長き物語はいま始まれり『Shenmue the Animation』第13話「莎木」

『Shenmue the Animation』第13話の感想を書く。

https://www.nicovideo.jp/watch/so40684881

アニメ版シェンムーもついに最終話。

前回までのあらすじ
朱元達奪還のため、黄天会の本拠地・黄天楼に忍び込む涼とレン。しかしそれは黄天会の罠であり、斗牛が彼らを待ち構えていた。涼たちはどうにか斗牛の追跡から脱し、続くユアンからの襲撃も退ける。一方その頃、黄天会の門前に着いたジョイは「チェンの娘が来た」と告げると、ウォンとともに黄天楼内部の部屋に通される。黄天会の隙を見計らい部屋から抜け出したウォンは、個室に監禁された朱元達を発見、一計を案じ彼を連れ出すことに成功する。部屋に残ったジョイは黄天会幹部の白虎の手により気絶させられ、地下牢へ幽閉されてしまう。
涼たちは黄天会のトランシーバーの通信から、ジョイが囚われていることを知り、彼女の救出に向かう。地下牢に辿りついた涼は白虎と相まみえ、彼を倒し、ジョイの拘束を解放、そこでさらにウォンと朱元達が黄天会に追われていることを耳にする。ウォンたちを探し回る涼の前に再びユアンが現れるが、これを撃退し、屋上で朱元達が蚩尤門に引き渡されるという情報を聞き出す。屋上に向かった涼が扉を開けると、目の前には宿敵である藍帝の姿があった。

決着、黄天会

屋上では今まさに朱元達の身柄が蚩尤門の手に渡ろうとしていた。斗牛はウォンを人質に取り、涼たちを牽制しようとする。しかしそれを気にも留めず涼は憎しみのまま我を忘れて藍帝に戦いを挑む。藍帝と涼の力の差は歴然で、涼は軽くいなされ、叩きのめされてしまう。朱元達は涼やウォンたちに手出しをしないよう藍帝を制すると、ひと言「白鹿村だ。」と秘していた情報を告げる。情報を得た藍帝はヘリに乗り黄天楼を離れてゆく。斗牛は蚩尤門に命じられ、涼たちを始末にかかる。離れゆく藍帝に気を取られ、斗牛に目を向けない涼に対し、レンが一喝、冷静さを取り戻した涼は斗牛との戦いに挑む。斗牛の巨体には涼の一撃がまるで効かず、返り討ちに遭う。そんな時彼の脳裏にこれまでの旅路で学んだ記憶が甦る。明鏡止水の境地に達した涼は、斗牛の攻撃を捌き的確に技を当てると、外門頂肘を放って斗牛を打ち倒すのだった。
藍帝がヘリから降りて、涼と相まみえるという点はゲーム版とは異なっている点で、少なからず溜飲が下がる部分だ。原作となるゲームが未完の作品である以上はアニメが道半ばで終わることは承知の上であり、最終目標である藍帝を涼が打ち倒すことはあり得ない。しかしたとえ一度でも戦う場面が描かれば、中途半端さも多少は薄まる。ゲーム版は涼が屋上に到着する以前に何が起こったのか、なぜ藍帝がヘリに乗って上空から涼たちを見ていたのか不明瞭だったが、アニメ版では涼たちが屋上に着く時間を早く変更することで理解しやすくなっている。藍帝が屋上に降り立ったのは鏡を作った者の末裔の居場所を朱元達から聞き出すためだ。朱元達が秘していた情報を藍帝に答えるのも、藍帝に打ちのめされる涼の姿を見てやむを得ず、といった形に変えられている。これまで伏せられていた情報があずかり知らぬ所で渡っていたゲーム版と比べると、朱元達の人格を考えても納得できる理由ができ、スムーズな話運びになっていると感じた。
斗牛との戦いでは、ゲームのQTEのような体験を前面に推し出せないため、苦戦する涼の様子に時間が割かれる。斗牛に痛めつけられる中で「お前はまだ足りん」という父の言葉に始まり、これまで旅の中で身に付けてきたことが思い起こされる。前回の白虎戦でもそうした場面があったが、明鏡止水の境地に達する今回の前段階だったと言える。斗牛の攻撃を捌く涼の動きは、直前の場面で涼の攻撃をいなした藍帝とよく似ている。

