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エディターとは何か #後編

こんにちは!REASNOT編集長の紅葉です。

私が廃刊申請の時期を間違えたため、最後にもう一回、Fan Magazineを更新しなければならなくなりました。何を書こうか考えたとき、前編を書きっぱなしで放り投げていたこの記事を思い出しました。

なんとも情けないお話ですが、今だからこそ書けること、書きたいことがあります。結果として、これでよかったのかもしれません。

前編は下記リンクから。せっかくなので、全体を通してご覧ください。

第3章 「エディター」の職域・特徴

前章では、下記のような比喩を用いて、「ライターとは木こりのように材料を集める仕事だ」と述べました。

形のあるものづくり、一般的な商売と同じだと思います。森を育てて、木を伐って、材料を集めるひとがいる。その木を加工して、板やねじを作るひとがいる。設計図を書く人がいる。設計図通りに組み立てるひとがいる。出来上がった品を綺麗に磨いて、梱包するひとがいる。商品を宣伝するひとがいる。お店で、実際に、お客さんに売るひとがいる。

https://note.com/reasnot/n/n4d4d9db9f9c8

では、エディターとはどんな仕事なのか?

ライターが書いた文章を直す仕事でしょうか。もちろん、それも業務のうちですが、本質とは言えません。

エディターの神髄は「企画を立てて遂行すること」です。

上記の喩えに当てはめれば、「こういう商品を作ろう!」と企画して、どの地域の木を使うか考え、腕利きの木こり・職人・工場・広告社・営業マンを探して仕事を依頼し、全体の進行を見守ります。

もし、誰かの仕事ぶりを見て「ちょっと違うなぁ」と思ったら、修正を加えるなどして、企画した商品を世に送り届けるべく努力します。

メディアという形のない商品をあつかう世界において、今どんな商品を誰に届けるべきかを考え、具現化する役割を担うのが、「エディター」です。


ライターを兼務するエディターは、自分の畑で収穫した野菜を自ら料理して、自分のレストランで提供するシェフのようなものです。産地直送どころか、全て自家製で美味しいですよ!というわけです。

ただ、そのやり方では、作れるものの種類が限られてきます。どうしたって時間は有限ですし、地域によって気候風土も違います。特定の場所で、一人で、全種類の野菜は作れません。

だから大抵のエディターは、ライターと一緒に仕事をします。美味しそうな料理(企画)を考え、各地の農家(ライター)に野菜(ネタ)を収穫(執筆)してもらい、自分が所属するレストラン(出版社)で提供するのです。


題材が文章ではなく、漫画でも同様です。映像の世界でも変わりません。編集者という仕事に向いているのは、企画を考えることに興味をもてるひとだと思います。

今、世の中に必要とされているのは、どんな作品か考えたい。自分が好きな作家を、なんとかして世の中に広めるべく工夫したい。誰かに、新しい世界の見方を届けたい。そんな人におすすめしたい職業です。

逆に言えば、純粋に書くことが好きとか、本を読むことが好きなだけというひとには、おすすめできない職業です。


もうひとつ、エディターが意識すべきことは、作品のクオリティだけではありません。一般の読者にどう届くか、届けるかまで、責任を持たなければいけません。

それを楽しめるかどうかも、重要だと思います。

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エディターは、出版社の正社員として働くことが多いです。現在はフリーの方も、一度は企業で勤めた経験があるでしょう。というか、ある程度しっかりと教育を受けたり、先輩の背中を盗み見たりしないと、エディターの仕事のなんたるかは学びようがないと思います。

これは、ライターとの大きな違いです。ライターには、いつでも、誰でもなることができます。SNSやブログを立ち上げて、思いの丈を綴るだけでいいのですから。そしてそのまま、一度も企業に勤めなくても、アマチュアからプロになることは難しくありません。

実際、私も初めてライターとして仕事を受注したきっかけは、趣味で書いていたブログでした。愛する小説への熱い思いを書き続けていたら、ある日、WEBメディアの編集部から「うちで書評を書きませんか」とメッセージをいただいたのです。


するべき仕事が大量にあり、72時間働けますか?状態になったりもするけれど、とてつもなく大きなやりがいを味わえる仕事が「エディター」です!

第4章 「Writer」の未来

この記事を書いている2023年春、AIが世間を賑わしています。

いわゆるChat GPTや、それに類似した様々なサービス。NOTEでも、AIアシスタント機能が誰でも使えるようになりました。

皆さんは、もう活用されていますか?

