ONE PIECE FILM RED 感想

ネタバレあり





感想

   私的にはめっちゃ好きなテイストの映画でした。ただ、好き嫌いは分かれそう。
 ONEPIECE(少年漫画)の劇場版というよりは、ONEPIECEでエンタメ映画を作るならというチャレンジかつ、世界観の掘り下げ、あるいは特定のキャラクターの解像度を上げるための作品という印象なので、考察勢が好きそうな感じでもあるし、ライト層はミュージカル的演出が楽しかったと感じる映画なのかなと思います。
 まず、出だしがいつもの「世はまさに大海賊時代!(ワクワク)」と違う。弱いやつは死に方も選べない修羅ワンピ世界の説明から始まるの容赦ないなと思いました。
 もちろん原作でもマジで市民に厳しい世界だという描写はあるんですけど、主人公の冒険の道中で見てきた酷い圧政やら紛争やらがそこかしこで起こっている世界なんですよね(多分平和な国とかの方が少ない)。絶対転生したくねえ~~~
 そんな末法世界を救うべく行動を起こした歌姫ウタ。彼女の行動力はすごいと思うし、とても優しい心の持ち主であることは疑いようもありません。市民を飢えや略奪のない世界へと導き、そこに紛れ込んだ海賊や海兵、果ては天竜人にも仲良く楽しく暮らすことを提案します。ウタに悪意はないし、客観的に見てもその行動原理は悪者ではないのです。だけど、彼女を「善」「正」に据えるには、言葉にしがたい違和感がある。映画を見終わった後、これについて結構考えました。
 私の中での一応の着地点として、ONEPIECE世界で絶対悪とされるのは、「食べ物を奪うこと」「他人の自由を奪うこと」「他人の覚悟を軽んじること」あたりっぽいんですが、ウタは「食べ物を与えた」が、「夢の世界で生きることを強要し」「ルフィの夢を諦めさせようとした」ことで、2つ地雷を踏んでしまっているのですね。なので、ウタは絶対の「善」「正」「世界中の人々全員の救世主」にはなり得ない。
 自由とは何かというのは色々考え方があるとは思うんですが、少なくとも「飢えや争いから逃れて平穏に暮らす」ことと「自分本位に生き方を選択する」ことはイコールではない。「自由に生きた」「覚悟を持って生きた」ことが重視され、結果として本人が幸せだったか・目的を完遂できたかは問わないのですね、この作品。シビアですね。
 まあこんな小難しいことを考えなくても、ウタが世間知らずで打たれ弱いことははっきり描写されている(天竜人や海軍の英雄を知らない・人が撃たれただけで取り乱す)ので、そもそも全世界の人々救世主になれる器ではないんです。
 ウタウタの実の力があり、音楽の才能があり、特殊な映像電伝虫を手に入れて市民の苦しみを聞いてしまい…という様々な要素が絡み合った結果、ああいう結末になってしまったのが悲しい。なにより、彼女は孤独だったんですよね。外のファンと繋がれた嬉しさから、彼らのために何かしてあげたいと思う気持ちは理解できるし、エレジア滅亡の真実を知ってしまった後は、もっと孤独に追い詰められていったのも想像がつきます。
 ウタの本当の願い(ウタにとっての自由)は、やっぱり「シャンクスと一緒にいきたかった・そばにいてほしかった」に違いなく、その一番の願いが叶わなかったからこそ、新たにできた願い・目標に縋るしかなかったのでしょう。そういう意味ではシャンクスもワンピ世界の「悪い行動」をしている。ウタのためといいながら彼女の自由・願いを無視したのでね…愛故に…難しいね…。ゴードンさんも彼女のためを思って一生懸命だったのだけれども…難しいね…。
 愛情や優しさ故の行動が必ずしも相手の救いにはならないというのが、シャンクス・ゴードン→ウタ、ウタ→ルフィ・市民に適用されており、このあたりはチョッパーあたりのオリジンと重なる部分もあると感じました。厳しい世界だ…つれぇよ
 ウタは、おそらく亡くなったのだろうと思います。ただ、最後に解毒を拒み、自身の敗北を認めて世界を元に戻し、大好きなお父さんと一緒に過ごすという自分のエゴを突き通したところがとても良い幕引きだったと思いました。ウタは最後にようやく自由になれたのだと思います。本当にいいキャラだった。ウタ辛かったね…頑張ったね…
 読者目線だとシャンクスに「大海賊」のイメージを持ちがちだと思うんですが、今回は弱い部分というか、個人として・人間としてのシャンクスが垣間見えたような気がしました。総合的に主人公はウタ、対抗がルフィになるのかなと思いますが、その2人のオリジンがシャンクスであるという意味でFILM「RED」なんだろうと思います。
 
