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育鵬社・自由社・令和書籍教科書は絶対にダメ よりよい教科書を中学生に届けよう!

 今日は日本軍「慰安婦」問題から少しだけ離れて、教科書の話をしたいと思います。とはいえ日本軍「慰安婦」問題と全く無関係というわけでもありません。
 この夏、来年度から中学校で使用される教科書の採択が行われます。大昔であれば「文科省の検定を通過しているのだからどこの教科書でも一緒でしょ」ということができたのですが、この20年間で「新しい歴史教科書をつくる会」に端を発した歴史修正主義勢力が強くなり、今年は歴史教科書では育鵬社・自由社・令和書籍という3社の歴史修正主義教科書が、公民教科書では育鵬社・自由社という2社の反人権的で憲法改正を主張する教科書が文科省の教科書検定を合格し、各教育委員会の採択の対象となっています。育鵬社と自由社は「新しい歴史教科書をつくる会」が分裂して、現実路線をとっているのが育鵬社、より原則的なのが自由社と思ってください。令和書籍は右翼の竹田恒泰が作っている教科書です。
 今回初めて文科省の教科書検定を合格した令和書籍の歴史教科書が、史実に基づかないウソの「慰安婦」記述をしているということは、先月アピールしました。
 しかし令和書籍の歴史教科書は他の教科書と異なり、縦書き白黒で分厚く、内容も物語の羅列で、おおよそ教科書の体をなしていません。極右の思想を持った私学の社会科教師が選ぶならまだしも、子どもの教育に責任を持つ自治体の教育委員が令和書籍の教科書を採択するとはとても思えません。
 残る2社は、育鵬社と自由社なのですけれど、公立中学校で実際に採択されそうという意味で、最も危険な教科書はやはり育鵬社です。

 6月20日、私は休みを取って地元の教育センターに行き、来年度使用の歴史・公民・道徳教科書を閲覧してきました。名簿には市内市外からのかなりの来訪者の名前があり、その何割か(大半?)が右翼かと思うと気が重くなります。そこでは市民の意見が書けるので、教科書採択に関して私たちの意見を反映させることができます。私も意見を書いてきました。

1,多面的多角的な学びの帝国書院・学び舎の歴史教科書
  皇国史観を押し付ける育鵬社・自由社 (令和書籍は論外)

 歴史教科書に関して、育鵬社・自由社・令和書籍が批判の対象であることはいうまでもありませんが、教科書の完成度からみても特に育鵬社は要注意です。その根底の思想には皇国史観があり、神武天皇が実在の天皇であるかのように記述していたり、大仙古墳が秦の始皇帝陵よりも大きいから日本はすごいんだというような日本礼賛が顕著です。戦争の記述でも「太平洋戦争(大東亜戦争)」と記述するなどその思想性は明確です。朝鮮半島の植民地支配についても正当化する記述となっています。沖縄の集団強制死(集団自決)に関しても米軍のせいで起こったかのように記述されており、日本軍の関与については触れていません。
 そんな育鵬社教科書ですが、体裁は採択率の高い東京書籍に寄せてきており、それだけに要注意です。令和書籍のような極右が存在すると、育鵬社がまともな教科書にさえ見えてしまいます。
 自由社の教科書は育鵬社教科書よりも国家主義、人権軽視が顕著です。現時点では公立学校での採択のない自由社ですが、差別思想をなるべく表に出さないことで支持を広げている参政党が露骨に自由社を推しており、要注意です。
 令和書籍については、おおよそ教科書の体をなしていないということはすでに述べたとおりです。令和書籍に検定合格を出した文科省に批判を集中しましょう

 私が歴史教科書の中でいいなと思ったのは帝国書院です。後述する学び舎を除けば、頭一つ抜けている印象です。もちろん日本軍「慰安婦」問題の記述はないのですからそういう不満は残るにしても、かつての戦争に関して加害の記述も割合しっかり書けているし、歴史事象の背景にどんな社会状況があったのか、人々の暮らしはどんなだったのかに想像を至らせる作りになっています。歴史を面白く感じられる仕掛けがあるんですよね。琉球処分や日露戦争、満州国、日本の敗戦などを人々がどうとらえてきたかを考えさせるコラムもあり、与謝野晶子・平塚らいてう・山川菊枝の母性保護論争を取り上げているコラムは大人が読んでも考えさせられる現代的な問題を提起していました。あくまで私見ですが、帝国書院の歴史教科書は文科省がいうところの多面的多角的な学びに一番近い教科書だと思います。
 もう一社、学び舎という教科書があります。これは元教員たちが作った教科書だけあって、歴史について自ら考えを促すことのできるとてもいい教科書です。そして日本軍「慰安婦」問題についてもしっかりとした記述のある唯一の教科書です。しかし現在、学び舎の教科書を採択すると右翼が組織的に攻撃してくるという事態となっています。灘中学校でこの教科書が使用されているのですけれど、右翼は抗議電話や抗議はがきを灘中学校に集中しました。灘中学校はこのような卑怯な攻撃に屈しませんでしたが、そんな状況のため、残念ながらどこの公立中学校も手が出せない状況となっています。

