最初の卒業生 その1

かれこれ10年ほど教師をしていますが、最初の卒業生というのはやはりたくさんの思い出を呼び起こしてくれます。

僕がはじめて担任を持ったのは高校2年生でした。その後別のコースの2年生の担任となり、次の年、そのままその子たちの3年生の担任として、はじめての卒業式を経験することができました。僕の学校は2年生で文系と理系に分かれるのですが、文系のクラスの担任を持ち上がりで、2年間担当したというわけです。その卒業式からもうすぐ6年の月日が経ちます。


去年の文化祭に突然そのうちの一人が訪ねてきて僕に声をかけてくれました。高校では軽音楽部に所属していた男子で、ありきたりな話ですがギターに熱中しすぎていて、親御さんは勉強が不安だ、という感じの生徒でした。担任でしたし何度も面談する機会はありましたが、言うことはいつも一緒だったと思います。ギターもがんばれ、でも勉強もがんばれ。髪型のことで注意したこともありました。どちらかというと我が道を貫きたい、そういう気持ちは当時十分感じとれました。今思えばもう少し温かい言葉をかけられたと思います。僕もまだまだ新米、先輩の目なども気になりましたし、自分なりの教師としてのあり方もまだ欠片もつかめていない未熟者でした。

その生徒が去年僕に見せてくれたのは小さな紙切れでした。失礼なことに僕自身あまり覚えていないのですが、高校の時クラスの生徒みんなに励ましのエールを書いたものでした。汚い字の小さなノートの切れ端のようなものを大切に財布の中にしまってくれていたのです。それを見せて、自分は来年教師になるのだと目を輝かせながら語ってくれました。

人一倍感受性の豊かな生徒でした。3年生の時、僕はクラスであえて一度も席替えをしなかったのですが、そのことを取り上げて、卒業式の日に彼がクラスのみんなに語ったことをはっきり覚えています。「席替えをしなかったのはきっと先生の作戦だ。3年生の思い出が深くなるように、いつでも思い出せるように、隣の人が〇〇さん、後ろの人が△△さん、と先生が固定してくれたんだ」と。全く買いかぶりなのですが、そう感じ取ってみんなに語ってくれました。さすがミュージシャン。大学でも軽音はかなり頑張ったようで、CDなども制作したということです。

きっと生徒の表情、言葉、仕草からたくさんのことを感じ取ってくれるステキな先生になってくれることと思います。自分が思っている以上に、生徒は色んなことを感じ取って学んでいるんだなと思うと同時に、自分が想像し、感じとれている生徒の気持ちはごくごく一部分だけなんだと反省させられる出来事でした。


同じクラスで学級委員長をしてくれた男子のことも印象的です。勉強は得意でしたが、人前で話したり、指示を出したりすることは苦手な生徒でした。僕は意地が悪いのでわざとやりたくないことに挑戦させようとします。

委員長として、3年生の文化祭でフランクフルトの屋台のリーダーもしました。そして、飾り付け、売上などの総合評価で見事優勝したのですが、そのときに彼が涙を流して喜んでいたのが忘れられません。きっと達成感、充実感で感極まったのでしょう。卒業式の日も最初にみんなの前で喋ってもらいました。やはり、涙を流していました。彼の涙を否定的に評価する人は一人もいなかったと思います。その涙もクラスの雰囲気をつくる源に確実になっていました。今思えば本当に38人がきちんとそれぞれの優しさをもった、包容力のある生徒たちだったと思います。


その他にも、委員長と対照的に、人前でしっかり喋れる副委員長のOさん。一番前の席で毎日僕の相手をしてくれたFくん。一番僕に叱られたバスケ部のNくん。毎日ボタンをとめなさいと言った別のNくん。ダンスが得意でひたすらマイペースなTさん。絵を描くのが得意で文化祭で大活躍したIさん。いつも明るく笑顔で挨拶をしてくれるKさん。などなど、キリがありませんがやはり一人一人特別な生徒です。


さて、このクラスのことを語る上で、バレー部のキャプテンだったHさんのことを語らない訳にはいきません。その話はその2で。

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