 ウタ周り以外のキャラについては、まずオーブン・ブリュレ・ブルーノにあれだけスポットがあたったことにビビりました(コビーは後述)。そしてブリュレがマ~ジでかわいい。カタクリお兄ちゃんに会えなくなるかもしれないと思ってべそかいちゃったの本当にカワイイ。そりゃあオーブンも妹だけは助けてくれって言うし、カタクリも飛んで来るわな。かわいいもの。
 ビッグマム海賊団の兄弟愛、今回はシャンクスとウタの親子愛に対する一つの対比として置かれてると個人的に思っているのですが(親が子供を顧みなくても、他に頼り頼られる関係の人間がいれば子供は健全に育つ)、そういう意図がなかったにしても再登場は単純にうれしかった。オーブン兄貴いい兄ちゃんだな…ちゃっかり新技もらってませんでした??
 そしてブルーノ。ミラミラ、ドアドアの移動要員としての起用という意味もあると思うんですが、作中でかなり協力的だったのでびっくりしました。W7~エニエスロビー編での慈悲なき暗殺・諜報集団のイメージしかなかったのですが、世界政府所属という意味では海軍と同様に秩序の維持側なんですよね(国家公務員)。ミニブルーノのお茶目さも含めてなんかめっちゃ好きになりました。 
 ローとバルトロメオに関してはクソデカ赤字の「いつもの」「おなじみのメンツ」「ルフィの友達」って感じでしたね(今回は癒やし枠)。ミニベポかわい~

 VSトットムジカについては、FILMシリーズでもトップクラスに好きなバトルかもしれない。スタンピードのバレット戦と同様のレイドバトルなんですけど、普段敵対してるようなメンツが連携して戦うのってやっぱり良いですよね。衣装チェンジもめちゃかっこいい!円盤買ったらスローで見たい。あと、トットムジカのデザインも異質で好きです。
 ONEPIECE世界って古代兵器の他にも世界を滅ぼしかねないヤベーものがゴロゴロしてそうでめちゃくちゃ嫌ですね。

ウタの曲について

 全部好き。失礼ながらAdoさんのことはあまり存じ上げなかったのですが、迫力がすごいし、曲ごとに表情がガラッと変わる。ドルビーズシネマで見たんですけど、音圧がマジで凄くて、この映画は劇場で見てこそだと強く思いました。悩んでたら今すぐ行ってください。やらない後悔よりやった後悔の精神大事。
 劇中ではウタの心情を表す台詞の代わり兼バトルBGMとなっている場合が多いので、ただ音として聞くのではなく、歌詞の意味や曲調の変化を読み取りながら観劇すると楽しいのかなと思います。とはいえ歌詞自体が若干ネタバレっぽくもあるので、観る→YouTubeで歌詞を確認する→観るがベストな気がする。あと、ワンピースマガジンVol.15に楽曲提供アーティストのインタビューもあるので是非。kindle版もあるよ。
 全曲好きですが、一番好きなのはウタカタララバイです。元々FAKE TYPEさんの曲が好きなのもあるんですけど、偏執的に狂っていくウタの心情や劇中で眠る人々が襲い掛かってくる不気味さとよく調和していて最高でした。