香港からの旅立ち

黄天会との戦いを終え、レンのアジトに戻った涼は改めて朱元達に父の死の真相について尋ねる。藍帝は父である趙孫明が涼の父・巌に殺されたと思っており、その復讐を果たしたのだと朱元達は語る。また鳳凰鏡はかつて趙孫明が所持していた物で、対となる龍鏡と合わせることで清王朝を復興させる財宝の鍵になるのだという。
藍帝が向かった先は中国本土、桂林にある白鹿村。鏡の原石である洮河緑石の産地で、鏡を作った者の末裔が暮らすという。また、かつて趙孫明と巌が修行をした地でもある。涼は香港で世話になった人々に別れを告げると、一路白鹿村を目指すのだった。
涼が斗牛を倒したことで、黄天会はどうなったのか。蚩尤門に見限られた可能性はあるが、それでも組織自体は残っているだろうし、社会的に大きな変化が起こったわけではない。とはいえ、涼が斗牛を倒す姿はジョイやウォンの心境に変化をもたらした。ジョイは亡き母の墓前に参ると、離れていた家族に会いに行こうとし、ウォンは盗みから足を洗い仕事を始める。ゲームでの涼は香港社会にとっての異邦人として、自身の経験してきたものと異なるその社会や人々に対し、それはそれとして距離を置いたスタンスでいる。アニメ版ではこれまでも当時の香港社会を涼の信念を対置させてきたが、今回のように個人の変化が、あたかも社会の変化の萌芽と重ね合わせられているような描写はゲームとは全く違った印象を残す。
文武廟で秀瑛に別れの挨拶をする際の涼の発言は、復讐ではなく真実を探すことに重きを置かれていて、ゲーム版の悲愴さはほとんど無く、爽やかなものに変わっている。こうした部分は第6話の横須賀を離れる場面も同様で、アニメ版シェンムーに通底している。

莎花と莎木

桂林に到着し、白鹿村へ続く道をゆく涼。その途上で大雨に遭遇し雨宿りしていると、増水した川に流された仔ヤギを助けるため川に飛び込む少女を目撃する。涼もすかさず川に入り、少女と仔ヤギを救出するが、その場で涼は気を失ってしまう。気が付くと、涼は救出した少女の家で目を覚ます。シェンファと名乗ったその少女は、ここが白鹿村であることを告げる。外に出た涼は、シェンファの家の前にある「莎木(シェンムー)」と呼ばれる木と出会い、その姿に芭月家の庭に立つ桜を思い起こす。シェンファの家には鳳凰鏡と同一の図面があり、それはシェンファの家に古くから伝わるもので、村に伝わる言い伝えとも関係しているのだという。父ならば何か知っているだろうと言うシェンファは、父が仕事をする石切り場の洞窟へ涼を案内する。しかしそこに父の姿はなく、シェンファに宛て、涼が訪れることを予見した書き置きが残されていた。その先には鏡を嵌め込むことのできる台座があり、涼はそこに鳳凰鏡を置く。鏡が光を放ち、仕掛けが作動すると涼とシェンファの前に巨大な鳳凰鏡と龍鏡が姿を現した。
ゲーム版で長く時間が取られた、涼が白鹿村に辿りつくまでの道程は大幅にカットされた。それなりに長い道のりなのだが、アニメ版では涼が気を失い、起きたら白鹿村に到着しているので、まるでワープしたような感覚を覚える。単純な疑問として、気を失った涼をシェンファはどのようにして家まで運んだのだろうか。もしかしたら途中で村の住民に出会って運んでもらったのかも知れない。危険な山道を独りで進み、途中でシェンファを救出したあと、二人で話しながら白鹿村への道を行く。自分としてはこうした牧歌的でゆったりとした部分はアニメでも観てみたかっただけにカットされてしまったのは残念だ。ラストシーンはアニメ第一話で示されたものと同様で、シェンムーⅡの最後、そしてⅢの始まりだ。ゲームもアニメも『シェンムー』は未完の作品なのだ。

これは自分の勘違いだったのだが、本作を全14話構成だと今回の配信前まで思い込んでいた。ちょうどドリームキャスト版シェンムーⅡが4枚組ディスクの最後で桂林編を描いたように、13話で香港編を終え、最終話すべてを使い切って桂林編の旅路からラストまで描かれるものだと思っていたのだ。それだけに桂林編の短さには肩透かしを食らったような感覚を覚えた。
これまで『Shenmue the Animation』全13話について感想を述べてきた。
本作はシェンムーⅢがリリースされている現在だからこそ成立したⅠ・Ⅱのアニメ化だと言える。序盤から白鹿村のシェンファの様子が描写されたり、最終話で藍帝との戦いが起こるのもシェンムーⅢを念頭に置いたものだろう。また、ゲームでは涼の視点でしか推し量れなかった出来事が、複数の人物の視点を通してわかるのもアニメ版の特長である。
シェンムーは、コアなファンの多い作品だと思う。このアニメを観ている人の多くも、原作を遊んで好きだった方々なのではないだろうか。自分はシェンムーを遊び、観る、いちユーザー・視聴者に過ぎないが、アニメ版をきっかけに、シェンムーについて知らない人に例え名前だけでも伝わったら良いと思った。どの程度の数の人がアニメからシェンムーに触れたのかはわからないが、感想を書くにあたって最低限ゲームを知らない人にもわかるように書いたつもりだ。もしアニメから触れたという方がいたら是非とも話を聞いてみたい。

少し前までは、シェンムーのアニメが2022年に放映されるなど夢にも思わないことだった。本作に関わられた方々に御礼申し上げる。
『Shenmue the Animation』はゲームとは異なるシェンムーに毎週出会える作品だった。


『Shenmue the Animation』公式サイト

https://shenmue-anime.jp/

『シェンムーⅠ&Ⅱ』公式サイト

https://shenmue1-2.sega.jp/

『シェンムーⅢ』公式サイト

https://third.shenmue.com/

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