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灼熱の相場か、空梅雨の相場か

6月ってこんな暑かったでしたっけ?皆さま体調は崩されてませんか?これだけ気温は盛り上がってるのに、REITはイマイチ盛り上がりに欠けます。担当者みんな熱中症で倒れた?

4-6月の振り返り

東証REIT指数の2022年第2四半期の騰落率は▲1.80%となりました。4-6月のREITは上値が重い展開。4、5月は2,000pt付近で推移していたと思っていたら、6月の米国CPIの発表を境に、FEDの75bp利上げがマーケット全体で意識され、J-REITもその余波を受けるような形になり、一時は3月の上昇をほぼ吹き飛ばす形になりました。ただ、1,800pt台に入ると大体のバリュエーションの節目である「P/NAV 1倍、利回り4%」というラインが意識されたのか、反発する傾向にありました。

個別銘柄の投資口価格四半期騰落率のベスト5とワースト5は以下の通りです。

ベスト5

  1. オリックス不動産 +11.43%

  2. いちごホテルリート +9.38%

  3. ジャパンホテル +8.83%

  4. サムティレジ +7.70%

  5. 日本アコモデーション +6.56%

ワースト5

  1. サンケイリアル ▲12.96%

  2. 三井不動産ロジ ▲10.78%

  3. GLP ▲10.63%

  4. Oneリート ▲10.38%

  5. ソシラ物流 ▲9.89%

上昇した銘柄はいずれも「リオープニング」が意識された銘柄となりました。オリックスは決算発表でテーマパーク隣接ホテルの稼働について強気なコメントを残しています。実際USJに行った人からはコロナ前と変わらない混雑ではないかという声も聞こえてきます。その他ホテル系もRevPARが回復基調だとか、円安によるインバウンド期待(これは個人的には懐疑的ですが)ということも意識されています。
住宅系も反発の兆しが見えます。やはり、この繁忙期で稼働率が回復しており、稼働率低迷の底を打ったと判断されたのでしょう。仲介の方からも法人需要中心に回復しているとの声が聞かれました。賃料がコロナ前のように力強い上昇は見込めなくても、首都圏の賃貸住宅の需給は安定していますし、分譲住宅は上昇が続いている中、「買えないから賃貸に住み続ける」という判断をする人も相応にはいるでしょう。そもそも、ファミリー向け賃貸物件はストック・供給ともに大幅な増加は見込めないですし、住宅系銘柄の業績は去年が底だと意識されたのだと思います。

一方で、下落した銘柄は物流、オフィス系。物流は4月下旬の米国アマゾンの決算発表において、業績がコンセンサスを下回ったことや、今後の物流施設開発が滞るといったことが意識されたことからUS-REITの物流セクターが軒並み下落し、J-REITもその煽りを受けたことや、マーケットの空室率上昇が嫌気されているようにも思います。
オフィスは決算発表での弱気なガイダンスが目立ちました。5月に決算発表を行ったJRE、森トラスト総合では大口テナントの埋め戻しに苦戦している様子が伺えます。まだ彼らは内部留保がある分マシで、オフィスの中でもやや規模が劣る銘柄や、テナント分散が効いていない銘柄についてはかなり厳しいです。という視点は前四半期から持っていて「ならば、いっそのこといちごオフィスなら物件・テナントともにかなり分散が効いているし、基準階がデカい物件は少ないし、稼働率にはそれほど影響受けないのでは?」と考えていたのですが、考えが甘かったです。彼らもマーケット並みの空室率となっていました。なんなの。

四半期重大ニュース①エスコンジャパン行政処分勧告

この四半期のトップニュースと言えばエスコンジャパンの行政処分勧告でしょう。

恐らく、来月か再来月には正式に行政処分が行われると思いますが、そうなるとREITとしては実に14年ぶりの行政処分となります。ちなみに、最後の行政処分はあのニューシティレジデンス。行政処分が発表された後にニューシティは爆発するわけですが、それを最後にREITは行政処分なく運営してきたというのはなかなか優秀ではないでしょうか?
本件の問題としては、「鑑定評価会社の独立性を損なう不適切な働きかけ」と「不適切な鑑定評価会社の選定プロセス」の2点です。要するに、REITの運用会社が鑑定会社に対して「売却価格こんなもんやから合わせてくれよ!」と働きかけたとか「鑑定報酬の多寡じゃなくて、希望の鑑定価格出してくれたとこと契約するね!あ、でも鑑定報酬は勉強してもらうよ!」といったことをやっていたそうです。そんなことどの銘柄もやってるでしょ。「飛田新地で売春が行われてる!けしからん!」とかいうのと同レベルと違う?いやホント最低ですね!ガバナンスどうなってるの!