2,人権の大切さを重要視する教育出版
  権利よりも義務を押し付ける育鵬社・自由社

 公民教科書に関しては、よかったと思える教科書から紹介しましょう。それは教育出版の公民教科書です。
 日本国憲法の3大原則の根底に人権思想があるということを特別に強く押し出して記述しているのは、教育出版の公民教科書だけといってもいいでしょう。それだけでなくハンセン病やヘイトスピーチ、朝日訴訟や夜間学級、外国人の人権保障など、人権が人々の不断の努力によって実現しているのだということが伝わる内容になっていました。
 平和主義についても1ページをかけて丁寧に記述し、日本国憲法の平和主義とは過去の戦争に対する反省に基づくもので、武力の行使を避け外交交渉など平和的手段によって解決をめざすという考え方であると真っ当な記述がされています。沖縄に米軍基地が集中している現状についても、2ページにわたってしっかりと取り上げています。
 教科書のタイトルも『公民 ともに生きる』です。そこからしてとても共感が持てます。

 これに比べて、育鵬社と自由社の憲法や人権に関する記述が、なんて酷いことか。育鵬社教科書では「国民は国に守られ、国の政治に従う」「権利や自由には必ず義務と責任が 伴う」と記述されており、まるで義務を果たさなければ権利を行使できないかのような書きぶりです。
 憲法の項目では、大日本帝国憲法と改憲について大きくスペースを割き、現行の日本国憲法についての肯定的記述は皆無です。まるで大日本帝国憲法が民主主義的で、日本国憲法を大日本帝国憲法のように変えなければ未来はないとでも言いたげです。
 そして「外国人の参政権は制限されて当然だが帰化すれば別だ」というようなことを平気でのたまう姿勢には、怒りさえ覚えます。
 中学生が抱えるいじめなどの問題は、個人の尊重という人権規範がければ解決しようがないのに、ルールを守らないからいけないのだと。そんな育鵬社・自由社の公民教科書では事態を悪化させるだけで、なんの解決にもならないでしょう。

3,東京書籍に顕著にみられる教科書の右傾化

 歴史教科書では「育鵬社の東京書籍化」に触れましたが、実は逆のことも言えます。東京書籍もまた育鵬社のほうに寄せてきているのではないかと思えてなりません。東京書籍の公民教科書では平和主義について6行しか記述がなく、前文についても触れられず、平和主義の精神が全く伝わりません。また政府見解に無批判な記述が目立ちます。
 現在、歴史にしても公民にしても、東京書籍は高い採択率を誇っています。育鵬社や自由社の前身となる「新しい歴史教科書を作る会」が教科書を作り、日本軍「慰安婦」問題の記述を中心に攻撃を集中しました。私たちは作る会系教科書に反対し、その結果作る会系教科書はほぼほぼ採択されなかったのですが、同時に加害の記述がしっかりしている教科書の採択も激減し、右翼の批判の集中砲火を浴びた日本書籍はそれまで高い採択率があったにも関わらず倒産してしまいました。
 育鵬社や自由社の教科書会が反対運動によって採択率を伸ばせない中、着実にシェアを拡大してきたのが「無難」な東京書籍です。しかしこのところ「東京書籍の育鵬社化」について目に余るところがあります。「育鵬社の東京書籍化」に警鐘を鳴らすと同時に、「東京書籍の育鵬社化」についても警戒するべきかも知れません。

4,よりよい教科書を中学生に届けよう

 侵略戦争や植民地支配を正当化するという歴史修正主義と、人権を制限し憲法を変えたいという動きが全く同一であるということは、教科書の動きをみれば明らかです。子どもたちの人権を守るということと正しい歴史を教えるということは、同じことなのです。それが実現できない世の中になったときに、次に起こるのは戦争です。

 各教育センターで教科書展示が終わると、教育委員会で来年度の教科書を議論し採択します。教育委員が立派な人格を持った民主的な人であると思わないでください。教育委員を選ぶのは首長です。教育のこと、子どもたちの人権を大切に思っている人が教育委員であれば、育鵬社教科書が採択されるわけがないのです。育鵬社教科書はこれまで兵庫県では使用されていませんが、大阪では維新的な政治の下、いまは泉佐野市で、これまでも東大阪市や大阪市で採択されてきました。神戸市にも右翼的でヘイトスピーチも平気でするような市会議員が少なからずおり、育鵬社教科書が採択されない保証はどこにもありません。
 みなさん、地元の教科書センターに出かけて行って来年度使用の教科書を閲覧してください。そして必ずアンケートに意見を書いてください。その声は少なからず教育委員の判断に影響を与えます。
 そして教科書を決めるときの教育委員会会議は、できる限り傍聴しましょう。その教育委員会議がいつにあるのかは、教育委員会に電話すれば教えてくれます。どんな教科書を子どもたちに与えようとしているのか、市民が見ているということを示すことが大切です。
 そして育鵬社や自由社や令和書籍でない、よりよい教科書を、中学生に届けましょう!

[2024年6月26日 神戸水曜デモ発言原稿]


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