俺の価値は、俺が決める。『メガトン級ムサシ』の価値。
『メガトン級ムサシ』は2021年11月11日にレベルファイブより発売されたNintendo Switch / PlayStation 4向けのロボットアクション&RPG。
現在は本編の内容に追加要素を加えたうえで基本無料化し、上記のプラットフォームにPlayStation 5が加えられた『メガトン級ムサシX(クロス)』が配信されている。また2023年内にはPC(Steam)に対応した『メガトン級ムサシW(ワイアード)』の配信が予定されている。
本作はもともとフルプライスタイトルとして発売され、その一年後に異例の本編全部入りの基本無料化を果たした。価格は無料になったが、それでは本作のゲームとしての価値はどうなのか。無印パッケージ版から遊んでいるプレイヤーとして『ムサシ』について記す。
なお、発売した年にはこちらの記事で本作について書いている。よろしければ参照されたい。
ロボットアクション×カスタマイズ×ハクスラ
ゲームのメインとなるのはロボットアクションパートだ。ストーリーの進行度に応じて追加されるミッションを選択し、巨大ロボット『ローグ』で出撃してエリア内のドラクターを殲滅、最後に待ち受けるボスを倒せばミッションクリアという流れとなっている。ローグはキビキビと動き回れる操作感覚で、基本的には攻撃に専念していれば次々に敵を倒すことができる。最大4つまでセット可能な必殺技を駆使すれば複数のドラクターをまとめて蹴散らすことができるだろう。ローグは本体・腕部・脚部・武器をパーツ毎にカスタマイズでき、搭載されているCPUにパーツを組み合わせることで戦闘中のスキル発動に変化が生じる。これらローグ用のパーツは撃破したドラクターから入手でき、同じ名前のパーツでもレアリティや能力に差異があるため、収集を目的に繰り返しミッションを遊ぶいわゆるハックアンドスラッシュ的な要素も備えている。ミッションは2~6人でのオンラインマルチプレイのほか、Switch版ではローカル通信でのマルチプレイにも対応している。また、『X』からは3対3のプレイヤー同士の対戦モード「コロシアムバトル」が追加された。
こうした激しいロボットアクションとカスタマイズこそ本作の目玉となる要素だろう。しかし私がプレイしてそれ以上に気に入ったのは、大和たちの日常が描かれる街の描写だった。
作られた街、静かな日常
必殺技を叫びながら戦うド派手な戦闘シーンと打って変わって、日常パートは非常に平穏で静かな雰囲気だ。イベントシーンを除けばBGMはなく、環境音が際立っている。本作をプレイする前はアクションの激しさやバイオレンスなイメージが強かったため、この静かさは意外に感じられるものだった。大和たちの暮らす「赤城町」は21世紀初頭の日本の生活をシェルター内に再現した郊外風の街で、学校や公園、商店街などひと通りの施設が立ち並ぶ。ベルトスクロールアクションのような奥行きのある2Dのスタイルで表現された赤城町は、決して広くはないが細かいつくり込みがなされている。たとえば、ストーリーに直接関係のない商店街のパン屋のパンはとても美味しそうに見えるし、公園に湛えた池のせせらぎは暖かみが感じられ、ただ街を歩いているだけでも楽しい。住人たちはフルボイスで喋り、進行状況に応じて台詞が変化する。地球の壊滅的状況とは無縁のこの街で、人々は過去を忘れ、何も知らないままそれぞれの毎日を懸命に生きている。一部の住人たちは秘密組織『オブリビオンベイ』の一員としての顔を持ち、裏でドラクターと戦っているが、そんな彼らもまたこの街の生活者であることに変わりはない。人々がかりそめの日常を過ごすために用意された赤城町は、『ムサシ』の世界設定上においても、また本作をゲームとして遊ぶプレイヤーにも同じ張りぼての舞台として映る。だが、たとえ張りぼてであっても、そこに住まう人々の生活や街の描写に確かな説得力があるからこそ、この世界設定が生きたものになっているのだ。戦場を知らずとも、些細なことに一喜一憂する人々の生活には嘘も本当も無い。派手な部分が取り上げられがちだが、こうした生活の静けさやなんでもなさが描かれているゲームでもあるということを強調しておきたい。
広がり続ける大風呂敷
