『まるで何にもなかったの』
北のたよりは?
何を見たのか と聞かれても
なにも。
としか言えなくて
何かを感じたくて出向いた自らを
恥ずかしくさえ思え
何もないからこその傷痕に
黙って虚空を見つめていた
見えないものをみることが
いいことなのかも判らずに
静かに心のシャッターを切る
置いてきぼりの傾いだ家が
泣きべそをかくように建っていて
そこにあった団欒を
黙っていても感じるから
茶色く染まったカーテンが
あの日を物語って悲しい
もうすぐ雪が降る
冬が唇に人差し指を立てて
しいーっ、
しいーっ
と呟きながら
全てを覆い 埋め尽くそうと
まるで何もなかったように
銀箔の美しい雪を降らせる
まるでなんにも
なかったように。