情。

この記事を読んでくれた同業者さん、同業ではないけど接客をするお仕事の人達に少しでもケーススタディになればいいと思います。

躁鬱病の方とのやり取りを終えて、反省点や私が至らなかった点も含めて書いてみます。
参考になるか分かりませんが読み物として娯楽の気分でお読みいただければと思います。

◆台風の最中のお問い合わせ


大型の台風が接近中のとある日。。。

夕方から暴風域に入るので、午前中から様々な台風対策に追われていた。

看板の撤去。空室物件の窓の補強など、、、沖縄の不動産屋は台風の度にてんやわんやだ。。。


昼前には全物件の台風対策を終え、やることが無くなった部下に順次帰宅を命じて、店の戸締りや最後の点検をして自身も帰ろうかと支度をしていると・・・

~ピロ~ン♪~
一件の査定依頼メールが。。。


今から暴風域。
外は雨風が強くなってきている。
役所も閉まっている。
一括査定なので他社にも同じ依頼がいっている。
だが暴風域だしどこもすぐには動かないだろう。
「明日対応しようかな」
と頭をよぎったが、すぐにチャンスだと切り替えることに。

即電をして
「今から行きます!お話を聞かせてください!」
とアポ取り。

他社も同僚も
「こんな台風前の状況で査定できないし」
と思い込んでいたはず。

なら今から会えば私一人でお客様の懐に入り込むチャンスです。

風はどんどん強くなり、雲は真っ黒。。。空は怪しい轟音を轟かせていました。。。

即座にネット謄本を取得し、役所や県の都市計画課のHPで都市計画情報を収集。
30分で机上査定書を作り上げご自宅へ。
幸いまだ雨も風も強くなく、原付バイクにまたがりいざ発進!

◆一等地の豪邸


招かれたご自宅は優に億を超えるであろう大豪邸。。。
駐車場には高級車がずらり。
依頼者は一代でそこそこ大きな会社を築き上げた社長。

風雨も強まってきているので挨拶も早々にリビングへ。

驚くくらいの高級な調度品で埋め尽くされた空間。
トラの毛皮や壁から飛び出た鹿野の頭。
ギラギラのシャンデリアに大きな壺。。。
(うわ~・・・趣味わr)

大きなフカフカのソファに通され、前につんのめって物件資料の説明。。。
(変に大きくてふかふかのソファだと説明がやりにくいったらありゃしない)

一通りの説明が終わった後
「こんな天気の中、すぐに対応してくれてありがとう」
「しかも短時間でここまで細かい査定書を作ってくれるなんて」
「他社も電話が来たけど台風明けの時間を指定してくるばかりだったよ」

全て私の目論見が当たり第一印象はガッチリ好感触♪
(スピード命ってこういう事だよね。)
査定内容の金額も本人が予想していたのと同価格。
あれよあれよと売却をするというお話に進みました。

ずっと気になっていたのが
一代で大きな資産を築き上げた社長にしてはしょぼくれた印象。。。
声も覇気が無く、目もうつろ。。。
(なんというか大きな会社の社長が持つ特有のギラギラしたバイタリティーが感じられない。。。)

気になりながらも不動産のヒアリングを終えて、社長の身の上話を聞かせてもらう事に。
※社長さんって武勇伝語るのが大好きなので、私は相手が社長とわかると絶対に武勇伝を聞くことにしています。これで大げさに褒めるだけで一気に気に入ってもらえます♪

小一時間ほど生い立ちから家族構成、独立して会社を大きくした経緯などを聞かせてもらって
「うん、うん」
「へ~すごい!」
「さすがです!」
「それでどうしたんですか??」
とキャバ嬢の教科書みたいに相手が喋りやすいような相槌で応酬。

だんだんと気をよくした社長は本音を語りはじめます。

「実は今病院に通っていて“鬱病”と診断された」
「従業員に裏切られて会社が大きく傾いた」
「これ以上続けるよりも資産整理をしたい」

これで覇気が無くなっているのも、社長特有のオーラが無い理由も理解できた。(鬱病か。。。聞いたことあるけど実際に対応したの初めてだな。
いい勉強になりそうだ。)

