フェンダーローズの魅力
ご存知”電気ピアノ” の代名詞、
断じて ”電子ピアノ” ではない。
何故か?
電気ピアノの音が出る原理は ”打鍵式” 、つまり本物の様に ”弦” こそ使わないがその代わりに音叉状の金属棒をハンマーで叩いて(エレキギターと同じ)マグネチックピックアップで増幅するという原始的な方式。
このおかげ?で、演奏者はアコースティックピアノと同様に ”タッチのニュアンス” を出す事が可能だったし何よりその独特な音色は多くの聴き手をも魅了したのである。
最近ではアンプも込みでエレキギターやエレキベースももはや ”アコースティックな” 楽器として受け入れられる事が多くなってきた・・・・・・・これは余りにも台頭し過ぎたシンセやプログラム(打ち込み)音源へのアンチテーゼであろうし、この電気ピアノに求められる ”人間臭さ” にも同じ事があてはまるのだと思う。
これは僕の一方的思い入れに過ぎないが
同じ ”電気ピアノ” でもウーリッツァーがロック~ポップスのイメージなのに対し(←ノラジョーンズとかカーペンターズとか)、ローズピアノだと断然 ”ジャズ楽器” という気がしてならない。
色々異論もあるだろうが、ジャズ界にこいつを導入したのも ”帝王” のあの人ではなかったか?
このローズピアノの特性として、エフェクトがかかり易い音質 という事は指摘されてもいいと思う。
以下、マイルスバンドを60年代末~70年代前半に去来したピアニスト達を例にいくつか・・・・・。
”第一号” の栄誉はこの♪マイルスインザスカイでのH・ハンコック。
まだ ”おっかなびっくり" 弾いている感が強く特にこれといったエフェクトもかけていない。
(ちなみにR・カーターもE・Bassをこの中で初めて弾いている)。
ハンコックの後を引き継いだC・コリア。
この頃になると当時時代を席巻していた ”ニューロック” や ”サイケデリック” の影響もあり随分過激な奏法になっている。
このフィルモアイーストでのライブ盤に顕著だが、リングモジュレーター等の使用~チックの打楽器的演奏もあり最早ノイズ(効果音)発生器、と言う感じ・・・・・・。
70年代に入ってからはC・コリアとのダブルキーボード期を経てK・ジャレットがピアノの椅子に座った。
このころの演奏は長い間ブートレグでしか聴けなかったが近年出た ”公式盤” ♪セラードア で良好な録音と共に
その全貌が明らかとなった。
ここで聴く事の出来るキースのピアノ、ダブルキーボード期に弾いていたオルガンをそのまま移行させたような演奏で具体的にはワウワウペダル等を多用した非常に ”泥臭い” もの。後年彼がこだわり続けたアコースティックの世界とは全く対極をなすが、僕はこのアーシーな要素も彼の重要な ”血” の一つだと思う。
また途中何度も純然たるsoloパートも出てきてマイルスがいかに当時キースを買っていたかが良く分かる。
最後にもうひとり、ジョー・ザヴィヌル。
この人はマイルスバンドではあまり前面に出る事は無かったが、キャノンボール時代からエレキピアノを弾いていた事もあって ”ピアノの音創り” に関しては最も長けていた。
これ(⇒)は退団後直ぐに出されたウエザーリポートのもの。
特徴的なのはサスティーンを十分効かせた上でのフェイザー等位相系エフェクトの多用、このライブ盤で聴ける音色はその後のスタジオ録音でも継承され亡くなるまで彼のトレードマークとなった。
さらにこの ローズピアノの音色がより一般的になるのはも少し時代が下った ”フュージョン全盛期”。
またまた独断になるが、決定的な2枚を挙げよう。
上では冴えなかったハンコックだが、持ち前の探究心と器用さであっという間にこの楽器のツボをマスターした。
大ヒットした♪カメレオンに続くヘッドハンターズ第二作。
ここではステレオコーラス、ピッチベンダーに始まり様々な隠し味エフェクトがちりばめられひと言では言い切れないが聴けば直ぐに判別できる ”ハンコックのあの音” 。
特に名曲♪バタフライでのエレピソロはローズピアノでなければ弾けない物、killer中のkiller曲だ。
もう一枚
中古屋の100円箱常連になって久しいのは悲しい限りだが、それだけ売れた、ということ。
リチャード・ティー!!!!
何というスタイリストだろうか!!
同じくステレオコーラスを目一杯かけた音色とたっぷりのトレモロ効果
明らかに一時代(80年代)を画した音だが今でも決して色あせてはいない。
最後に
”純然たる” ジャズピアニストは意外とこのフェンダーローズに手を出してはいない。
僕がパッと思い付いたのでもH・ジョーンズやT・フラナガン、そしてC・ウォルトンくらいしか名前が出てこないし、その使用についても特に ”必然性” の感じられる物は少なかったように思う。
そんな中あのB・エヴァンスが一時それこそとり憑かれたようにエレクトリックピアノ(多分ローズ)に固執していたのは余り知られていない。
TrioよりもSolo、しかも多重録音による自分相手のDuoでの使用が目立った。
アコースティック・エレクトリックの音色の対比に興味を持ったのかもしれない、やはり他の ”ジャズピアニスト” 同様ノーエフェクトでぶっきらぼうに弾いているだけだが、打鍵のタッチが強力な為面白い効果を上げている箇所もそこそこあった。
さらに特筆したいのは、ハンプトン・ホーズのエレクトリックピアノ。
Be-Bop期から活躍してきた ”ブルース弾き” で知られるベテランだったが晩年(’77年没)のスタイルは大きく変貌していた・・・・・・ズバリ言えば ”B・エヴァンスへの急接近” なのであるがもしかしたらこのエレピへの接近もエヴァンス経由だったかもしれない。
ジャズピアニストの弾くエレピではH・ホーズが最もしっくりきた。
違和感が最も少なかった、と言い換えるべきか?
恐らく本人はそんな事いざ知らず、ただ弾きたいから弾いていたに過ぎないのであろうが・・・・
強くてメリハリあるタッチ
左手のちょっとした ”音価” の長さ(タメ、のようなもの)
しいて言えばこれ位しか理由は挙げられないが、何故か彼のエレピは耳に心地よいのである。
こうした晩年の演奏はPrestige10000番台で何枚か
B・クレンショウ(b)K・クラーク(ds)と組んだ一連のモントルー実況盤シリーズも良かったがやはり白眉はコレ!!
キャロル・ケイ(b)、スパイダー・ウエッブ(ds)プラスホーンセクション、彼がもう少し長生きしてこの路線(ルーズなFunk物)を続けてくれたら、と思わずにはいられない。
ここでは明らかにエレピである必然性があったのだ!!
もう一枚
これはA・ペッパー盤でのサイド演奏、
ここで聴けるローズピアノの音はちょっと異様だ。
No-エフェクトは相変わらずだが、まるでライン録りしたかのような(実際そうだったかもしれない)生々しさ、この音色が意図的かは別としてこれがアルバム全体に流れる ”一種の諦観” に大きく関わっている事は間違いない。
ペッパーとホーズ、それぞれ麻薬更正施設を経てスタイルが全く変わってしまった者同士
かたやコルトレーン、かたやエヴァンス。
よく ”唄う” メロディックな世界(code)からある意味 ”唄を否定する” modeの世界へ飛び込んだ・・・・
この似たもの同士二人の不気味なくらいに響きあう音楽性はフェンダーローズらしからぬ ”乾いた” 音色がピッタリくるのだ。
僕はこのローズピアノが大好きである。
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