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#107 情熱のピアニズム

全くもって「天才」という言葉は便利なものだ。
真似の出来ない発想や技能を目にした時、その言葉を使えば理解したように思えてしまうからだ。

全身の骨が折れた状態で生まれて来たミッシェル・ペトルチアーニという男。

フランス人として、ジャズレーベル の名門ブルーノートと契約した初の人物であり、自身の名を冠したリーダーアルバム"Michel Petrucciani"は大ヒット。
(ブルーノート と契約したのはもう少し後である。)

その時点ではまだ18歳にもかかわらず、その艶やかにして繊細、甘美にして大胆なピアノは明らかにビルエバンスの影響を受けており、若干の若さを感じさせるものの、将来ジャズジャイアントに比肩しうる存在になるのではないかという予感を持たせるものだ。

だが、彼には時間があまりなかった。
生まれつき骨形成不全症という疾患を持ち、20歳前後の寿命と告げられていたからだ。

それでも彼には音楽があった。
ジャズがあった。
ピアノがあった。

その後の名演と呼ぶにふさわしいパフォーマンスはいつまでもその輝きを失うことはないだろう。

自信家で、奔放で、女好きで、ドラッグに手を出し、そのうえ気難しいと云うどうしようもない私生活なのだが、それが困った事に最高のジャズミュージシャンなのだ。
魅力溢れる"ロック"野郎なのだ。

強く鍵盤を叩けば折れてしまう脆い指から紡ぎ出される極上のメロディ。
その類稀な才能は やはり天才と言う言葉を使わずにはいられない。

映画「情熱のピアニズム」。
全ての人にとは言わないが、音楽好きは勿論のこと、凄まじく凝縮された人生とはどういったものか興味ある人には強く薦めたい作品である。

自分の好きなように生きた彼は、やはり周りの願いを顧みず勝手にこの世から去ってしまった。
36年間という短い時間を駆け抜けた彼は、今パリにあるペール・ラシェーズ墓地に埋葬されている。
ショパンの近くに眠る彼の墓前にいつか立ってみたいものだ。

「人間であるために、身長が180cmある必要はないことを人々は理解しない。大切なのは、頭と体の中にあるもの、特に精神の中にあるものなんだ。」

ミッシェル・ペトルチアーニ

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