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【信天翁航海録】俺もその船に乗せてくれよ【感想】

――かつて、船があった
―― あー、あー、本日天気晴朗なれども波高し。 進路ようそろ、では出港信天翁号。

信天翁航海録
信天翁号

 信天翁航海録最後までプレイしました。軽く消化しようとしたらメインもメイン。俺の大好きな冒険譚で話も全体的に明るくキャラも魅力的だし、終わり方もすっきりしてて個人的に大好きです。OP曲とかめっちゃ良いですのでそっちも聞いてほしい。
 凄く面白すぎて夜通しやったり、最後までやり終えたら突然海に行きたくなってそのまま行くぐらい面白かった。なんか海に行ったら”会える”気がしたんだよね。
 あと主人公の朔屋がちゃんと最後までダメ人間で最早安心すら覚える。俺を置いていかなかったずっと芯(?)のあるキャラだった。

明るい雰囲気漂う世界観

 この作品は明るい雰囲気でありながら、おふざけの文章に頼らない。そしてシリアスなところはちゃんとシリアスな雰囲気を漂わせるメリハリは正直凄いよ。文章が裏切らない。言っておくと地の文が長いけど、個人的にそれは嬉しい。寒くて不快なところがほとんど無いから安心して読むことができます。
 信天翁号での事件も面白く読めたし、各キャラの宿痾を絡めたシリアスは僕を引き込んでいく。この作品には無駄なハラハラが無いし、事件を起こさせるためにキャラが突然不快になることもない。僕はここまでこのバランスを保っていられた作品をあまり知らないかもしれない。
この一点だけで人に勧めたくなるぐらい。

でも、魅力はそこだけじゃない。キャラだって凄く良い

そして主人公の駄目さ加減が始まりから終わりまでなんにも変わんない

というかキャラ全員変わんないかも。性格の悪い女が突然性格良くなったりなんかしないし、暗いキャラが明るくなったりもしない。でも、どんどん魅力的になっていく。そもそもキャラの個性とその深堀りがとても上手いから、変わる必要がないんですね。
 だから信天翁航海録は頓痴気な事件に出会おうと、彼らにとっての日常の延長線上でしかないわけで。その雰囲気が凄く心地良い。



朔屋直正という駄目で、でも何故か憎めない男

 朔屋直正という主人公がいる。主人公といえば見栄えはよくなるけど、彼は本当に駄目で、助平な男…でも憎めない。俺こいつのこと好きだよ

基本的にこんな地の文続く。凄く良い

 ダメダメな男だけど、不思議と不快に感じない。この主人公はダメであることの年季が違うかからか、もしくは成功体験といわれるようなものが初めから無いからなのか…ダメな自分を受け入れて生きて、自分より劣ったものを決して馬鹿にしたりしない。まぁ優しいからじゃなくて自分より駄目な存在をみると安心するからっていう理由だから、駄目な男というのが一貫している。
主人公にしては恐ろしく芯(?)がある男。ブレなさすぎ。それでこそ朔屋直正よ。このキャラの魅力よ

 再度言うけど、ダメダメで失敗しまくって、それでも尚不快にならないんですよね。憎めない人間らしい主人公だなって俺は思う。

愚図な孤独な船長クロ

 双子の一等航海士シサムやキサラ、謎の乗客泪さん等個別ルート在りのヒロインたちも魅力的なんだけど、今回は信天翁号の船長、クロをメインに語りたい。だって一番話の完成度高いと思うし…

このゲームの顔的なヒロイン(だと思う)
小柄で瘦せていて不健康そう
ちょうど俺の性癖に刺さったからこの作品を買ったっていうのがある。可愛いよクロ。

 この女の子は普段は愚図で使い物にならなく、仕事も禄にできない。いつもみんなから叱られてお仕置きされている可哀そうな女の子。なんせしりとりすらも続かない、直ぐに「ん」がついて終わる
クロルートの前半は常にこの娘が使えないっていう描写が多くて読んでるだけで憐れみの情が沸いてくる…

 でも、嵐の時だけは違う。嵐の時は神がかった力で船全域の事を知り尽くし、きちんとした装備もないのに荒波を切り抜ける。その時だけは船員から
絶大の信頼を得られる。

輝かしいクロ

でも嵐を切り抜けたあとは萎んでいつもの駄目なクロに元通り。

 それがクロの苦悩でもある。嵐の時にだけ褒められるのは辛い。駄目な自分の時でも誰かに少しでも褒められたいし皆から認められたい。そういう承認欲求に飢えている女の子なのがまた切なくなる。

