コロナでローン返済が困難に…不動産競売よりも「任意売却」がいい理由【#コロナとどう暮らす】

新型コロナウイルスによる休業や解雇で収入が激減。住宅ローンの返済が困難になる人が増えている。延滞が続いた場合、およそ3~6カ月ほどで債権が金融機関から保証会社に移り、残債の一括返済を求められる。夏から秋にかけ家を失う人が顕在化してきそうだ。

住宅金融支援機構がコロナ関連でローン返済が困難になった人へ相談を呼び掛けている。すでに5月の時点で相談件数は2265件。1206件が「返済特例」などを承認された。ただし、このままコロナによる景気悪化が続けば、自宅を手放す人の続出が予想される。裁判所の不動産競売物件の公示数は3月ごろからやや増え、東京地裁本庁で172件、大阪地裁本庁で46件(7月13日時点)だ。

 その競売を回避する手段として「任意売却」という手法がある。担保権者(銀行)の同意を得て自宅を通常の売買と同じように売却するもの。基準価額が設けられる競売より、通常の相場に近い価格で売却できるというメリットがある。

 住宅ローン問題の相談を受け付けている「任意売却119番」(ナレッジパートナー)の富永順三代表がこう言う。

「当社への相談件数は4月には数十件でしたが、5月だけで270件に急増しています。ほとんどがコロナ関連の相談で、その多くは収入が減り、ローン返済に不安を抱えているというものです」

 富永代表自身、学生の頃に親が住宅ローンが払えず、自宅が強制競売にかかった経験を持つ。

「学校から帰ると裁判所の執行官が押しかけ、動産執行(差し押さえ)の白い紙を家財に貼りだしました。ドラマでよく見るあのシーンです。家の鍵も替えられ、『すぐに出ていけ』でした。こんな思いをする人が少しでも減ることをと今の仕事を始めました」

 では、具体的にどんな相談が寄せられているのか。

右表=競売や任意売却までのおおまかな流れ(C)日刊ゲンダイ

【ケース1】会社をリストラされた

 会社員のAさん(58)は23年前に新築で一戸建て住宅を購入。ローンの返済期間は残り12年、金額にすると1500万円。4人家族で住んでいるが、最近コロナで会社をリストラされてしまった。

「銀行に相談をしたのですが、支払いの猶予は半年間。その間は金利の返済だけでいいらしいのですが、そこから先はまた返済しなければなりません。転職先を探すも、このご時世ではすぐには見つかりません」(Aさん)

 最終手段として任意売却に踏み切ることに。ローン残高以上の価格で売れれば悩む必要もないが、不動産の中古価格は全国的に低迷中。残債が出てしまうケースがほとんどだ。

「Aさんのケースでは、家を売却してローン返済に充てましたが、わずかながら足りず、今も月数万円ほどの返済を続けています」(富永代表)

【ケース2】経営するパン屋が営業自粛

 都内で数店舗のパン屋を経営するBさん。納入先の学校が休校になり、店舗休業を余儀なくされた時期がある。その間の収入はほぼゼロに。

「常連さんが通ってくれていたのですが、緊急事態宣言の解除後も客足は戻らず。学校の購買部も閉店状態です。またお子さんがおられるパートさんが出勤できず、店を平常通り開けることもできません。賃料など固定経費を合わせると月100万円の出費に。これ以上、借金が膨らまないようにと閉店を決意しました。もちろん、自宅のローンも払えません」(Bさん)

 やはりBさんも「任意売却119番」に相談し、銀行との交渉を経て任意売却に至った。

「銀行もなるべく損失が出ないようにと任意売却に応じるケースが増えています。ローン残債は銀行から保証会社やサービサー(民間の債権管理回収会社)に移行されますが、無理な取り立ては法律で禁止されているのでありません。競売になると、市価の半値で処分されてしまったり、準備期間なしに追い出されてしまうことになりかねません。そうなる前に専門機関に相談すべきです」(富永代表)

 まずは銀行との話し合いが大切。住宅金融支援機構の相談のように返済計画の見直しなどで乗り切れれば一番いいが、任意売却も最終手段として知っておきたい。

【ケース3】時短営業のカラオケ店従業員

 カラオケ店勤務のCさん(40代)は、コロナの影響で3月から店舗が休業状態。手取りで35万円あった収入が15万円まで減額された。

「5月も再開のめどが立たず、人員整理が始まりました。転職活動を始めましたが、こんな状況では転職先も見つかりません。家のローンの支払いも滞るようになり、売却を決意しました」(Cさん)

 Cさんは銀行に相談するも、半年間の猶予期間があっただけ。根本的な解決には至らなかった。そこで任意売却を依頼した。

「Cさんの場合は引っ越し費用を売却額から捻出し、残り300万円ほどの残債を分割で返済することになりました。まずは金融機関に相談することからスタートですが、絶対にやってはいけないことがあります。それはローンをローンで返すことです」(富永代表)

 最近は、手軽にカードキャッシングが出来てしまうので、これに手を出してしまう人が少なくないという。

「フラット35の団信付き固定金利は現在、1・3~2%程度。これに比べカードローンは、5~十数%です。これでは無駄に借金の上乗せをしているだけ。借金地獄は目に見えています。コロナ禍の影響でローンが払えないことは、その人の意思に反してのこと。決して個人の責任ではありません。恥ずかしがらずに相談してください」(富永代表)

■十分な準備もないまま家を追い出されてしまう場合も

 テレワークで当てにしていた残業代や手当が減っている人も多い。

 最後に富永代表がこう付け加える。

「住宅ローンの金額の目安は、収入の4分の1~3分の1程度。相談では、30万円だった手取り月収が自宅勤務や手当の縮小で20万円になってしまい、ローンの割合が収入の半分を超えてしまったというケースがありました。食費や教育費を切り詰めることは出来ますが、ローンの減額は難しい。そこで家を手放すことを考えるのですが、オーバーローン(売却額が返済額を下回ること)では金融機関は家を売らしてくれません。このままだと裁判所による強制競売になってしまうのですが、市価の半額程度になることも。十分な準備もないまま家を追い出されてしまうこともしばしばです。このようなケースでは私たちのような専門業者が入り、銀行との交渉や任意売却を選択する方法もあります」

 政府のコロナ支援策では、賃貸住戸への家賃助成金はあるが、個人の住宅ローンへの支援は一切ない。家を手放す悲惨な実例集はこれから増えていく。


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