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実家のヨーキー

大正生まれの父が全ての仕事を辞めてから少しおかしかった。
時間通りに生活する偏屈で生真面目な父が眠ってばかりいる。
本人も気づいていたようだが周りもこりゃ、どうしたものか?と心配した。
犬を飼ったらどうだろうとこっそり知人のペットショップでヨーキーを買った。
貰い手探しに苦労してる猫ならたくさん居るのに父は猫のが大嫌いなのだ。
驚いたのはその晩、母から電話で「オレ、犬を飼おうかな?」と父が言い出したことだ。
私は父に言った。
「実は貰い手を探しているヨーキーの子犬がいるの。友達のお姉さんが気紛れで買ったけどやっぱり要らないって放りだした子なの」
友達のお姉さんは我が家でそうゆう事もやるだろうと認識されていた。
父は信じた。
お天気屋で犬にも感情を爆発させたりもしたが犬は一途に父を愛した。
父も可愛がった。
でも全ての対外的世話は私の役目となった。
貰ってやった、お前が連れてきたと。
病院も美容院も予防注射も私の役目となった。
名前はトランプ。
このトランプ、仮病を使うのだ。
チヤホヤされることに至福を感じるらしい。
前足を引きずりさも痛そうに歩く。
そのたびに私が呼び出された。
ある日トランプはまた足を引きずった。
右足のはずなのに病院では左足を引きずった。
コイツはぁ〜
だが、あのお天気爺さんを死ぬまで慕ってくれた恩義があるから仮病も許そう。
雷も花火も散歩も坂道も大嫌いだった。


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