見出し画像

monsterイタリアでの出来事② ボローニャ編

red monster

フィレンツェでの留学を終える間際にイルカと電話で話をした。イルカに日本に帰るのはどんな気持ちかと問われた様な気がするが、何と答えたかは記憶に無い。イルカも「長いこと帰ってないし、オカン1人やし、俺も一回帰ろかなー」と言っていた。
それまでは帰国を考えた事は無かった様だ。
そして半年の留学を終えて12月、帰国した。
年が明け、冬も終わりかけのある日、ケータイが鳴った。見た事の無い電話番号だったので警戒しながら電話に出ると、イルカだった。
「monster、元気?オレ、日本に帰ってんねん!来週戻るけど、それまでに一回会える?」と言っている。けれども日が合わず実現しなかった。

それからはイルカとメールのやりとりも無いまま、月日は経ち、フィレンツェから帰国の1年9ヶ月後、私はボローニャで再び語学留学を始めた。
落ち着いた頃、イルカに連絡をしてみた。イルカと話すのは1年半ぶりで少し緊張して電話をかけた事を覚えている。
イルカは電話に出た。
けれどもとても疲れている様子だった。
ヴァカンスシーズンは報酬の良いフリーの料理人をしているがとても疲れていると言っていた。
その年のエミリアロマーニャの海沿いの街は海外からの客も多くてイタリアで働いてきたこれまででいちばん盛況だったそうだ。
料理の評判も良く、仕事がビッシリ詰まっていると言う。暇になるのは秋とのことで、またその頃に連絡するねと言って電話を切った。
なんだか前回、日本に帰国した時とは別人の様なテンションの低さの彼にひどく驚いた。電話を切った後、少し放心していた記憶。
そして秋、イルカに中々会えないせいで余計に会いたくなり彼の様子が気になり続けていたそんな10月の終わり、イルカから連絡があった。仕事でボローニャに行くから会おうか、と。
嬉しかった。そして彼とボローニャの塔に登り、適当に食事をしてバールで休憩をしたが、イルカは口数も少なく、フィレンツェの時とは逆で今度はイルカの方がとても機嫌が悪そうだった。
イルカに「疲れてる?」と聞くと、「夏のヴァカンス以来、なんか色々しんどい」とだけ答えてくれた。
ボローニャの塔に登っても冷めたコメントを放ち、ランチも適当でいい、迷うの嫌だからマックで良いと言い、バールでは新聞のサッカーの記事を読み始め、バリスタとお喋り中は私は蚊帳の外、一体イルカはわざわざ車で1時間以上かけてボローニャに来て何がしたかったのか全くもって意味不明だった。
そして夕方、「じゃあ帰るわ」と言って帰っていった。
私は戸惑うばかりだったが彼が仕事で疲れていて八つ当たりしたくなる気持ちも分かる様な気がしていた。
そしてそれからあっという間に私の3ヶ月の滞在も終わろうとしていた。
イルカの事がまだ気にかかり、自分がイルカの事が好きなのだと自覚し、語学留学の下宿を退居する数日前にイルカに日本にもうすぐ帰るよ、と連絡した。
「会える?」と聞いたら「monsterがこっちに来るなら」と言われ、残りのフリーで過ごす予定の2週間の行程を調整し、ボローニャから海沿いのイルカが住む町まで電車に乗って会いにいった。
相変わらずイルカは不機嫌だった。
不機嫌なイルカと2日過ごしたが辛かった事を少しだけ話してくれた。
イルカは仕事がとてもハードで思い通りに人を使えず怒鳴ってしまってますます雰囲気が悪くなった。そんな時にピックで二枚貝を開けていたら、自分の左手のひらを刺してしまった。あまりの痛さに気を失って、起こされた時には見たこともない血溜まりができていてまた倒れそうになったと静かに話してくれた。威張って怒鳴ったりしていたのに手を刺して気を失って、情けなかったと…。
私は言葉が出ずに抱きしめることしか出来なかった。
そして、2日目の夕方、実は町の仲間からサッカーTV観戦を一緒にしようと誘われていたけど、もうそのシーズンは何回誘われても仲間達の集まりに参加していないと言っていた。
私は「行っておいで、1人で大丈夫やから。一歩も部屋から出ずに待ってるから」と言い、躊躇うイルカの背中を押してみた。
イルカは仲間の所へ行った。
私は1人で泣いていた。
イルカには仲間の所へ行って元気になって欲しいと思いつつ、自分の淋しさはどうすれば治るのか分からなかったから泣いていた。
夜遅く帰ってきたイルカとは1つのことを除いて他はあまり話さなかった。
楽しかったか聞いて楽しく無かったらまた気不味くなるのが怖くて。
そして翌朝、私はミラノに向かった。
駅まで送ってくれたイルカ。
列車は停車時間が5分程あったが黙って座席に座った。
窓からホームに居るイルカを見る。
駅員と話をしている。
駅員が私の方を見てイルカに車内に入って見送らなくて良いのか?と聞いている様なジェスチャーをするがイルカは「ええねん」とでも言ってるような感じに見えた。
そしてボローニャ行きの列車は発車した。
私達は手を振ってお別れした。

私は列車の中で涙が止まらなくてどうしようも無かった。どうしてイルカとお別れの時はこうも苦い思いをするのかと。
検札のスキンヘッドの男前の乗務員に「大丈夫か?」と背中をさすられ、更に涙が止まらない。
しかしボローニャでユーロスターに間違いなく乗り換える緊張感で涙は止まった。
男の事で泣いていて乗るべき列車を間違えるなどmonsterである私にあってはならない事だからだ。

ミラノに到着し、友人のイタリア人夫妻が私を迎えてハグをしてくれた頃には涙も止まっており、心配させたく無くて元気にミラノを観光した。
イタリア人夫妻は私のイタリア語の習得がたった3ヶ月でこうも変わるか、と褒めてくれて嬉しかった。

前の晩、イルカと一つだけ話をした事がミラノの街を歩きながらだんだん腑に落ちてきていた。
イルカは言った。
「monsterがオレに会いにきてくれたの、めっちゃ嬉しい。でも、オレ、monsterの彼氏にはなれへん。オレ、今彼女とか欲しくなくて。だからごめん、こっちに来いみたいな事言って期待させたかもしれへん」
私は答えた。
「そんなん、言わんでもわかってるし。私が会いたくて会いにきただけやから。ただ、晴れてたら海に一緒に行きたかったのにずっと雨やったな。私、イタリアの秋の雨ほど鬱陶しいと思うもん、無いわ」

ミラノの街を優しい友人夫妻に挟まれて歩きながらこの会話を反芻し、何故か吹っ切れてきていた私の足取りはしっかりしていた。
イルカの事でもう泣かない、と思ったのだ。

けれど、イルカとは最後に大阪で会う日が来る事をmonsterは知らない。

次回は大阪編、最終回でっす!



この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!