私は仕事上、少し触っただけです。

分かっているんですよ。もっと使ってみた方が良いことは。どんなツールであれ、使い続けることで見えてくるものがありますから。

ただ、どうしても好きになれないのです。

さらに、AIを使いたい!と思う場面がありません。


初めて自分専用のノートパソコンを買ってもらったときは、わくわくしました。原稿用紙に手書きするよりずっと早く、たくさんの文章が書ける。コピー&ペーストを使えば、改稿も楽ちん。夢中になりました。

「ググる」という言葉を知り、検索エンジンを活用し始めた時は、ウキウキしました。広辞苑や電子辞書を引っ張りだしたり、親や教師に聞いたりするより早く、豊富な情報を手に入れられる。夢中になりました。

Chat GPTには、そうしたときめきを感じません。

AIに「おススメのレストランを教えて」と聞いて、素敵なお店の一覧を貰うより、Googleやら食べログやら眺めまくる方が楽しい。私は「自分の手で情報を集めているという実感」が好きなんだなと、思い知りました。

暇な時の話し相手なら、AIにチャットするより、友達にチャットしたほうが楽しい。絵が描きたいなら自分で描く。文章を直したいなら自分で直す。ほんと、AIの何が良いのかさっぱりわかりません。


そもそも私は「スマートアシスト」的なものが嫌い、というのもあるでしょう。「Hey!Siri」とか「OK Google!」とか、言ったことがないし、言いたいと思ったこともありません。

きっと便利なのだろうと思うけれども、たとえば私、電気を点けるって動作がわりと好きなんですよ。ボタンをぽちっと押すときの感触っていうんですかね。何かが起きる、起こすって感じがして楽しいじゃないですか。

だからまあ、AI普及の流れについていけないのは、当然かもしれません。

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しかし、仕事上では、そんなことを言っていられません。

現在、AI生成イラストが、業界を混乱させています。勝手に自分の絵を学習され、怒っているイラストレーター。高品質な画像を無料で提供され、食い扶持を失いつつあるグラフィッカー。著作権や肖像権の問題も山積み。これらは他人事ではなく、いずれ文筆業にも波及するでしょう。

「適当に書いた文章でも、良い感じに修正してくれる!」なんて、キャッキャウフフと楽しんでいる場合ではなさそうです。


まず「テープ起こし」や「翻訳」、「校正」といった仕事は、AIに置き換わりやすいと考えられます。「AI、この音声データを文字に起こしてください」と指示さえすれば、正確に仕上がるのであれば、もはや人の介在する余地はありません。

次に、「ライター」の仕事も危ういです。AIならば、腕利きのライターが磨き上げてきた文章も、相手の思いを描きだすインタビューの極意も、あっという間に学習してしまうでしょう。

たとえば編集者が「旬のギタリスト・B氏のインタビュー記事がほしい」と考えたとき、B氏をPCの前に座らせ、「AI、B氏に〇〇というテーマでインタビューをして、記事として書き上げて」と指示するだけで成立するようになるんでしょうね。

いずれは「エディター」も仕事をしなくてよくなりそうです。

編集長が「AI、来月の雑誌△△の特集は『夏休みに聞きたい名曲』だ。良い感じの企画を3つくらい考えて、適当な曲を選んで、取材やインタビューが必要なら勝手にやって、記事を揃えてよ」と指示するだけで、一つの雑誌が出来上がるかもしれません。紙媒体ならば、さらに印刷工場とやりとりして、刷り上がりを目で確認して……という工程が必要になってきますが、WEB媒体であれば、上記で完結可能です。

いずれは、AIが編集長まで務めてくれるかもしれません。

恐ろしい時代ですね。

 *

「AIが書類を作ってくれるなら、私はもうパソコンを触らなくていいや」という事務員はいるかもしれません。「AIが手術をしてくれるなら、俺はもう外科手術はしない」というお医者様もいるかもしれません。

しかし「AIが記事を書いてくれるなら、俺はもう何も書かなくていいや」なんてライターはいないでしょう。「AIが雑誌を作ってくれるなら、私はもう何の企画も考えなくていいや」なんてエディターも、いないはずです。

CDが流行ってもレコードは滅びず、電子書籍が隆盛しても紙の本は存在しています。AI製のデータが普及しても、むしろそれゆえに、人間が手掛けた作品の価値は、きっと残ります。

将来的には、手書き原稿を切り抜いて貼りこんで、一冊ずつ手で製本した紙雑誌が、人気になったりして。


もっとも、そこへ辿り着くには、時間がかかるでしょう。

しばらくは「Writer」という仕事で食えない時代になりそうです。農家として生計を立てつつ趣味で取り組む、くらいじゃないと辛いかもしれません。

これは文筆業に限らず、あらゆる業界で起きるパラダイムシフトのような気がしています。絵でも、音楽でも、なんでも。

私はどうしても先を悲観してしまいますが、なんとか楽しく乗り切りたいですし、同じような思いの方と一緒に歩いていければ、と思っています。

おまけ

ここから先は、私がエディターとして働くことになったきっかけや、駆け出しエディター時代の思い出話を書きます。

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