見出し画像

#208 北へ向かう列車

国境は日本人にとって実感することは稀であり、馴染みの無いものだが、地続きになっている国々にとっては大きな意味を持つ。

例えば38度線。
正確には国境では無く、軍事境界線だが、人を分かつと言う意味に於いてほぼ同義だろう。
家族、血縁であっても「向こう側」にいる者とは容易く会えない現実。
水鳥は自由にむらがり飛び交っているのに。

或いはアメリカ合州国・メキシコ国境。
アメリカ側から見る国境は単なる「国の境」でしかないが、メキシコ側から見るそれは希望と光の溢れる夢の国への入り口だろう。
しかも、メキシコのみならずそれより南の国々の人々も北上し、「夢の国」を目指すのだ。

貧困、景気の悪化から来る経済の滞り、失業、暴力、犯罪、そして荒んだ心。
貧困が悲劇を生み、悲劇が貧困を再生産する。
このままでは自国にも自分にも未来は無い。

そうであるなら、それら全てを払拭出来る可能性のある「向こう側」へ行こうと言うのも理解出来る。

しかし、その国境へ辿り着ける者は幸運である。
多くが途中で見つかり、運良く新たな国へ辿り着けた者も捕らえられ、国へ強制送還されるからだ。

捕まるだけならまだいい。
追ってくるのは警察だけではない。
自分の命を狙ってくる闇組織の追手から逃げなければならない者もいる。

正式に国を越える許可を持たぬ者にとっては「隠れ」ながら「逃げ」ながら「紛れ」ながら北を目指すしか方法は無い。

この映画 "闇の列車 光の旅"はまさにそんな状況下にある人々を描きながら、負の悪循環から出て行こうとする者、留まろうとする者、両者 それぞれの思惑と逡巡と決意を縦糸に、仲間と掟と情を横糸に紡ぎ出されたロードムービーだが、そう呼ぶにはあまりにも過酷な旅路である。

リアルな描写、作品を通して流れる澱のような重苦しさ、誇張している部分はあるに違いないが、中米の"現在進行形"を伝えるドキュメントのように思える。
(作品は2009年制作)

しかし彼らが目指した「夢の国」は本当に今でもそうあり続けているのだろうか。
ラストシーンの先には何が待ち受けているのだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?