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Cash for Workを通じて生活困窮者の生活再建を支援するー2億円×2回の助成プログラムから見えてきたものー

多摩大学社会的投資研究所主催 第26回インパクト・サロン 「フィランソロピーの革新:日本における戦略的グラント・メイキングの新たな潮流」にて、代表加藤が登壇させていただきました。

今回のセミナーでは、グローバル・フィランソロピーの多様な革新的手法をご紹介した上で、休眠預金資金制度の資金分配団体としてユニークな助成活動を行っている団体の方々をお招きし、日本における戦略的グラント・メイキングの新たな発展の可能性を探ります。

https://tama-csi20211025.peatix.com/

コロナ禍の中で最大規模の助成プログラムの立ち上げは加藤にとっても大きなチャレンジでしたが、その工夫は何だったのでしょうか?

以下、講演でのスライド資料と、文字起こしです。

ありがとうございます。
実は主催者の小林さん(※本セミナーの主催者、多摩大学投資研究所 小林立明さん)と最初にお会いしたのがアメリカだったんですけれども、我々が財団や助成を始めるきっかけも、アメリカからの支援でした。

震災復興の時に財団の前身になる社団法人を立ち上げたんですけれども、日系のアメリカ人やアメリカの財団と出会い、なぜ、この人たちはわざわざ違う国に長年の支援をしてくれるのか、しかも現地に何度も通ってくれるのか? そう思って、米国も訪問させて頂き、フィランソロピーというのはそういう献身的な行為が当たり前であるとか、それを支える仕組みがこうなっているのかということを学ばせていただいて、その中で小林さんにもお会いしました。そんな流れの中で、今日のこの場があることを非常に嬉しく思っています。


資金に依存しても、社会的成果は生まれなかった


まず私が何者か、我々が何を学んできたか、といったことを少しお話しさせてください。

この5年ぐらいは自分で資金を集めて助成をする、投資をするというような財団をさせていただいてます。

こういう財団は、アメリカだとポピュラーな市民財団のスタイルなんですが、あまりこういう自由闊達な財団がなかったので自分達で作った、というのが我々の財団ですね。

私自身はそれまでにNPOやソーシャルビジネスの支援をフリーランスでしていました。事業の立て直し、スケールアウト的な事業もさせていただいて、助成の経験も一部あったのですが、その限界もずいぶん思い知った20代でした。

それにいたる前はベンチャー投資のキャリアでした。ビジネスセクターにおり、どうやって企業を上場させるかとか数百億数千億の事業に育てるかといったことを考えていたんですが、この世界に行くよりもソーシャルセクターに行った方が楽しいんじゃないだろうかという勘違いをしてですね、今のような仕事に至っています。

いくつかそのキャリアで勉強になったことがありました。当時はベンチャー投資の世界にいたもんですから、お金で世界を変えられるんじゃないか、技術があれば世界が変わるんじゃないか、という勘違いをしていました。

ただ、ずいぶんいろいろな起業家と話したり自分でご支援をさせていただいたりして、お金の量とインパクトの量がほぼ関係ないという不思議な結論に至りました。

それがなぜそうなのか、ということはディスカッションの中でもお話ができればいいかなと思ってます。

もうひとつは資金に意味がない、まったく意味がないわけではないんですよね。当事者に確かに支援を届けることもできるし、ただ、資金に必要以上に頼るとロクなことがない、というのがずいぶん分かりました。

ただ、資金提供を機会に、どういう支援をするか、一体どういうプラットフォームを作っていくか、中長期に何を考えるかとか、きっかけを作れるんですよね。そういったところが非常に重要だなと思っています。

今回は休眠預金の資金を受けて、年間2億円という資金を2回に分けて提供させていただくという機会をいただきました。

社会の変え方って実は現場で結構わかってたりするんですけど、データになっていなかったり、論理的な検証が入っていなくて。経験、勘、みたいな世界にまだ陥ってるんですよね。

助成と合わせて、社会の変え方のエビデンスをとっていけば、それがずいぶん解消できるんだということがわかってきたところです。そんなことを今日はお話しできればいいかなと。

予算の切れ目でプロジェクトが終われば、成果は出ない

そもそもの我々のご紹介なんですけれども、日本の非営利の資金の供給は行政の資金の供給が多いものですから、短期の資金の流れ、したがって短期の思考しかできない。

予算の切れ目ですべてのプロジェクトが終わってしまうことが非常に多くて、それが結果的に様々な排除に結びついてるんだろう、という実感を持っています。

休眠預金もそうだとは思うんですけれども、長期的な成果を目指せる資金の流入がもう少し長期的な視野で行われれば、競争も始まり長期的な視野で物事に取り組みができ、成果も出てくる。

