見出し画像

立ち退きのお話#1

こんにちは。
株式会社REGATEの金城です。

本日の案件は不動産に携わる人なら一度はぶつかる壁

「入居者の退去(立ち退き)案件」

です。

いろんな理由といろんな要因があるのが不動産ですが、
私が経験してきた中でもとっておきの案件をお披露目します。


ちょくちょく宅建の技能試験とか実技試験に出てくるような事例も加えるので12月に受験する人にはいい勉強になるはずです!
(こんなの読んでないで勉強してくだ)


ではど〜ぞ〜




◆査定依頼


梅雨時期。
連日の大雨。
売り出し中の物件の雨水の侵入とかに気を使う時期・・・


ヴーーー・ヴーーー・ヴーーー・・・

お。一年前に傾斜地の中古物件を買ってもらった松井さんからだ。


・・・何か問題でも起きたか?

電話に出るのを躊躇ってしまう・・・



不動産屋なら大雨の時の過去のお客様からの着信の時は身構えてしまうものだ。
(ここは毎年の宅建実務試験に出ます)

・・・怖い。


ヴーーー・ヴーーー・ヴーーー・・・


ええい!南無三!元気に吹き飛ばすぜ!www


「はい!金城です!松井様!ご無沙汰してま〜す♪」


・・・少し沈黙の間。


「・・・あ〜金城さん。松井です。ご無沙汰しています。あの・・・ちょっとお話があるんですが・・・」



嫌な予感がビンビン。
なんだろう?地盤沈下?土砂の流入?浸水?擁壁の傾き?雨漏り?浸水?配管?雨漏り?設備故障?浸水?
引渡一年前だし特約の瑕疵期間は過ぎているし、なんだろう???

最近は毎年のように「○年に一度の大雨」が降るから傾斜地の物件を売った後はずっと気が気ではない。いい加減に○年に一度という表現はやめた方がいいよな・・・
(宅建士の心得に書かれています)


しかもこの案件、売主さんも気難しくてやりにくかった記憶が・・・



なんだ?なんだ?

フル回転で頭を回す。





「不動産を売りたいという友達がいて、紹介してもいいですか?」

え??あ。そうそう、この方はいつも暗い感じの話し方をする人だったwww

「・・・はい!喜んで!!!!」

心配して損したよ!嬉しい大逆転♪


不安から天国へ急上昇♪

週末に相談者を連れて来店してくれるというお話に。

最後に
「他では断られたらしくて・・・」
という小さい呟きが聞こえたような聞こえないような。



◆来店面談


カランコロ〜ン♪

松井さんと一緒にきたご友人は30代前半の花田さん。

亡くなった父親の実家を売りたいという相談。

相続登記などは問題なく完了したが入居しているおばさんが出て行ってくれないとのこと。


ただ、このおばさんが曲者。

文字では難しいので簡単な概略図を・・・

スクリーンショット 2021-11-02 14.21.28



叔父さんと婚姻関係のないおばさんが叔父さんの死後も住み続けているらしい。

当初より長男である花田さんの父親が実家を貰う段取りだったが父親は海外勤務も長かったため、次男で仕事を転々としている叔父さんに「家賃も要らないから住んでもいいよ」と無償で住まわせていたらしい。


同居人は60歳くらいのおばさん。花田さんがいうには法務局に長年勤めていたが現在は無職だろうとのこと。
亡くなった叔父さんは長年の使用貸借状態。

ちなみにおばさんはいつの間にか叔父さんと同居を始めたらしい。
花田さんの記憶するところだと叔父さんとおばさんのお付き合いは20年以上と長く、10年以上は一緒に住んでいるっぽい。

祖父母はだいぶ前に亡くなっていたが相続登記などはしておらず、今年に入ってから叔父さん、お父さん、お母さんがバタバタと亡くなってしまったとのこと。
※一応事故物件(殺人)とかではない事を確認。おばさんによる犯行の可能性は薄そう・・・


ただし場所は超一等地。
たとえ事故物件でも売りに出したら即日で売れてしまうくらいのエリア。
土地の形や接道は申し分なく、おばさんさえ出て行ってくれたら更地にしてなんの苦労もせずに売れるだろう。

使用貸借なら法的な立ち位置としてはラッキーだ。
少しの手間だが追い出すことは結構容易。
賃貸借だとガッチガチに保護されるからね。。。
いかにして入居者に納得してもらいながら賃貸借状態を解除するハンコ○△×◆□◉・・・
(ここは宅建の実務試験によく出ますのでメモしてください)




ただ、。。。このおばさん。

法務局に長年務めていたとかでやたら法律知識に詳しいそぶりを見せるとのこと。

そのせいで退去してほしいと話をしてもやたらと難しい言い回しと訳の分からない法律文を振りかざすので話にならずに困っているらしい。

法律に詳しいそぶりをする入居者ほど面倒なものはない。。。。
(ここは宅建業法にも定められています)


「私を追い出すような権限はあなたには無い!根拠を示せ!」

という強気の居座り宣言を主張するらしい。。。やれやれだ。



◆使用貸借?時効?



ある程度の概要を聞き取ったところでひとまず整理。

現段階ではおばさんが出ていく気配はなし。
婚姻関係のないおばさんには相続分はおろか遺留分もない。


花田さんの父親の死後に祖父名義の土地建物を花田さんに相続登記したとのこと。

戸籍関連の資料もばっちり揃っていておばさんの出る幕は見当たらない。


賃貸借関係も無いので法的な保護も薄い。

それなのに何故こんなに強気で退去をしないと主張できるのか?