気が付くと、リビングに居座ってから3時間くらいが経過していました。
がっしりとしたコンクリート造りの豪邸でも外からの風雨の音を防ぎきれなくなっています。


外からは地鳴りのようなゴォ~・・という低いうなり声。


流石にそろそろ帰らないと帰宅するのが危険な天気になってきている様子。
社長はまだまだ喋り足りない感じ・・・

そろそろ帰らないと。。。腕時計をチラッチラっという仕草ちょいちょい見せ、窓の外を気にするそぶりを見せるも・・・

武勇伝を語り悦に浸る社長は気が付きません。

・・・更に時間が経ち、ようやく外の様子に気が付いた社長が

「金城さん。今日はありがとう」
「金城さんみたいな人に不動産の相談ができてよかった」
「全部の資産をお任せします」
「外は危ないよ、気をつけないとね」

と、話を切り上げてくれました。
話の腰を折ってしまうと折角持ち上げた好印象も薄れます、
相手が気持ちよくしゃべっている間はずっと聞き役に徹するのが営業のセオリー。たとえ暴風域の帰路で命の危険が迫ろうとも。。。

作戦が功を奏して私の印象は最高潮のまま一回目の面談を終えることができました。

すぐさま翌日の専任媒介の契約のアポを取り付け暴風雨の中、原付バイクで帰路につきました。大雨で視野は狭く車体ごと右に左に右往左往。
大型案件の専任ゲットで浮かれていた私は颯爽と帰宅しました。


◆メンタルカウンセラー誕生


翌日。
台風一過の晴天。

日中は台風後の復旧作業があるので早朝に出社。
みんなが出勤してくる前に専任媒介契約書を作成し、作業後にすぐに社長のもとに行ける準備を整えました。

売り出し中の物件の復旧作業を終え、お昼過ぎの約束時間に社長のご自宅に再訪。
沖縄の人は慣れっこの光景ですが、台風後は枯れ葉や草木が色んな所にこびりついている。社長の家も例外ではない。

社長がそれらをホースで流していて、私を確認するや否や手を止めようとしたので

「止めなくていいです!一緒に掃除をしましょう!」

と媒介契約の話は後回しにして家の外壁と車を洗う事、小一時間。
上機嫌になった社長は昨日話していた武勇伝をまた語りだします。。。
しかも同じ内容をそっくりトレース・・・
(あれ?タイムリープした?)

初めて聞いたように新鮮なリアクションを繰り返しながら、気持ちよく話せるように相槌を繰り返しました。この能力を伸ばせば私もキャバ嬢になれるかもしれない。

専任媒介の契約書に署名押印を貰えたのは再訪してから5時間後くらいかな。
外はすっかり夜。
別宅と会社のビルなんかも含めると数億円の媒介になるので、何時間も同じ話を聞かされたとしても笑顔を保てるから人間って不思議・・・

今後の販売スケジュールなんかを確認してから帰宅する途中、、、

ポケットから振動が。。。ブルル・ブルル・・・

社長からの着信だろうな。
バイクなのですぐには出られず自宅の駐車場についてからすぐに折り返す

「今日はありがとう!金城さんに会えてほんとによかった!」
「もう自宅についたの?運転中じゃない?」
というお気遣いを頂き、話の流れからまさかの3回目の武勇伝に発展・・・

自宅に着いたはいいものの、私の電話の声で寝たばかりの長女を起こしちゃまずいと思い、
玄関の前で武勇伝を聞くこと2時間。。。
ようやく気が済んでくれて電話を終えた時には23時を超えていました。



◆躁鬱病の症状


翌日、物件の販売準備を行っているとまた社長からの着信。
「また武勇伝になったらキツイな・・・」
と不安がよぎりましたが

「金城さん・・・もうだめだ。」
「何もかもがダメになった。俺は死んだ方がいいんだ」
「従業員も俺を裏切って当たり前だ・・・」
「こんなにひどい奴はこの世にいない方がいい・・・」

おっと、これが噂の鬱病か。
武勇伝聞くよりきついかも・・・
一応ネットの事前知識と本を買ったので躁鬱病の人との接し方の基本は頭に入れていた。
(よし。基本的には聞いてあげる。反論はしない。頑張れ俺!)

