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時雨とエヴィルは致命的な一撃を見舞う

~Shigure & Eville are Leading Deadly Strikes.

レッズ・エララ神話体系 中世篇「時雨とエヴィル」シリーズ

(英語サブタイを語頭縦読みしてはいけない。それは所詮掲示板文化……)

原案:小西(原テキスト)
編集:8TR残田(アカウント管理人)

乾いた道の上で、剣聖少女時雨ちゃんと、鎧に身を包んだモサい中年男が相対してる。
白g……もとい銀髪の青年は暇そにしてる。

自分のことを何らかの熟練者と抜かす奴は大抵中級止まりなのだが。
そこはまあ、人間30歳も過ぎると、新しく心打ち抜かれたりとか、己の技量がずんずん上達するとかはなくなってくるので、「自分のこれまで」を誇る以外に脳が無くなる、って理屈だ。
それを知ってか知らずか、講釈垂れるは、盾マスターの盾談議。

盾マスター(以下盾)「くくっ……(悪い笑み)。我が家宝の竜紋盾。この巨大さをもって半身を隠す(よっこいしょ)。また自在に構えるこの膂力をもってすれば、いかなる剣も槍も我が身を傷つけること能わず!」

黒魔術師エヴィル(以下エ)
「はーん。確かに左半身はほぼ盾に隠されている。半身になれば、盾に隠れないのは右手の短槍と覗き見る目くらいか。
これは確かに狙うのは難しいだろうなぁ。こっちが攻撃モーションに入ったら残り右半身引っ込めりゃいいんだし」

青年は一応話に付き合ってあげている。
それを知ってか知らずか、講釈垂れるは、盾マスター。

盾「ほほぅ、黒魔術師。勇猛さを介さないようなひょろ輩にもこの盾、そして我が御業……戦略戦術の偉大さが理解できると見える」
エ「(ツッコミどころから目をそらしつつ)戦略戦術はただの計算であり、勇猛さが必要とか初めて聞いたわ。最初から属人性の高い不確定要素を取り入れてどうするよ……メモメモ(この青年、面白い発言はメモする癖がある)
……それで、偉大なワザ?ってやつだが……そうだなぁ、広い世の中、それをしのぐ達人なんて幾らでもいるし、早い話がおまーの目の前にいるし」
盾「小娘でも剣を持って眼前に立てば敵。物の数にもならんが我が功の端にでも並べてやろう」
エ「とりあえず、口上としてはこんなもんでいいかな。じゃあ時雨先生、出番です」
剣聖少女時雨ちゃん(以下時)「……え? てっきりエヴィル君がやるのかと思ってたよ」
エ「そこはほら、どう考えても俺様が圧勝しちゃうだろ。面白くないだろ」
時「面白いとかどうとかそういう話かなぁ」
エ「なんなら二人同時にでも構わんぞ。まず小娘を片付けてから、遠間にしか立てない魔導士を始末してやろう」
エ「それ弓使いにも言おうや」
時「うーん……結局、私がやるのかな」
エ「時雨君の方が近い」
時「厄介払いだよね、それ。……まぁいいや」

恐ろしいほど何の力みもなく刀を抜く時雨。
構えも取らず、ついっと妖刀・落葉(らくよう)を持ち上げる。
流石に講釈も無くなった盾自慢。油断なく盾を突き出し、自らの体をその後ろに隠す。

事ここに至っては、何の合図もいるまい。
しかし、クドクドした言葉遣いの割にはイマイチ知性の感じられない会話の流れに退屈を覚えていたエヴィルは、あくび交じりに足元の小石を蹴った。

ひょいっ、
かつん……

ーーーがらん。


結果として、「元」盾自慢の眼前に、時雨は立ち、落葉をゆっくりと鞘に納めており。

かちん。鍔鳴り。納刀。

男が構えていた盾は、真っ二つに割れて、地に落ちていた。

時「そもそも、絶対に盾が割れない、って話じゃないよね?」
エ「……いやいや時雨君。俺様があんなに『隠れてる相手を狙うのは至難』って話を振ってるわけじゃないか。その辺は拾ってくれるべきじゃなかろうか」
時「できて当然、って【振り】を拾っても面白くないんじゃない?」
エ「そもそものお題がイマイチだった時点でダメかー。【善き問いは良き答えに勝る】ってのはこのことかー」
時「格言の良さが薄れていくね、あはは」

元盾自慢、茫然自失。

確かに自慢するだけの事はあり、木板になめし皮、さらには鉄板を2層にも重ねた大盾であるからして、頑健さは今更語るほどのこともない。
傷をつけることはできたとしても、割るとは......否、この手に伝わった感触は……「切る」のそれであった。
彼の驚愕、想像の埒外だったのは言うまでもない。