ここでピンときた。

「花田さん。おばさんって時効とかって言ってなかったですか?」
「あ~・・・そういえばそんなことを言っていたような。。。
いつも早口で法律用語っぽい事を言うので・・・
時効ってあの警察とかドラマでやるやつですよね?
小難しく意味が分からない事を言う人なので確かそんなことも言っていたかもしれません。すみませんよく覚えていなくて・・・」



なるほど。おばさんの狙いは時効取得が濃厚か?
花田さんはその辺はよくわかっていないみたいだ。
既に10年以上は住んでいるらしいから善意の時効主張はできることにはなる。

使用貸借ではなく自己の居住の用として住んでいたと言い張るつもりかもな。
にしても時効を主張するにしても材料が足りなさすぎる気もするが・・・


「花田さん。わかりました。少し確認してから作戦を練りましょう。また連絡差し上げます」



◆弁護士の見解


花田さんを帰した後に弁護士に相談する。


「まずこの件は不法占有は認められない。
おばさんが勝手に住み着いたわけではなく、内縁の叔父さんと長年同居していたという事実があるから違法性が見当たらない。

ただ金城さん。一応立ち退きさせる事は可能だよ。
亡くなった叔父さんとお父さんの使用貸借の根拠(証拠)を見つける事が出来ればだけどね。あと、祖父からお父さんに遺贈するような書面とか。。。叔父さんには贈与していないという書面とか。。。多分ないよなぁ・・・」


そこなんだよな。あるとすればその辺の書類も全ておばさんの住んでいる物件にあるはず。。。狡猾なおばさんが不利になるような書類を見せるとも思えないし、既に捨ててしまっている可能性も否定できない。
いや、弟を実家に住まわせていてわざわざ賃貸借契約とか使用貸借契約の書面を用意する方が珍しいか。
親子間・兄弟間の使用貸借なんて普通なら口頭のみだもんな。

祖父から父への遺贈とかの書類も・・・ないだろうな。。。



弁護士は続ける。

「あと、おばさんが時効を主張するとしてもする“ふり”だと思う。
まず、時効の10年の善意無過失はあり得ない。
そもそも婚姻関係もない人の家に上がり込んで平然と自己の所有として住み続けているというのは流石に無理がある。何か考えがありそうな空気がぷんぷんするけどね。

もしかしたらもう少しで20年経つかもしれないし、そこで悪意の時効の援用を主張するっていう可能性も否定できないよね。
20年前に叔父さんから物件を貰ったといって主張してくる可能性は否定できない。
ま、それでもかなり無茶な言い分だから裁判所が認めないとは思うけど、おばさんとしては無料で住んでいられる期間をできるだけ引き伸ばしたいのかもしれない。
あとは叔父さんにお金を貸していてその貸付金を代物弁済してもらうことでこの家を貰ったと主張するとか。

なんにせよ確実に対抗するためには第三者に所有権を移転してしまって、時効の完成後なら時効の要件を無くすこと、時効の完成前なら第三者に所有権を移転したことで新たな賃貸借(使用貸借)関係を明確にする。くらいかな。

おばさんが時効の援用を主張してきた場合に「相続」だと時効期間も引き継がれるけど、第三者に所有権を移転してしまうとおばさんは何も主張できなくなる。

叔父さんからおばさんへの生前贈与とかの可能性もあり得るけど、主張するには向こう側の材料が不足しすぎているし。。。
土地建物が第三者に移転したら今までの身内のやりとりから他人同士のやりとりになる。そうなるとおばさんも強気ではいられなくなる。
あくまでも仮説でしかないけど。。。追い出すことは可能だけどハードルは高いことに変わりがないね。

正直なところ追い出すのはかなり苦戦すると思った方がいいね。
しかも相手が法律に詳しいなら厳重に警戒しないとね。」


時効。。。生前贈与。。。代物弁済。。。さすが弁護士さん。
いろんな難しいハードルをすぐに想定してくれる。
全て現実にならないことを祈るけどw


対抗するには第三者に所有権移転ね。これはすぐに思いついた。

けどこんな得体の知れないおばさんが住み着いた物件を事情を知った上で購入する一般人はいないだろう。
さらにこんな物件に銀行が融資しないだろ。。。
融資したとしてもおばさんを追い出さないと使えないとなると住宅ローンは厳しいし、、、、そもそもおばさんが出て行く気が全くないし。。。

でも追い出さないと話が進まない。。。

そのまま追い出さずに買う人がいるとするならばエリアの相場を熟知している老舗のおじいちゃん不動産屋さんでこれを現金で買えて、さらに退去とかの裁判沙汰が好きな人くらいじゃないか?
裁判好きの地場二桁のおっさん業者か・・・やりにくいな。
(これも試験に出ますので要チェック)


・・・はぁ。暗闇からの出口がものすごく遠い。売れる気がしなくなってきたwww


長くなったので続きは次回。


次回予告

おばさんとの全面対決?
果たして物件は売れるのか?
もの好きな地場二桁のおっさんはいるのか?

次回:立ち退きのお話#2

では〜

HPでは不動産に関することとか沖縄の不動産あるあるについてのコラムを公開しています!
ご興味がある方はそちらもお読みください♪
沖縄不動産あるある→REGATEコラム
不動産テックのこととかそんな感じ→REGATEコラム






沖縄の不動産という独特な世界に迷い込んでいます!明るい外の世界の事は忘れました!これからも深海をはいずります!