「社会の変え方」が分かっているなら、科学的なデータにする必要がある

そういう変化の中に、ちょうど時代として我々はいるのかなと思っています。もちろん長期的な資金があれば、何が結果だったのか、どうやって変化を起こせるのかという検証は簡単ですので、取ればいいですよね。

実は日本の政策も調査をするとどう効果があったかというデータがないんですよね。白書とかはあるんですけれども。政策単位で結果をとらない。

実は休眠預金では数億円単位で資金提供できるので、こういうデータを取って、検証していくというアプローチは中央行政の政策とも補完的なんじゃないだろうかと思い始めたところです。

行政の資金というのは不正行為を防ぐようなデザインが大きいですから、当事者にプラスのインセンティブをつける、というようなことができないんですよね。例えば就労が可能になった人がさらに生活を安定させるための賃金を上げる、成果を定着させるというようなプラスのデザインとかができないんですね。

我々は資金を預かる財団として設計をしてるんですが、その資金があることでですね、休眠預金みたいなものを利用させていただいて、ずいぶん有機的な支援ができるようになってきたところです。

キャッシュフォーワーク(Cash for Work)とは

今回お話しするのがキャッシュフォーワークという仕組みなんですけれども、グローバルには定評のある仕組みです。

災害の復興の際によく使われる仕組みなんです。津波とか震災とか、そういう現場でがれきの撤去とか泥かきとかそういう仕事って無数に出てくるじゃないですか。

そういう仕事をですね、被災された方々自身がやればいいよねというやり方なんです。今回ひょっとしたらコロナに使えるんじゃないかなということで休眠預金にご提案をさせていただいて、素晴らしい機会をいただきました。

休眠預金というのはもともとは国民の資金です。だから、どういうふうに使われたんですか、っていうことを説明しなければいけない。もちろんコロナ禍での緊急事業としてお預かりしている資金で、緊急性があるニーズに対して応えていかなければいけない。

これまで、年間数千万の資金をお預かりしたことはあったんですけれども、2億円もの資金をコロナ禍で使うというのはすごいチャレンジでした。まるで、トラックの運転をするような気分でやってたんですね。それをどうコントロールして、どういう成果が出たかをこれからお話しできれば。

もうひとつ、これは我々が勝手につけただけなんですが、今後の緊急支援で使える何かを開発して次に残そう、ということを決めて提案をさせていただきました。それがなんとなくはできたのかなというのが今のタイミングです。

確認になるんですが、コロナ禍での失業者はものすごく多くてですね、特に非正規雇用の若者が多かったんです。彼らと我々、ここにいらっしゃる方々のキャリアの断絶っていうのはものすごく大きくて、そういった若者に支援を届けることができたというのが1つの実績になったかなと思っています。

キャッシュフォーワーク手法の特徴は、最低賃金での雇用が標準なんですね。最低賃金で雇用するというやり方がなかなか機能するんだ、というのを言われていたんですが、やはり機能したというのが確認できました。

日本は生活保護、なかなかに受給が難しいという問題はあるんですけれども、生活保護が向いている方だったら生活保護や障害手帳やなにか、そういった福祉のものを使えばいい。

一方で労働市場にすぐ帰られる方々、仕事のある方々もいらっしゃるので、その間にいる方々を何かしていただくのに、キャッシュフォーワーク、最低賃金で雇用するという仕組みが非常に機能しました。

当たり前なんですが、コロナや地震のような巨大災害って、どういう仕事が必要になるかって変わっちゃうわけですね。

その瞬間に、こういう仕事って必要だよねと提案してくれるNPOやソーシャルビジネスがいれば、ずいぶん世の中が変わるんだということがわかった。

ただ、このキャッシュフォーワーク、雇用型のモデルですので、ある程度まとまった資金が必要で、それを提供いただいたのが休眠預金等活用事業でした。

被災した方々を見つけ、適切なステップをくみ上げ、出口まで見つける


被災者に仕事をしてもらうっていうのは、言えば簡単ですがなかなか大変でして、誰がどこで被災されてて失業されて仕事欲しいのか、突き止めなきゃいけない。

かつ生活に困っているのか、仕事に困ってるのか、何らかの特性を抱えているのか、障害を抱えているのか、そうじゃないのかで、どういう仕事をしていただくか、どういうステップでやっていただくか、まったく違うわけですね。

そういった方々に適切なトレーニングも用意しながら、かつ、なんらかの地域に貢献をしてもらいましょうよというのがキャッシュフォーワークのスキームですね。

難しいですよね。しかもコロナ禍の中ですよね。途中でコロナの感染がひどくなって事業も中止に追い込まれるかもしれないし、ICTをどこまで利用したらいいのかわからない頃に始めましたので。大変だけど、就労支援のNPOって日本でも力のある分野なので、ギリギリできるんじゃないかなと思って、資金を提供させていただき、我々も悩みながらやってですね。

