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2020年REIT市場の総括と来年の願望

年の瀬のお忙しい中、いかがお過ごしでしょう。
皆さん2020年いかがでしたか?完全にコロナ一色の一年になってしまいましたね。オリンピックもない、なんとなく外出するのも憚られる。なんというか、息苦しい年だったと思います。
J-REIT市場も大嵐が吹き荒れ、酷い相場になってしまいました。コロナの無い世界でもう一回2020年やり直したい。

でも、嘆いていても明日はやってくるのです。2020年に起きたことから目を逸らさずに振り返って、来年良い年になることを祈りましょう。そう、この記事は来年への願掛けみたいなもんです。

●年間騰落率から見たREIT

東証REIT指数は年初来で▲16.85%の1,783.90ptとなりました。
思えば年初の指数は2,000ptあって、雰囲気的には「行こうぜ史上最高値2020」だったのに、3/19コロナ事変で一気に1,100pt台まで吹き飛ぶなんて…。
「内部留保を持たないREITの惨状を見よ」とか言っちゃったおじいちゃんとか「REITが下がった!不動産も下がりますねぇ!」って言ってた高知の人とか、ああいうJ-REITをよくわかっていない手合いがしゃしゃり出て、REITも変に注目を浴びたと思います。
あのときに「REITやばいんちゃう?」という問いに対して自分なりの考えを整理するためにこのnoteを作った訳です。懐かしい。
でも、クラッシュが起きて損失を被っても投資は自己責任だからね。誰も助けてくれないし、誰を恨んでもいけない。

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では個別銘柄の年間騰落率という面から振り返ってみましょう。

・ベスト5
1.三菱地所物流 +20.62%
2.GLP +20.53%
3.CREロジ +17.50%
4.プロロジス +16.50%
5.産業ファンド +14.97%

・ワースト5
1.いちごホテル ▲50.04%
2.インヴィンシブル ▲46.45%
3.ユナイテッドアーバン ▲37.33%
4.みらい ▲36.97%
5.ジャパンホテル ▲34.73%

まあ皆様イメージ通りの結果かと思います。物流が強くてホテル系が弱い。完全にセクターで色が分かれてしまった。総合系銘柄でやられてるのはホテル物件の賃料減少による減配が意識されてる銘柄。年間の分配金がそれほど下がってない商業銘柄でさえも「いや商業だし…」っていう印象で売られちゃった。イオンとかすごく底堅いのにね。

ホテルはみんな言う通りキツイ。ある種のopportunity狙いで保有するのは有りだけど、REIT本来の魅力である、安定的にそこそこ高いインカムを享受することができなくなってる。
おまけにクレジット的にもキツイ。森トラストホテルなんかはコベナンツ(借入する時の金融機関との財務上の約束事。達成できなかったら色々あるけど最悪は期限の利益を喪失する)にヒットしちゃった。キッチリとリファイナンスできてるから目くじら立てるようなことではないけど、しばらくは物件を買って分配金をなんとか伸ばしていくってことはできないよね。コロナ落ち着くまで抜本的な打ち手が無い。
でも、森トラはちゃんと3年でリファイナンスしてもらっててまだいいよ。インヴィンシブルとかジャパンホテルとかいちごホテルとか長期のローンが出なくなっちゃったよ。しかし本当に森トラホテル以外にコベナンツ抵触した銘柄無いの?もっといるでしょ?ジャンプしてみろよ。

一方で、物流はすごく好調。懸念してたESR尼崎も相当埋まってる。ニトリが自社倉庫持つとか言ってるけど、ニトリぐらいの企業が入念に準備をして進めてることであって、今から思い付いて土地から仕込み始めても多分価格が合わなくて無理なので、自社で物流倉庫を持つのは主流にはならないと思います。ファンダメンタルズ的には隙が無さそうだけど、銘柄単位で見ると割高感があるというのも事実。プロロジとか三井不ロジとか利回り2%台だと確かに手は出しづらい。でも物流銘柄は債券代替でしょ?債券で為替リスク負わずに、しかもAA格で2%半ばの利回り出るものある?無いよね?ほらまだいけるよ!コッカラッス!
…この議論をコロナ前にやって大火傷しちゃったよね。判断間違えたよね。

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●取引から見たREIT

次は物件の取引からREITを見てみましょう。

ARESによると、11月までのJ-REIT全体の物件取得額は約1.2兆円でした。2019年の年間の取引額が約1.4兆円でしたので、年間では若干取引は減少すると思われます。ただ、リーマン時は1兆円あった取引が翌年に一気に2,000億円まで減少したことを考えると、コロナが不動産取引に与えた影響は今のところ大きくなかったように見えます。
ただ、セクターごとの取引合計でみると、ホテルが前年2,551億円あった取引が502億円と約80%減、商業施設が2,449億円から1,032億円と58%減となっています。最もコロナで打撃を受けたセクターの取引が目に見えて減っています。商業施設の取引は減ったとはいえ、NSC(食品スーパーを核テナントとする近隣住宅街が商圏の商業施設)であればコロナ耐性・Eコマース耐性どちらもあるので、今後も活発に取引されるのではないでしょうか。一方で、REITがホテルを取得することは来年も少ないと思われます。決算IRの資料でも「ちょっとホテルはパスしますわ…」って書きぶりが多いです。個人的にはFire Sale物件が出てきて手許資金で買える範囲なら買ってもいいんじゃないとは思いますが。

