懐かない元野犬との生活3(亡くなった犬を想う)

岸政彦先生の著書にハマっている。
小説も全て良かったし「断片的はものの社会学」や「街の人生」も好きだ。
でも今のところ1番のお気に入りは「にがにが日記」。
この本は岸先生おさい先生とおはぎちゃんの別れの物語だと思っている。

私も犬との別れを経験した。

もう何十年も前、どういう経緯かは忘れたけれど実家で雑種の仔犬を貰い受け姉夫婦に引き取られた。
モミジと名付けられた仔犬は子供のいない姉夫婦にとっては息子の様な存在で兎に角かわいがりまくっていた。
私もモミジ会いたさによく姉夫婦の家を訪ねた。
人懐っこくて、でもおとなしくて吠えたり噛んだりしない本当に可愛いい良い子だった。

義兄がハワイに転属になった時も2人はモミジをハワイに連れて行った。
アメリカの規則で海外から来た動物は半年間保健所に収容されるので運転免許のない姉は半年間バスに乗ってモミジに会いに通い続けたらしい。

私もハワイに2度遊びに行った。
海辺をモミジと散歩したあの風景は忘れられない。
ハワイでのモミジは本当に楽しそうだった。

結局モミジは4年間ハワイで暮らした。

義兄が再び日本に転属になり2人と1匹は帰って来た。
日本でまた楽しい生活が始まる筈だった。

ある雨上がりの夜に義兄の運転する車がスリップして大事故が起きた。
この事故で義兄は頭に損傷を負って働くどころか日常生活をまともに送ることすら出来なくなった。

アメリカ人で日本語の出来ない義兄がこの状態で日本で暮らすのは無理だった。
義兄はシカゴの両親の元に姉とモミジを置いて帰ってしまった。

姉とモミジは実家に戻って来た。

姉は私達の前で決して涙を見せることも泣き言を言うこともなく、淡々と勤めに出て日々を過ごしていた。
仕事に行っている時間以外はいつもモミジと一緒にいた。
深夜に姉が背中を丸めてモミジを延々と撫で続けている姿も何度か見た。
もしかしたら泣いていたのかもしれない。

モミジはとても思慮深い顔をしているので話し掛けてると真剣に聞いて貰っている様な気がした。
嫌がったり暴れたり逃げたりすることもなく、かと言ってベタベタしてくることもない。
いつもおとなしく話を聞いたり撫でられたりしてくれる優しい犬だった。

私達姉妹は年が9歳離れていて私が小学校入学の時姉は高校入学、その後何年かして姉は家を出てしまうので正直あまり馴染みがなかった。
性格も全然違って合わないので姉妹の割にはそれ程親しくない。
それでも2人共犬好きだったのでモミジが私達の距離をほんの少し縮めてくれた。

とは言え姉の辛さに寄り添うことまでは当時の私には出来なかった。

姉に寄り添ったのは間違いなくモミジだった。
知っている人が1人もいないハワイでの生活も義兄との別れも辛い時姉の心を支えたのはモミジだ。

結婚して私は実家を出たけれど時々幼い長男を連れてモミジに会いに帰った。
歳とって段々と弱っていくモミジを見るのは寂しかった。

モミジが亡くなったと連絡を受けた時のことはハッキリとは覚えていない。
次男を妊娠中で精神的に不安定だったからか悲しいというよりはボンヤリしてしまった気がする。
多分亡くなったという事実を受け入れたくなかっのだと思う。
随分経ってからやっとモミジの死を受け入れられる様になった。

姉はどうだったのだろう。
モミジの死をどう受け入れたのだろう。
今に至るまで聞いたことはない。

愛犬を亡くす悲しさをどうすれば良いのかずっとわからなかった。
もう何年も経つのに時々思い出しては泣きたくなってくる。

「にがにが日記」を読んで皆んな一緒なんだ、どうも出来ないんだ、思い出して泣いてもいいんだ、とわかってチョット救われた気がした。

姉はその後犬を飼うことはなかった。
ウチの犬にもあまり関わろうとしない。
その気持ちもわかる。


長男とモミジ
笑顔が可愛いモミジ



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?