MMORPGで友を喪った話

 週末には初七日になります。空虚な想いを胸にこれを記しています。このような作業自体をする気にもなれないのですが、とある人物により著しく故人の名誉が傷付けられていることを知りました。よって、僕としては誰に反論するでもなく。ただただ真実の記録として、インターネットの海に流しておくことにしました。いつかどこかで故人を知る人物に届けばいいな程度に考えています。

 要約すれば、僕の元職場の先輩であり、友達であり、隣人でもあった、とある女性が、MMORPGで出来た恋人を、同じくMMORPGで仲良くなった友達に寝取られて自殺したという話です。故人のゲーム仲間によると、彼女を死に追いやった女性は、鍵垢に引き籠り、故人が本当は生きており自分を一方的に悪者にしただけなどの誹謗中傷を繰り返しているそうです。

 わざわざ訂正する意味もありませんし、それをしたところで故人が生き返る訳でもない。僕としては、正直もうどうでもいいから故人について言及もせず、静かに弔わせてくれないかという想いしかありません。自身が死に追いやった事実を直視する訳でもなく、なかったことにするような人間性については、略奪愛を敢行できる時点で察しています。少なくとも、現代倫理観においては人の道を外しているでしょう。

 第一発見者でもあった僕が関係各所へ連絡を入れました。呼吸不全により亡くなりましたが、酸素欠乏による心不全なのでしょうか。頭が真っ白であり医学知識もないですから何やら説明されましたが、覚えておりません。よって、詳細については今はもう知る由もありません。知る意味もありません。発見が遅過ぎた。ただただ後悔しています。半月ほどろくに休めていないことは知っていました。まともに食事も摂れていないことも知っていました。娘さんを預かる頻度が増えていましたから。

 その日もお花見に連れて欲しいと頼まれ、折角ですからゆっくり娘さんとお花見を楽しみ、故人へのお土産を選び。帰宅するまでにあまりにも時間をかけてしまった。故人がパソコンならびにスマホへ遺書を殴り書きしていましたが、僕へは丁寧な手紙が遺されていました。おそらくかなり前から決心していたのでしょう。僕は、パニックに陥りながらも、救急へ連絡をし、どうしていいか解らなくなりましたが。やがて、故人の指示通り各所へ連絡を入れ始めました。何もしていなければ、不安に圧し潰されそうでしたから。

 僕が冷静に作業が出来たのは指示のお陰ですが、最後まで先輩面をし、僕の面倒をみて下さいました。さて、ここで一つ反論をしておきましょう。故人に死を与えた女性は、上述のように僕の自作自演だと吹聴しているようです。京都出身の彼女を揶揄して、京都女が考えそうなやり口だ、とのように故人を徹底的に馬鹿にして、鍵垢の中では仲間らから賛同を得て、実に楽し気にしているようです。

 僕は、第一報では関係各所に救急搬送のみお伝えしました。故人は、ゲームを楽しんでいました。自分ではない自分になれるからと、特にVRゲームに多くの時間を費やしており、パソコン本体や周辺機器込みで50万近くかけて環境を作っています。僕との共同出資ではありますが、それでも先輩風を吹かせてその殆どを払ってくれています。また、ようやくyoutubeチャンネルも100名を超えたねとお祝いした矢先でした。もし、同情をひくだけならば、救急搬送報告のあとに快復したと伝え、時間をかけてゆっくりと復帰すればいいだけの話でしょう。死を偽装するメリットが無い。今まで故人がこつこつ積み上げた環境を捨てる必要性も感じない。

 そもそもの前提として、故人を追いやった人物がかつてのゲーム仲間などから非難されている理由は、当たり前のように表では仲良くしていた友達の恋人に手をだし、略奪した上で平然としており、更には悪態をつきながら侮辱を続けているからでしょう。問題をすり替えて、自殺は嘘だからなどと下劣な噂を撒くことで、存在していない自身の正当性を主張している。そして、自身を被害者ポジションへ置くことで同情をひいている。

 故人は、誰にでも優しく、自分に自信が無い人でした。僕からすれば、到底まともな人間が出来ないような、信じられないような悍ましい裏切りをした相手にも、遺書を残していた。心が軽くなるような気遣いに溢れた温かみのある柔らかな文章でした。故人のことですから、間接的死因となってしまった自身を責めないか心配してのことでしょう。故人にはよく人を見る目が無いから恋人が出来たならば僕に紹介しろと言い続けていましたが、今でもそこに関しては意見が変わりません。

 ゲーム仲間の代表者的人物へは故人の指示通りに恋人とのやり取りの一部を送付しました。恋人関係であったことは疑いようがないでしょう。恋人への遺書へは謝罪の言葉が連なっていました。全ての遺書へ目を通し、常識外れな部分に関しては添削するよう頼まれましたが、どうして遺書へ手をつけられましょうか。本当ならば、憎しみの言葉に書き換えてやりたかった。新たな彼女の耳障りがいい言い分のみを信じ、かつては恋人と友達という関係だったにも関わらず、故人の尊厳を二人して死後も辱めている。そのような男に惚れて欲しくなかった。そのような女と友誼を結んで欲しくなかった。

 僕と娘さんは、もうただただ静かに故人を弔いたい。これから二人で生きていかなければなりません。各種手続きなどもあり、心を砕きたくありません。娘さんを幸せにしてくれと託されています。少なくとも、何十年後かに娘さんが立派に成長を遂げ、パートナーを見付けるその時までは。

 仮に死が演出なのであれば、故人が何かを得ることが出来ましたか。かつての恋人は、新たな彼女に言い含められて。故人との美しかったであろう思い出すら汚され、一部のゲーム仲間も嘘にのまれて距離を置くことでしょう。死を提示しろという悪魔の証明を突き付けて、こちらが虚言により陥れたかのように錯覚させているだけです。そもそも論ですが、誰が一番得をしていますか。故人を乏しめることで自身の人望を高め、略奪した恋人から罪悪感を消し去り、更に自分への信頼も高めた人物がいるでしょう。

 尤も、仕事関係者に頼めば証言はしてくれるでしょうけれども。それをするなら、これらの話を故人の現実関係者へする必要が有りますし、仮にしたとて複垢だとか喚かれてしまえばやはり証明が困難です。まあ、以上が真実です。僕は、もうこれ以上なにも故人については語りません。どうせ、ああ言えばこう言うでしょう。どれだけ証拠を提示しても事実を認めないでしょう。それに話が通じない相手と対話をする必要性を感じていません。ましてや、それが僕の大事な友人を嘲笑うような人物ですから尚更です。

 僕が故人ではないのかと疑われるたびに、故人の信頼が、故人が築いてきた人間関係が、故人の生きた様が、崩れていくようで。正直、僕には耐え兼ねます。娘さんと二人、故人が信じてくれた僕たちだけが全てを知っていればいいですから。このメモをインターネットの海にそっと流すだけにしておきます。雑音が早く収まり、せめて安らかに眠れますように。

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