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設計契約の重要事項説明

 1 設計監理契約を取り交わしていますか?

 ある建物を建築する場合に、建築士法上は、設計→監理→施工というプロセスが前提とされています(時間軸としては、監理と施工は並行もしくは監理が事後確認であることからすれば、監理が少し劣後しているでしょうか)。設計、監理、施工がそれぞれ分離発注であれば、各プロセスに応じてそれぞれ契約が締結されることになりますが、戸建住宅のような小規模建築において、設計、監理、施工が全て分離発注となっている場面はそう多くはないと思います。大体は、設計・施工を一括で請け負っている工務店が多いのではないでしょうか。
 このような場合に、請負契約は締結しているものの、設計監理契約をきちんと取り交わしていないケースがよくあります。特に、地方の工務店などにおいては、設計監理契約については、軽視しがちな傾向があります。
 こうした場合に何か問題点はあるのでしょうか。

2 建築士法の規定

 まず、建築士法の規定から確認していきます。

(重要事項の説明等)
第二十四条の七 建築士事務所の開設者は、設計受託契約又は工事監理受託契約を建築主と締結しようとするときは、あらかじめ、当該建築主に対し、管理建築士その他の当該建築士事務所に属する建築士(次項において「管理建築士等」という。)をして、設計受託契約又は工事監理受託契約の内容及びその履行に関する次に掲げる事項について、これらの事項を記載した書面を交付して説明をさせなければならない。
一 設計受託契約にあつては、作成する設計図書の種類
二 工事監理受託契約にあつては、工事と設計図書との照合の方法及び工事監理の実施の状況に関する報告の方法
三 当該設計又は工事監理に従事することとなる建築士の氏名及びその者の一級建築士、二級建築士又は木造建築士の別並びにその者が構造設計一級建築士又は設備設計一級建築士である場合にあつては、その旨
四 報酬の額及び支払の時期
五 契約の解除に関する事項
六 前各号に掲げるもののほか、国土交通省令で定める事項
2 管理建築士等は、前項の説明をするときは、当該建築主に対し、一級建築士免許証、二級建築士免許証若しくは木造建築士免許証又は一級建築士免許証明書、二級建築士免許証明書若しくは木造建築士免許証明書を提示しなければならない。
(書面の交付)
第二十四条の八 建築士事務所の開設者は、設計受託契約又は工事監理受託契約を締結したときは、遅滞なく、国土交通省令で定めるところにより、次に掲げる事項を記載した書面を当該委託者に交付しなければならない。
一 第二十二条の三の三第一項各号に掲げる事項
二 前号に掲げるもののほか、設計受託契約又は工事監理受託契約の内容及びその履行に関する事項で国土交通省令で定めるもの
2 第二十条第四項の規定は、前項の規定による書面の交付について準用する。この場合において、同条第四項中「建築士」とあるのは「建築士事務所の開設者」と、「建築主」とあるのは「委託者」と、「当該結果」とあるのは「当該書面に記載すべき事項」と、「報告する」とあるのは「通知する」と、「文書での報告をした」とあるのは「書面を交付した」と読み替えるものとする。

 いかがでしょうか。重要事項説明、行っていますか?
「報酬の額及び支払の時期」、「契約の解除に関する事項」など、きちんと説明していない場合もあるのではないでしょうか。
 なお、施主によっては、重要事項説明を行っていないから契約が無効であるという主張をしてくる場合があります。契約の有効性については、建築士法はいわゆる「公法」であり、私法上の法律関係については影響を与えるものではありませんので、公序良俗に反するような内容でない限り、重要事項説明を行っていないという事情のみをもって、契約が無効であるという主張は通らないでしょう。

3 何が問題なのか

 もちろん、建築士法で重要事項説明や書面交付義務が規定されている以上、これを実行していない時点で、建築士法上、違法との評価になりますので、それ自体問題です。
 この点は措き、何が問題なのかを考えてみましょう。
 まず、契約の有効性ですが、建物を建築するにあたっては、確認申請において設計者や工事監理者の記載が求められておりますので、当然、業務の中に設計業務・監理業務が要求されている以上、契約書を取り交わさなくとも、設計契約・監理契約自体は黙示の合意により成立していると考えることができます。
 じゃあ、別にいいではないか、と思われるかもしれません。確かに、建物が最後まで完成して、施主が何も言わずに代金額を払ってくれれば、具体的な問題は起きないかもしれません。ところが、途中で契約が解除された場合はどうでしょうか。設計業務まで終わり、いざ着工しようというときになってから、施主に契約を解除された場合を考えてみてください。
 中途解除となった場合に、施主に対して設計料を請求したいという依頼を受けることがあります。そこで、契約書を見せてください、と言うと、設計契約をわざわざ交わしていない(重要事項説明もやっていない)ということがあります。ここで何が問題になるかと言うと、「設計料がいくらかかるのか」という合意をしていないのです。つまり設計業務だけで契約がとん挫してしまった場合、いくらもらえるかの合意がないので、請求が難しくなってしまうのです。建築士法が、重要事項説明として掲げている「報酬の額及び支払の時期」、「契約の解除に関する事項」を一切説明していないような場合、最悪、設計業務は営業行為の一環であるという考え方を取られてしまう可能性もあります。
 書面を交わしていないからといって、直ちに設計報酬が全く請求できなくなる、というわけではありませんが、少なくとも、相当報酬額をどのように算定するのか、設計業務がどこまで終わっているのか、という点については積極的に立証しなければなりません。
 なお、設計契約の成立に関する裁判例を見てみると、東京地判昭34年4月24日下民集10巻4号815頁は、設計契約における報酬請求権に関し、「明示の報酬額の約定は認められないが商法第512条に照し、原告は被告に対し原告の営業の範囲に属する本件建物の設計をなし、前叙設計図面書及び構造計算書、等一式の図書を作成交付したことに対する相当な報酬を支払わなければならないものというべきである」と判示し、設計図等の作成とその引渡しがなされている場合には、報酬請求権の発生を認めています。
 また、東京地判昭和51年3月3日判時839号97頁は、建築主が設計変更の要望を出していた事実や、建築確認申請手続代行をするのに必要な書類を作成していた事実等を認定した上で、「右認定の経緯に照らせば、(中略)〔建築主は、設計施工者に対し、〕設計図、構造計算書の作成および工事費の見積りを依頼したものと解するのが相当である」と判示しているところ(〔 〕)は筆者挿入)、遅くとも建築確認申請手続代行に必要な書類を作成していた時点では、契約は成立しているとした点が参考となります。

4 旧告示15号(平成31年に告示98号に改正)による算定

 設計報酬を定めていなかった契約について、告示15号に基づく請求をする場合があります。計算したことがある方であれば分かると思いますが、告示15号に基づいて設計報酬を計算すると、設計料は、かなりの金額になります。小規模建築で告示15号を参考に設計報酬を算出している設計者はあまりないのではないでしょうか。
 裁判例を探してみると、判決の中で、告示15号という用語は用いませんでしたが、最終的には、請求者側が告示15号に基づいて算出した額をそのまま認容している裁判例もあるようです。もっとも、この案件を一般化してよいかは、相手方の争い方にもよると思われるため、あくまでも個別事案と考えた方がよさそうです。

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