社長は昨夜までとは違って死にたいモード全開。
ローテンションの電話が1時間ほど続き、相槌を打って言いたいことを吐き出させる。。。

頃合いを見計らって

「社長!社長の実力はこんなもんじゃないでしょ!」
「何もかも終わってきれいになってすっきりした強い社長とお酒を飲むのが自分の目標なんです!」
「凡人には一代でこんなに大きな会社を作るなんてできませんよ!」

気を悪くしないように相槌を打ちながら、大げさにヨイショをしていると気分を持ち直してくれた。

「俺頑張る!こんなことで落ち込んでいられない!金城さんと一緒に前を向くよ!」


ふう持ち直した。よかった~。。。

と元気になり4回目の武勇伝に突入・・・

うおぃ!!油断したぜこの野郎!!
とっさに別の来客が来たと言って電話を切る。

数名の部下の案件も並行して進めているのでスケジュールはパツパツ。
その合間に社長のカウンセリングの長電話。。。躁の時と鬱の時の対応も慣れてきた私。
土日昼夜を問わず着信。。。

この後約半年間、メンタルカウンセラーと不動産屋の中間管理職の二足の草鞋を履くことになるとは。。。。


◆違和感・・・



躁鬱病のカウンセリングをしながら案件を進める事数カ月。

法人名義の資産の整理。
顧問税理士と打ち合わせ。
M&Aも視野に入れた不動産売却。。。

通常の不動産売買とは違って登場人物が多く、各方面との調整も多い案件。
物件も億を超える価格なので買い手の条件なんかも精査が必要。

普通の住宅の売買よりも各方面に気を使いながらの案件。

預かってから数カ月。。。
毎日のように時間を問わず躁の状態と鬱の状態を繰り広げながら数時間の電話。すっかり社長の武勇伝は丸暗記できた。


そんな多忙な業務の中ようやく買い手の企業も決まり、税理士や司法書士などの段取りも済ませ、最終的には金融機関の融資書類の提出、というところまで話が進んだ。


長い長い道のり。
売却の話も徐々に具体的になっていき社長も少しづつ容体(精神状態)がよくなっていく感じが分かる。

そんな中少し気になる事が。。。。


鬱で落ちこんでいる時は今まで通り「死にたい」と繰り返すだけだが
躁になっている時に出てくる本心?本音?本性?
横暴で周りの人間に対する配慮が無い社長の本来の姿が見え隠れしてきた。。。。

電話の口調、買い手さんとの応対態度、奔走する顧問税理士に対する横柄な態度。。。

当初に
「従業員に裏切られて・・・」
と言っていた事の本質は
「従業員が社長の姿勢に嫌気がさして逃げだして、お客さんも従業員に流れた」
という事だったんだと気が付いた。


顧問税理士も去年別事務所から切り替えたばかりと言っていたし。。。

昔の社長の事は半年やり取りしているうちに周りの人から嫌というほど聞かされた。
正直、お客さんじゃなかったら絶対に距離を置きたくなるような人物。
ええ。そりゃもうみんな口を揃えて言うんです。
「金城さん。あの人と関わるのは辞めといた方がいいよ」って

鬱病がよくなっていくのと比例して徐々に昔の社長に戻っていく感じ。。。

一末の不安を抱えながらのM&Aの話と不動産売買。。。
買い手さんも社長の態度に徐々に不信感を募らせているのが分かります。

◆やっぱり・・・


一末の不安を胸に少しずつ前進する売買案件。。。




そんな中で融資銀行も決まり、後は契約という段取りになった時
鬱の状態の社長からの着信。。。
(嫌な予感。いやだ。まさかな。。。。


こんな嫌な予感は何故か当たる。






社長は悪びれもせずに最悪の言葉を放った。


「やっぱり売らない」

ズバン!!ストライーーーク!!!!


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沖縄の不動産という独特な世界に迷い込んでいます!明るい外の世界の事は忘れました!これからも深海をはいずります!