どうやら若者に絞ったせいでハローワークの年齢制限に引っかかってしまうとか、いろんな問題があったんですけれども、乗り越えてやらせていただきました。

たとえば飲食の若者がデリバリーの仕事をトレーニングをしたNPO。また別の団体で、こちらは非正規雇用の美容部員が多かったんですけど、対面でサービスをする職業っていうのはコロナでずいぶん減りました。そういう方々が福祉関連、福祉と美容の間ぐらいの仕事に就くというトレーニングや課題解決に参画していただきました。

共通の条件を設定するだけで、成果の比較が可能になる

失業した若者を雇用してくださいという前提で助成の仕組みを作ったんですが、その条件をつけたことで誰を雇用したのか、どういう状況に置かれていてどういう支援が必要なのか見た目がずいぶん見えるようになりました。

傾向として多かったのはワーキングプアの男性、あとはシングルマザー、あともうひとつは、北海道とかが特徴的だったんですが、学生でバイトがなくなった、さらにそれだけではなく親御さんたちも経済的なダメージを受けていて、このままでは学校を辞めざるを得ない方々がご参画いただきました。

就労支援アプローチ、地域分布、成長ステージ、全ての要素でリスクを分散させる


2億円も資金を提供いただくと、結果を出せないという選択肢はない、というのはかなり焦っていたんですけど、だいたい見たような世界がコントロールできましたということですね。これは、かなりデイリーにコントロールしながらやってるんですが、それどうやったんですかって最後にお話しして終わろうと思ってます。

結果として、臨時の雇用では終わらず、中間的就労と言ったりするんですが、福祉と労働市場の間ぐらいの雇用を事業として立ち上げるような団体からも、今期は提案をいただいているところです。

本当に2億円の資金の借りってプレッシャーが大変でして、持てる経営技術を全部使いながらやっていました。

まずは財務モデルを作ってですね。資金どういうふうに分配するんだろうとか、そのロジックを作ってコントロールしながらやりました。

休眠預金は全国のみなさんのお金ですよね。そうすると、全国の地域に戻すのが必要だろうということで、地域バランス、成長ステージ、事業の規模感でバランスをとりました。

あとは次のページでもお見せするんですが、就労支援っていってもいろんなアプローチがあるもんですから、どこかのアプローチがうまくいかない、逆にどこかのアプローチがうまくいく、というようものがあるだろうと偏りを防ぐようにはしました。

こんないろんなテクニックを使い回して、何とか成果をコントロールして、っていうのが前年度の事業でした。

助成を通じて、偏見や格差を再生産させてはいけない

また、外国人の労働者など特に不利益を受けた方々の支援をどう組み込むのか、入れるんだったらどういう条件にするのかということは考えさせられました。

グローバルのフィランソロピーで最近言われてきているのが、慈善行為や社会のためにお金を使った結果、偏見や排除が生まれることって少なくないよねということなんです。それには陥らないように細心の心を配りながら気をつけながらポートフォリオを組みました。


インパクト評価2.0の可能性

もうそろそろ最後なんですが、お金を出す代わりちゃんとデータをとってね、っていうようなリサーチデザインを組み込めることがわかりました。

その中でインパクトアセスメントみたいなものって言われ始めているのですが、問題も大きいんです。インパクトアセスメントって半年とか1年かけながら評価することが多いんですが、1カ月とか1日とか1週間単位でデータをとって、改善を繰り返していけばいい、という現場よりの考え方がこのインパクト評価2.0というアプローチなんです。

共通の条件さえセットされていれば、A団体がうまくいってるからB団体もやろうよということって、デザインさえしっかりしていれば簡単なんです。ひょっとするとこのやり方っていうのは、休眠預金ぐらいの資金規模には相性がいいのではないかと思っています。

政策評価にはインパクトアセスメント1.0の世界ですとか、いわゆるRCTみたいのって重要だとは思うんですが、こういう実践知や実践のデータみたいなものをうまく集計して戻していく、そういうやり方ができるんじゃないかなということがわかってきたところです。


データがあるとですね、いろんな統計もやれるんじゃないかとかって勘違いをし始めてちらっとやり始めたんですが。これクラスター分析です。簡単な機械学習をやりはじめています。あんまりお金かけていないんですが、こういった統計分析はデータが整理されていれば簡単なんです。もちろん、エビデンスのレベルを上げていくこともできる。

繰り返しになるんですが、我々工夫したのは受益者を絞っただけなんですね。所得を失った若者を雇用してくださいと。

そうすると、結果を比較することが可能になるので、どういう対象層でどういう効果があったかとか、その後KFS、成功要因みたいなものが見えるようになった。これがこの1年の最大の学びでした。


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