 普段の愚図と、嵐の自分をいやでも知ってるから愚図な時の自分が悔しくて悔しくて堪らないと嗚咽するシーンは結構胸に来たかな。
この苦悩こそがクロの最大の魅力じゃないかな。

朔屋にとってのクロ、クロにとっての朔屋

この作品はエロゲだからクロと朔屋との関係性が一番重要じゃないですか。ノベル系のエロゲはそういうもんです。

 主人公の朔也は愚図なクロを自分より可哀そうと思っていて、自分の手元にいてくれるクロが好きで、朔也は駄目人間なので嵐の時のクロは自分じゃ足元にも及ばないから引け目を感じてしまう。朔也はどうしようもなくそのままのおバカなクロを愛している。
 その朔也がクロという少女(年齢不詳)を抱いた理由がそこに朔也の優しさがあったとしても、なし崩し的で遊び半分な不真面目な動機で、その後に若干の後悔を引きずっているわでこの男本当にどうしようもない。(でもまぁ、それもどこか気付いて自覚している)

クロにとっての朔屋は馬鹿な自分に仕事を丁寧に教えてくれる優しい人

 クロに今まで優しくしてくれた人はいた。でも抱かれたのは朔也が初めてだった。クロは親無し子だからなのかな、クロは自分の駄目なところを受け入れてくれる愛がほしくてたまらなかったと思うんです。
抱いたあの日が朔也にとって、どのようなものであっても愛という行為を与えてくれたのは彼だけだったわけですね。性愛であろうとも、愛は愛だったと思う。だってクロはそれが凄く凄くうれしかったのだから

 無能者で誰にも欲せられる事がなく排除されてきた男が、嵐の時以外はどうしようもなくポンコツの女を抱いてこの二人の間にある疎外感の傷を舐め合う。 それが堪らなく切なくて、惨めで、そして愛を深め合う訳なんですが、
それが凄く良い…
2人共不器用でどうしょうもなくて愛しくなる。

名シーン、題名は「愚図と駄目の毛繕い」この後に信天翁船の連中を見返してやろうと息巻いてちょっと成功するけどその後盛大に失敗してしまいます。悲しいね

足りないから補い合うとか上等なものではなく、足りない者同士で一緒に寄り添い合う。
何とも駄目な奴らにお似合いな関係性だけど、それがクロルートの一番大事な形だと思う。

周りの現実と二人だけの世界

クロルート最後の話

 クロと朔屋はどんどん駄目な関係になる。二人は辛い世界を見るのではなく、自分が好きな人を見続けて生きることを選ぶ。
朔屋はダメなままのクロを見続け、クロはその朔屋にべったり依存して「そのままの君が好き」っていう無償の愛をお互いに与える退廃的な関係になる。

幸せという形を二人の間だけで作る、そんな終わりだった。
居場所を得られなかった者たちに居場所が生まれていて、退廃的ではあるけどスッキリとした終わりのようにも感じたかな。

マジでいい話だった


あとがき的なもの

なんだかんだエロゲの感想をちゃんと書ききったのはこれが初かもしれない。今回はクロルートだけを書いたけど、ほかルートもいいです。

このライターは独特な文章で、「稚拙な文章は読みたくない」っていう洒落臭いことを言う奴にはぴったりなエロゲ。

あとちゃんとBADENDもやろう、そこまで酷い終わりにはならないし、何しろ「密航」ができなくなるので…

このBADENDを回収する密航ルートもめっちゃよかった…駆け足ではあるけど、いい爽快感が駆け巡った。俺もこの船に乗りたかったな…って今でも死ぬほど思ってます。

最後にこのゲームの駄目なところ言います
サントラと設定資料がない。サントラはあるっちゃあるけど限定特典なのでマイナスポイントです。
raiL-softさん、頼みますよ。マジで
最早俺の為だけに売れ、買うから…

一応頑張って書いたので読んでくれる人が多いと嬉しいな~
そしてやってくれたらもっと嬉しいな。
DLsiteで買えます!wow!
Windows10でもちゃんとやれます!wow!

信天翁航海録 raiL-soft



次はなんのエロゲしようかな(多分アオイトリ)

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