見出し画像

【R15:WORKS】新たな武器となるクリエイティビティと、誰も体験したことのない表現を求めて

ギター弾き語りシンガーソングライターであり、映像クリエイターやデザイナーとしても活躍する西村亮哉(にしむら・りょうや)。彼が制作した作品群と、今後の展望に迫った。


映像クリエイターとしてやりたいこと

「昔から、自分で映像を撮って編集するのが好きだったんですよね。プライベートで旅行したときとか、中高生時代のバンドでライブをしたときとか。バンドのライブ映像は、まだYouTubeに残っています」。

撮影編集の仕事を請け負っている西村。現在携わっている『Here I am -10年目の僕らの立ち位置-』プロジェクトは、一般社団法人・Bridge for Fukushimaが企画。20年8月から撮影を開始し、9月に第一弾となる『山本幸輝 (浪江町)』編が公開された。今後、21年3月まで毎月、YouTubeに動画を投稿していく予定だ。

「僕と同じ世代の被災者たちは、様々な選択を迫られています。大学を卒業したあと、地元に帰るか帰らないか。帰ったとして、仕事をどうするか。そういった声を純粋に記録するだけでなく、この撮影自体が問題と向き合う機会になったり、当事者同士で悩みを共有するきっかけになったりすればいいなと考えています。当事者の想いを当事者に届けようという企画です」。

今後も動画制作は仕事として続けていきたいと語る西村。

「クリエイティブを使って、困っていることを解決したいという気持ちが凄くあります。必要とされているところへ入っていって、モノづくりを楽にしたり、伝える力を高めたり、メディアとして残るようにしたいです」。

さらに「ドキュメンタリー映画を撮りたいです」と続けた。

「森達也さんという映画監督が好きなんです。彼はオウム真理教の信者達の目線で映画を撮ったり、佐村河内守さんのゴーストライター問題を題材にした映画を撮ったりしています。大勢が『悪』だと決めつけている立場にとらわれず、物事を照らす作品を作っているんです。

自分が映像で何を作りたいかと訊かれれば、フィクションや広告ではなく、人を、リアルを撮りたいです」。

彼のファインダーが何を映していくのか、楽しみである。

音楽と美大と今後について

シンガーソングライターとしての西村は、これまでに約50曲のオリジナル曲を作ってきた。19年9月に開催したワンマンライブに合わせて発売した1st EP『満天の花束』は、現在も彼のライブ会場で購入できる。

また、早稲田松竹やテアトル新宿で公開された映画『もぐら』の主題歌を担当。そのCDは、上映する映画館で販売中だ。

20年9月には、YouTubeにてMV『記憶』を公開。「2年くらい前に作った曲で、ずっと『世に出したい』と思っていました」。

淡く澄んだ色合いの風景のなか、情感豊かにギターを弾き語る彼の姿が印象的な映像は、最初からMVの制作を意図して撮られたものではない。

「朝方、友達とお台場へ遊びに行って、カメラで遊んでいたんです。僕が曲を弾き始めたタイミングで、友達がカメラを回し始めて、ワンカットで撮ってくれました」。

今、このタイミングでの公開となったことに意味はあるのだろうか。

「コロナ禍に見舞われ、ライブが思うようにできないなかで、いつも僕の曲を聴いてくれているファンの方々のために何か作品を出したいと思いました。でも、新たな映像を撮りに行くことも難しい。そんなとき、思い出としてとっておいたデータのなかからこれを見つけて、『いいな』と思って。早速、自宅で歌を録音して、映像に乗せました」。

現在は武蔵野美術大学の1年生として学びながら、ライブを行い、映像クリエイターやデザイナーとして仕事を請け負うといった毎日を送っている。

「自分を高め、より多くの武器を身につけるという意味で、美大に進学しました。音大という選択肢もありましたが、何か違うなと。音大は、美大と比較すると技術を磨く場所という側面が強いのかなと感じたからです」。

不意に彼はスマートフォンを取り出し、「昔から、絵を描くことが苦手だったんです」と語り出した。

「美大では一番初めにデッサンの授業を受けました。はじめたころは、立方体を描いたのに『食パン?』と言われるぐらい、線が歪んでいて。林檎を描いても、影の付け方が分かっていないから、平面的になってしまっていました。でも一ヶ月ほど練習を重ねたら、光がしっかり描けて、形もとれるようになってきたんです」。

編者は実際の絵を数枚見せてもらったが、その上達ぶりには目を見張るものがあった。

「ずっと音楽や映像をやってきて、そして今は少しずつ絵が描けるようになりました。きっとまだ、もっと武器を増やしていける。技術力を高めれば、色んな形で人の役に立てますから。」。

美大では、基本的な造形の技術はもちろん、自分の作品と身体と世界との関わりや、それらを繋ぐ技術についてのレクチャーを受けている。

「走りながら線を描いたり、目隠ししたまま構内を歩き回ったり。すごく面白い授業が沢山ありますよ」。

友人の介添えを受けながら、目隠しをして構内を歩いたときは、『認識』について新たな気づきがあったと言う。

「目隠しをしていると、ビビッドに感じられることが多かったんです。足元のテクスチャや、頬に風を受ける感じ、目隠しから透けてくる光の色合いとか。普段は気にも留めないような、目で見て分かったつもりになっている感覚が鮮やかになりました」。

画像1

彼はふと言葉を切り、「音楽でも、視覚を遮断するとか、身体感覚に訴えかけるようなライブをしてみたいな」と呟いた。

「ライブって、五感をフルに使いますよね。音、光、匂い。そこにどのくらい没入できるか、というところにフォーカスすべきと考えていましたが、実は、逆にしてみると面白いかもしれません」。

その発想は、昨年のワンマンライブの際、「自分の世界観を伝えるには、細部まで丁寧に作り込む必要がある」と感じたことがきっかけだという。

「路上ライブとか、機材も舞台装置も少ないシンプルなライブハウスで演奏するのも楽しいです。けれど、ステージ上にセットを組んだり、映像演出をしたり、音の届け方に工夫を加えたり、グッズを作ったり…体験全体をプロデュースしたライブをしたい気持ちがあります」。

今は、アイディアや技術を蓄積しながら妄想を膨らませている。

「美大に入ったことで、ものづくりに取り組む仲間が増えました。一緒にMVを撮ろうと計画をしている友人や、アートの展示をやろうと話している友人もいます。彼らと共に、近い将来面白い演出のライブを作れたらいいなと思います」。

さらに彼は「これを音楽でやるのかどうかはまだ分かりませんが」と前置きして、「『こんな体験したことない』と人が感じるようなものを作ってみたいです」。

音楽でもそうでなくとも、ぜひ、その場に居合わせたいものだと思った。

text:momiji

INFORMATION

画像2

関連記事




お読みいただき、ありがとうございます。皆さまからのご支援は、新たな「好き」探しに役立て、各地のアーティストさんへ還元してまいります!