時雨からすれば、銀コーティングだの、二層だのといったところで、動かない「板」をどうするか、など考えるまでもない事で。
速度がのった刃を最適な角度で接触させるという技。断面接触の角度の調節の技。そもそもの速度の圧倒的……どうとでも「切る」事はできるので。

「……エヴィル君の話にのるのはシャクだけど、考えればもう少し面白い事はできたかな」
「そうそう。的確にあいつの爪だけはがしたり」
「え。めんどくさい。エヴィル君がやりたいだけじゃん」
「さいですか」
「切るって事に固執せずに、爆発させたり、粉砕したり...まぁそういうのもあったかなって」
「『気』かー。それは後学のためにも見ておきたかったな」

元盾(以下略)は、完全に二人の意識の外に置かれてしまっている事を自覚していたが...流石に「油断したなこのボケがー!」と槍を突き出すほどゲスではなかった。
というより、さっさと逃げたかった。もう何もかもやる気がなくなっていた。夏コミでコミケ会場直前まで来ていて、財布の中身がカラっけつだったら、もう帰るだろう。居たくないだろう。手持ちのSUICAでどうしろっていうんだ。

……あぁ。なんでこんな往来で領民いびりなどやっていたのか。
ここにいなければこんな通りすがりの変な二人組になど関わらずにすんだだろうに……。

無我の境地に至るほどの集中力で、全力後悔してる盾マスターである。
そして時雨とエヴィルは「かっこ面白い盾の壊し方」についてあーでもないこーでもないを議論するのであった。

……なお、この盾マスター、その後ずっとしてから、
「言葉遣いは仰々しいが、割と内容がない話をする酒場のマスター」
として、町の酒場で人気者となる。
割られた盾を、ヤケっぱちで防具屋に売ったら、わりとびっくりするほどの値段で買われたからだ。

この時の盾マスターの感情は二つ。
(1)えっ、こんな状態でそんな高額になるのか!
(2)家宝が売られていく……嗚呼……嗚呼……!

で、さらに後になって知ったことには、この防具屋は情けでこうしたのではなくて、よく出来た盾を手ごろなバックラー(小さい盾)に再改造。その際に盾の構造を熟知し、この重層構造のバックラーを安価に大量工場生産し、大儲けをした。つまりは初期投資であった。
この時の盾マスターの感情はさらにひとつ。

(3)ヤ・ラ・レ・ター!!

この時のショックで、戦士としての矜持が根底から折られ、これ以降は一市民として生活していこう、と思ったとかなんとか。

……当時、私が真が真に戦慄したのは、もちろん盾マスターではない。この防具屋である。彼は「高い性能を持つ防具を、大量生産システム化を基にして、不労所得を得る」という目論見をしていた。防具屋の頭にはこのように「ラクして儲かる」術の絵が描けていた。必要なのは、「良き防具の設計図を超安価で!」だった。それさえあれば、あとはシステムに乗せればいいだけのこと。
防具屋にとっては、盾が家宝だとか、割れてるとか、そういうことはどうでもよかった。むしろ割れてるということが、バックラーとしての構造デザインのヒントにさえなった。さらには適度に小さいということが、余計に売れるタネとなった。
教訓は一つ。「頑張れば強くなる」のではない……「周到な準備をした上で、炸裂するようなタイミングでbet(投資)すれば、経済は恐ろしく回転し、強くなる」ということだ。

かくして、この防具屋は、
(1)普通の市民が一生かかってようやく得られるだけの財産をほぼ半年で得た。
(2)「防具の歴史」を紐解くに、この地域の防具のレベルが3LVくらい上昇した。

こうして、剣聖は鼻持ちならない二流をぶっ潰したが、意外にその後、華が咲くこともあったのだなぁと。風が吹けば桶屋が儲かる。ただし桶屋は計算に次ぐ計算を周到に進めていた……。

ーーだが。さらに言えば。
私はかつて、この不労所得の防具屋を「うまいことやるなぁ」とは思ったが、今の視点から見ると、「1を100にした」だけに過ぎないのではないか?と思う。

恐らくは……。
「0から、恐るべき1」を作った、この盾の製作者と。
その恐るべき「1」を、本当に何でもなく斬ってしまう才能と技を持った時雨君という。
「凡人の群れ」の中からは生まれ出ないこの二つの異才ーー異常才能ーーこそが、今なお、私の理解を超える。
だから。
私がこの第12巻「英雄と悪漢」編で書こうとしている人物伝は、私の理解を超えていった者たちについて書こうと思うのだ。

ーーエヴィル・レッド『レッズ・エララ神話体系』第12巻「英雄と悪漢」編より「その盾は何をもたらしたか?」

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