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【RS11】『たのしい』を創るイラストレーター・かとう香り

都内での個展開催や、オンラインでの雑貨販売などを行っているイラストレーター・かとう香り(かおり)。「昔ながらの遊びやお祭り、玩具からインスピレーションを得ることが多いです」と語る彼女がモノ作りを始めた経緯と、実際の作品、それらに込めた思いを聞いた。

まわり道もしたけれど、アートの世界で生きたい

埼玉県出身のかとう香りは、イラストレーションと雑貨の制作・販売を中心に活動しているアーティストだ。

「私の場合、絵は絵として終わりじゃなくて、『何かになる絵』を描いているのかもしれません。トートバッグにするための絵を描こうとか、レターセットにするための絵を描こうとか。飾ることが目的の絵なら『額縁に入った絵を作る』という気持ちで描き始めます。発想が雑貨寄りとも感じます」。

そんな彼女は、幼いころからモノづくりが好きだった。

「小学校の図画工作の授業が好きでした。絵を描くのはもちろん、何かを作ること自体が楽しかったんです」。

しかし、モノ作りを仕事にできるとは考えていなかった。「大人になったら普通に、会社に就職して働くんだろう、とぼんやり思っていました」。

アートの世界に心惹かれながらも、進路選択のたびに迷っていた。

「高校受験のとき、美術科のある高校に行きたいと思いました。でも周囲に説得されて、自分も少し将来が心配だったので、普通科へ行きました」。

高校生時代の思い出として、初めてペンケースを手作りしたことを挙げる。「可愛い布を幾つか買ってきて、ファスナーの色にもこだわって、パッチワークのように縫い合わせました。自分の雑貨作りの原点かもしれません」。

大学受験の際にも、美術系への進学を検討した。

「ただ、真剣に進路を考え始めたのが高3になってからでした。美大へ行くなら予備校に通わなきゃいけないのに、間に合いません。学力面を合わせて評価してくれる東京学芸大学なども調べましたが、一歩踏み出す勇気がありませんでした」。

悩んだ末、 埼玉県立大学作業療法学科へ進学。

「手に職をつけて働いて、定時に帰って、絵を描こうと思ったんです」。

しかし、いざ入学してみると、想像よりも厳しい世界が待っていた。

「これはいかん、このまま就職したら絵なんか描けないぞ、と。ようやく覚悟を決めて、卒業後、専門学校へ通うことにしました」。

創形美術学校ビジュアルデザイン科に入学した彼女は、改めて自分の絵に向き合った。

「それまでは、主に水彩絵の具を使って、ほっこり系の可愛いと思う絵を描いていました。でも『可愛い』とか『ビジュアルがいい』だけだと深く楽しんでもらえない、もう一歩進んで楽しめる何かが必要だと感じるようになりました」。

画材や色遣いを変えたり、アートと関わらない文芸書を読んだり、試行錯誤を重ねた。

人物の顔の描き方にも、工夫を凝らしている。

「シンプルな表現を心掛けはじめていたとき、専門学校の先生に『どうして顔もデザインしないの?』と言われて、ハッとして。シンプルなものは長く残りますが、ともすると個性が失われます。最近は、しっくりくるものが描けるようになってきました」。

研究に勤しむだけではない。1年生のときは友人とグループ展示を行い、2年生では初の個展をにじ画廊にて開催。翌々年にはStarbucks Coffeeで展示をするなど、積極的に展覧会を開いてきた。

一方で、雑貨の制作にも取り組んだ。「キャンバス布に絵を描いてペンケースにしたり、トートバッグにシルクスクリーンで柄を刷ったり、ポストカードを作ったり。どれも作り方は独学です」。

東京国際展示場で毎年行われている、アジア最大級の国際的アートイベント・デザインフェスタにも、たびたび出展した。

「たくさんの方が私の雑貨をお買い上げくださって、嬉しかったですね。minneでのオンライン販売を始めたり、minneのブースに出展させていただいたりしたのも、この出展がきっかけでした」。

一緒に楽しめる遊び場のような作品を

専門学校卒業後は、都内のギャラリーに勤めながら、フリーのイラストレーターとして活動を本格化させた。

「常に最高を更新していきたいですね。今までの私のなかで、一番いい物を作れるのは、今の私!最新作が最高傑作と言いたいです」。

リスペクトしている特定の作家はいないが、美術館にはしばしば足を運んでおり、日本各地の郷土玩具にも興味を持っている。

「浜松張り子の『酒買いだるま』とか、可愛いですよね。昔ながらの玩具にはときめきます。作品のインスピレーションを得ることもあります」。

2021年9月には、自身3回目となる個展の開催を控えている。

「ここ数年、日本の文化や遊びに関心があって、去年は『判じ絵』という江戸時代のなぞなぞをモチーフにした絵を描いていました。言葉と絵は切っても切れない関係にあります。9月の個展でも、言葉遊びをテーマに制作していこうと考えています」。

既存のものだけでなく、新しいオノマトペを作り、絵と組み合わせる。

「たとえば宮沢賢治は、独特なオノマトペを使うことで有名です。『クラムボンはかぷかぷわらったよ』とか『病人はキシキシと泣く』とか。それらは彼の作品の世界観を広げているし、私もそういうことをやれたらなと思っています」。

個展では、イラストに加えて、もちろん雑貨も展示販売する予定だ。

「雑貨にも、それぞれ言葉や詩を付けたいですね。キャプションを置くか、タグのような形にするか……方法は、まだ迷っています」。

今後の目標については、「もう少し世の中が落ち着いたら、渋谷や原宿でも個展をやってみたいですね」。

けれども、一人でできることには限界を感じている。

「最近、友人たちと一緒に、コーヒーとおやつのセット販売を企画しています。私はパッケージのデザインと制作を担当しているのですが、とても楽しいです。これからも、色んな分野の才能がある方と一緒に、面白いものを作っていけたらいいなと思います」。

プロダクトや広告のイラスト、書籍の装丁、CDジャケットのアートワークなど、やってみたい仕事は多い。

自分の作品を通じて伝えたいことはありますか?と訊ねると、「伝えるというよりは『一緒に遊ぼう!』という気持ちで活動しています」との答えが返ってきた。

「世の中に問題提起するとか、自分の存在をアピールするとか、重たいテーマの作品は普遍的で、後世に残ります。でも、やっぱり楽しいものが好きなんです。だから私の作品は、玩具やお祭りをテーマに取り入れたり、そういうものの一部になれたらと考えています」。

一方的に作品を見せたり、思いを伝えたりするのではなく、双方向で展開していきたいのだと語る。「個展も、遊び場を作る感覚で開催しています。私の作品をきっかけに集まってもらって、みんなで遊べたらいいな、と」。

たしかに編者も、可愛い雑貨が自分の部屋にあるだけで、気持ちが晴れやかになる。「人の心の明るい部分に寄り添うものを創りたい」と語る彼女と、その作品群が、世界を一段と素晴らしいものにしてくれることを願う。

text:Momiji

INFORMATION

2022.02.17(Thu)-02.22(Tue) 12:00 - 20:00
展示タイトル「けらけら くすくす かんらかんら」

[会場] にじ画廊(東京都武蔵野市吉祥寺本町2‐2‐10)
[料金] 観覧無料 

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