本作のストーリーは主人公である大和を中心としながらも、複数のローグパイロットそれぞれにフォーカスが当たる群像劇となっている。彼らは皆同じ高校に通う学生で、日常パートでは学園生活を送っている。キャラクターデザインは『レイトン教授』『妖怪ウォッチ』シリーズなどレベルファイブ作品ではおなじみの長野拓造氏だ。造形こそポップだが、記憶操作に絡んだパイロットたちの過去や、暴力、セクシャル描写はそれとは裏腹にリアリティを感じさせ印象に残る。なお、戦闘シーンでプレイヤーが操作できるパイロットは、ゲーム後半になれば大和以外のキャラクターから選択することもできる。本作の設定には、過去に制作されたロボットアニメ作品やSFアニメ作品を感じさせるようなものが幾つか見受けられ、間接的にその構造を引用しつつ独自性のある作風となっている。メインストーリーの規模はもともと大きかったが、度重なるアップデートと『X』の配信で更に膨らんでおり、その大風呂敷の広げ方はある意味レベルファイブらしいといえる。また、先に述べた住人の記憶操作という設定は、ゲームのアップデートに付随する追加要素やストーリーの進行を力技で解決するために組み込まれたものだといえる。そうしたなかでも主役級ではない人物の内面や行動が描かれていたり、各章ごとに出し惜しみがないため、ストーリーがテンポよく展開し、飽きる隙を感じることが無かった。
余談にはなるが、私は過去にレベルファイブがアニメ・ゲーム両面で制作に関わった『機動戦士ガンダムAGE』を非常に好んで視聴していた。『ムサシ』においても『AGE』的な作風を期待しており、確かにそうした要素を強く感じる部分もあったのだが、むしろエンターテイメント性は『ムサシ』の方が高く、自分が『AGE』で見てみたかったものを『ムサシ』で見られたという思いを抱いた。
俺の価値は俺が決める。価格はお前が決めろ。
「俺の価値は、俺が決める。」――これは一大寺大和がゲームの最序盤、アニメでは第一話で発した台詞だ。『ムサシ』が基本無料となるという一報を知ったとき、私はこの台詞を思い出していた。価格を無料にするというのは遊ぶ人間に価値を委ねるということではないのか、と思ったからだ。しかし、いま一度考えて価格と価値とは必ずしも同じではないと思い直した。それでは『ムサシ』の価値とは何なのだろう。
レベルファイブが得意とするメディアミックス企画「クロスメディアプロジェクト」のひとつである『ムサシ』は、アニメ版がゲームの発売前から無期限無料でYouTube配信をしており、現在のところシーズン2(『X』に相当するストーリー)まで放映されている。先述したように往年の日本のロボットアニメ作品からの影響を強く感じる本作だが、そのアプローチする先はそれらを視聴していた世代より、むしろ過去の作品群に触れることが少ない低年齢層に向けられている。ゲーム内の漢字に逐一ルビが振られていることや、YouTubeでのアニメ配信はその一環といえるだろう。こうしたアプローチはより若い世代へロボットアニメ文化を継承させようという意図を感じる。『X』以降は『マジンガーZ』『ゲッターロボ』がローグとして登場し、今後も『グレンダイザー』『コン・バトラーV』『ボルテスⅤ』の登場が決定するなど、その意図はより明白なものになってきている。こうした展開の仕方はどことなく『スーパーロボット大戦』シリーズを思わせるものだ。私自身、同シリーズをプレイしたことで過去のロボットアニメを知った経験があるが、『ムサシ』を遊んで過去のアニメ作品に触れる人もいるのかもしれない。本作が無料となり、配信プラットフォームが増えることはこれまで以上に触れられる機会に恵まれるということでもある。『メガトン級ムサシ』をハブに過去の作品が交わり、互いの作品に新しい文化をもたらすことこそ本作が掲げた自分の価値なのではないだろうか。
低年齢層が実際にどれほど本作をプレイしたりアニメを観ているのかはわからない。現にこの記事を書いている私の年齢は30代前半である。私が見た限りでは『ムサシ』は商業上の売上が振るっているようにはみえない。これまで私はゲームとアニメ両面で『ムサシ』を追いかけてきたが、正直に言えば『X』の配信とアニメのシーズン2で本作は幕を閉じるのだろうと考えていた。だが、発売から一年以上が経ち、アニメのシーズン2が終了したこのタイミングで『メガトン級ムサシW』を発表するなど、レベルファイブはまだまだ新しい展開を続けていこうとしている。向こうが広げた大風呂敷を畳まず、さらに広げていくのであれば、私もまたそれに乗っかってどこまで行けるか見てみたいと思う。
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・『メガトン級ムサシ』ポータルサイト
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・アニメ『メガトン級ムサシ』第1話
『シェンムー』が好きな人はゲームをプレイし、『ガンダムAGE』が好きな人はアニメを観てみるのもいいかもしれない。いるのか。
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