趣味のコーナー

 超絶爆イケ激マブ海軍将校と化したコビー大佐について語っていいですか?
 出番あるのはわかってたんですけど、スタンピードくらいかなと…こんなに活躍すると思ってなくて…
 原作で曹長になったときも、新たな夢として「海軍大将」を掲げたときも、頂上戦争の勇気ある数秒のときも、「コビー根性あってええなぁ!好き!応援してるで!」くらいの精神でいたんですけど、世界会議前にドレスローザの船を護衛した場面で「え、めっちゃ強くなってる…?」となりまして、今回の映画で彼は原作最終章に深く関わってくるのではないかと思いドキドキしています。
 正直、成長は著しいんですけど強さ的にはルフィに全然追いついていないじゃないですか。彼の夢もきっと後日談的に叶うのだろう思っていたんですが、作中で描き切られるのかもしれないという希望が湧いてまいりました。
 というのも、作中では他人を味方に巻き込む資質が重要という話が度々語られていまして、今回色んな陣営に的確に指揮を飛ばしている彼をみて、こういう「強み」も今後より注目されてくるんじゃないかと考えました(一人ではできないことも仲間がいれば、っていうのはワンピ世界の大事な要素だと思うので)。サイファーポールとも落ち着いて対等に話し、海賊に対しても立場に関わらず物腰穏やかに丁寧な物言いができる将校さんが18歳ってマジ?
 海軍が市民を害する(徹底的な正義)、天竜人のいいなりであるということが意図的に描写されている中で、市民を救った英雄として描写されているコビーは今後新時代の海軍陣営にとっての変革・希望の象徴になるのでしょう。願わくば、突然開花した見聞色の覇気のことやロッキーポート事件の詳細、ハンコック拿捕作戦の詳細が早く知りたいです。情報初出から何年経ってるんすか!!!

 あと、このFILMREDにコビーが出てきたのって、「シャンクスに救われたことがある」っていうウタ・ルフィとの共通点をピックアップしてる可能性あります…?少なくともウタと対比されているのは間違いないでしょう。
 ウタはファンの言葉でしか今の外の世界を知らないし、エレジアを滅ぼしてしまった・シャンクスに捨てられたという絶望から、苦しみや辛さから逃避することこそが正しい(あるいは残された唯一の道)と考えているが、コビーは争いの悲惨さや己の無力さを経験として知っていて、それでもそこから逃げずにやり遂げたいと思う目的があるという価値観が全く異なるキャラなんですよ。ルフィも目的・自由を重視するキャラなので、ウタとは違う。
 ウタとコビーが対峙するシーンでの狙いとしては、おそらく帰りたがってるファンの声を引き出して、「辛い現実であってもそこで生きていくことを選ぶ人もいる」ことをわからせることだったと思うんですが、それがウタには理解できなかった。どちらにも賛同する人はいたので、本当に人それぞれではあったんだろうけど、結局ウタはファン全員を動けない・物を言えないぬいぐるみなどに変えてしまって「自由」を奪ってしまうんです。…辛いね。

 原作を読み返しててしみじみ思ったのですが、頂上戦争編のとき16歳なんですよ…それで言いたいことを言ったから死んでも悔いはないって度胸ありすぎる。頂上戦争ではスモーカーやたしぎも、海賊への追撃について心の中で疑問を抱いてはいましたが、行動には移しませんでした。それを戦場の真ん中で声に出して、命を投げ出したって本当にヤバいんですよ。
 「立場に関わらず正しいと思ったことをやり、言いたいことを言う」という自由を貫くための覚悟がある。英雄の器だと思います。

 そしてフェス衣装もあんまイケてない真面目大学生の夏休みみたいで大変良かったんですが、戦闘衣装が激マブすぎてビビりました。白も似合うけど黒も似合うんだね…素敵ですね…
 この衣装での戦闘描写がマジでかっこよくて早く円盤がほしいです。フィギュアなどが出たら買いますのでどうぞよろしくお願いいたします。