2020年中の取得で最もキャップレートが高かった物件はマリモリートのMMRあきた2で6.6%、最も低かった物件はジャパンリアルの大手町パークビルディングと日本プライムリアルティの大手町フィナンシャルシティノースタワーで2.5%です。
また、取得金額の最大は三井不ロジのMFLP茨木で589億円(CR4.1%)、ちなみに色々ざわつかせた新宿三井ビルの取得は2021年1月8日なので今回の集計からは対象外です。

しかし三井不動産はよく売るよね。三井不ロジが秋にMFLP茨木を売るそこそこデカいディールをぶち上げたと思ったらNBFの超大型PO、そしてトドメにアコモデーションのPO。スポンサーのB/Sを軽くしたいという意図がスケスケ。年が明けてREIT各社はどう出るのかな。例年であれば1月、2月はPO活況期ですが、どのようなオファリングが出てくるか。

低CapRateの取引はいずれも大手町の物件です。しかし大手町パークはコロナ前、フィナンシャルノースはコロナ後の取引です。コロナで不動産価格落ちるって言ってた人どう思う?全然落ちてないやん!コロナ前を振り返ってみても、あの時不動産が安かったって発見する能力もないんじゃない?

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高CapRateの物件はマリモの地方物件でしたが、足許では割と地方商業が見直されつつあるのかも。スターアジアがさくら総合の遺産であるシュロアモール長嶺をキッチリ簿価以上で売却できたし。ちゃんとテナント付いてて、CF安定してたらアップサイドが多少見込めなくても買いが集まるのかな。

●今後の展望(というか願望)

さて、来年のREITはどうなっていくか、来年は以下の3つことに注目したいと思います。

①REITは株に対して割安論
②オフィス空室率問題
③ホテルのクレジット問題

①は色んなところで言われてますし、日本だけじゃなくてグローバルリートが全体的に置いてかれてますよね。別に株だってファンダメンタルズがいいから買われてる訳ではない。だったら割安感だけでREITが買われてもいいんじゃない?
まあ、実際に単純に株と比べて割安だー!って言って上がっていったら怖いよ。正直。でもその怖い流れがきても不思議じゃない。
コロナ前は債券代替として買われていた一面もありますので、イールドギャップで指数の妥当性を指摘する流れがあったと思いますが、足許では金利が上昇していても買われています。リスクオンで一気にアクセルがかかってREIT指数が上昇していくことも覚悟しなきゃいけない。
ファンダメンタルズの好転なくても、ただ指数が上昇するのをノーポジで指咥えて見てるだけなのは

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②については、僕は年末3.5%予想をしておいて盛大に外してるので、あまり大きな事は恥ずかしくて言えません。こんなに空室率上がるなんて聞いてない(三鬼商事発表の11月末東京都心空室率は4.33%)。
個人的には、空室率上昇がストップする、あるいはストップしそうな状況になり、それがカタリストとなりREIT全体が上昇するというシナリオならなんとなく健全かなってイメージがあります。
足許のオフィスマーケットではなんとなく坪3万overの物件が苦戦してる印象ですね。新卒の就職者もガッツリ減るでしょうし、早期退職も始まってる。テレワーク云々というより、就業者数が減るし、企業も業績悪化してるし固定費削減のために減床する、と。故に全体の床需要が剥げ落ちて軟調になってる。以前の記事でも書いたけど、拠点分散で企業が積極的にコワーキングを活用するって流れができれば新たな床需要が生まれるかもしれないんですが、期待してもいいのかな?
いずれにせよ、供給が少ない来年でも空室率上昇が止まらないってことになると

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③のホテルはもう既に

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冗談はさておき、どれだけレンダーがトリガーを引いてくるか、オペレーターが吹っ飛ぶかですね。持久戦。大都市圏の宿泊特化型はだいぶキツいでしょう。テーマパークに近いホテルなんかでもそろそろ耐えられないような話が漏れ聞こえてる。
ホテルREITのNAVについて、今はざっくり言うと「とりあえず2年ぐらいはコロナの影響見とくか」って感じで鑑定価格が決まっているような気がします。CapRateが上がったといってもせいぜい10〜20bpぐらいです。この「2年の影響」というのは誰も根拠を持ってないし、鑑定士センセイにコロナの影響がどこまで続くか予想させるのも酷。でもレンダーがトリガーを引いて、fire sale物件の取引が増えてくれば、もうちょっとREITの鑑定価格と実勢の価格との差が可視化されて、今のNAV倍率の妥当性が検証できるんじゃないでしょうか。そこにあまりに割安感があると、再編含めて何かやろうって動きも出てくるかもしれません。
いずれにせよ生殺与奪の権はレンダーが握ってるし、REITまでトリガー引かれるということになったら

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REIT全体のイメージとしては、短期的には①の要因で上昇、でも②の空室率が中々上げ止まらず、上値が重いと言ったところでしょうか。③は特殊イベントでREITに何も影響を与えないかもしれないけどリスクとしては頭の片隅に入れておきたい。ホテル周りには何かM&Aとかのヒントが隠れてるかもしれない。

長くなりましたが、来年はいい年になるといいですね。できればコロナを克服して、人々が自由に往来できるようになることを願います。

では、良いお年を。

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