この発表を受けてエスコンジャパンの投資口価格は大きく下落。ESG隆盛の昨今において、ガバナンス上のエラーはさすがに投資家から許されなかったか。但し、コンプライアンス体制については既に改善を行ったとのリリースを発出しています。しかも、私募リートの組成も取りやめるとか。業務改善命令が出されると、おおよそ1ヵ月以内に改善計画を出すよう当局から求められますが、これらの改善策が認められれば比較的スムーズに業務改善命令の解除は行われると考えられます。逆に言えば、金融庁様のご期待に沿う内容でなければ早期の解除は望めないということですが…

過去の類似事例で言えば、プロスペクト・レジデンシャル(今の大和証券リビング)が2008年6月に同じような鑑定会社への不適切な働きかけや不適切な鑑定評価プロセスで刺されています。

ここからは個人的な考えですが、本件による発表している業績への影響はほぼ無いのではないかと思っています。しかし、投資口価格がP/NAV1倍割れしているため、POによる外部成長を行おうとすると資本コストは上がっており、外部成長によるエクイティストーリーはやや修正せざるをえないでしょう。また、ESG!ESG!と叫ばれている時代ですし、業務改善命令が解除されないうちは機関投資家もなかなか買い戻しづらいのではないでしょうか。エスコンジャパンは7月決算銘柄ですので、このまま軟調な投資口価格の推移が続くようであれば、9月の決算発表時にはマーケットに向けてなんらかのメッセージを出した方がいいのではとないかと思います。

四半期重大ニュース②REIT特化型グリーンETF2銘柄上場

5月27日に「2852iシェアーズ グリーンJリート ETF(以下2852)」、6月24日に「2855グローバルX グリーン・J-REIT ETF(以下2855)」が上場しました。前者は「FTSE EPRA Nareitグリーン・フォーカスJ-REITセレクト・インデックス(配当込み)」という指数に連動し、後者は「Solactive Japan Green J-REIT Index」とのことです。つまり、どちらもJ-REIT特化型のグリーンETFです。2852の方はすでに20億円程度の純資産があるようです。

中身を見てみましょう。2852はREIT投資家お馴染みのEPRA NAreitの派生です。時価総額加重としながら、各リートのエネルギー消費量グリーン認証を受けている面積の割合を係数として組入比率を決定しています。組入比率トップ5は以下の銘柄です。

  1. 大和ハウスリート 10.32%

  2. 日本プロロジス 9.28%

  3. GLP 8.06%

  4. オリックス不動産 7.63%

  5. ジャパンリアルエステイト 7.04%

次に2855を見てみましょう。これはSolactiveというドイツの指数ベンダーが開発した指数に連動するようです。こちらも時価総額加重平均とし、次の2つの条件で係数を乗じます。まずは、認証グリーンビルディング面積の比率が50%以下の場合0.5が係数となります。そして
①認証グリーンビルディング面積90%以上
②2050年までのゼロエミッション目標またはScience Based Targetにコミット
この①②どちらかを満たす場合2、両方満たしたら2.5を乗じます。その結果の組入比率トップ5は以下の通りです。

  1. 日本プロロジス 16.64%

  2. 大和ハウスリート 16.64%

  3. 日本ビルファンド 8.68%

  4. ジャパンリアルエステイト 6.40%

  5. 野村不動産マスター 6.09%

この組入比率を見て何かお気づきのことはありますか。そうです。顕著に物流オーバーウェイト、ついでに言うと住宅アンダーウェイトなんです。2852、2855両方で高い組入比率となっている大和ハウスリートですが、東証REIT指数の組入比率は大体4%ちょっと。ポートフォリオの半分強が物流施設と実質物流セクターの銘柄です。プロロジスは言わずもがなの物流銘柄。東証REIT指数の組入比率は5%程度。この2銘柄のオーバーウェイトが目立ちます。
環境性能のいいポートフォリオを組もうとすると必然的に物流、オフィスが有利で、住宅は不利です。住宅は1物件のサイズが小さく、物流、オフィスは大きい。100物件で1,000億円の住宅ポートフォリオと10物件で1,000億円の物流ポートフォリオ。どちらの方がグリーン認証取る手間・コストが安いですかと問われたらどう見たって後者なんです。
これらのETFから得られる超過リターンというのはESG(特に環境)に積極的に取り組んだことから得られるリターンなのか。そこがどうしても疑問です。完全にセクターアロケーションで説明できるんじゃないでしょうか。以前、日経ESG-REIT指数をこき下ろしましたが、ここで紹介した2つのETFも同様に、これらのグリーンETFに投資して、投資家がESGやってるツラするのはいかがなものかと思います。これじゃあ住宅リートが浮かばれない。グリーンETFでは構造的に住宅がアンダーウェイトとなりますが、衣食住の「住」を担う住宅セクターは反ESGセクターなんですか?グリーンETFに投資する人にはぜひこの質問をぶつけてみたいものです。
ちなみに2852では日本都市ファンドが恐ろしいほどアンダーウェイトにされています。あれだけESG関連の開示頑張ってるのに…

四半期重大ニュース③積水ハウスリート、リッツカールトン京都を売却

ESGの話をした後に少しガバナンス的なお話。積水ハウスリートが6月の決算発表でリッツカールトン京都の売却を発表しました。売却先はスポンサーの積水ハウス。
リッツカールトン京都はインバウンド比率も高く、変動賃料の発生が2024年以降となることや、NOIが1%台になるなど低迷が続くことが想定されていたため、一旦スポンサーに持ってもらうということになりました。
その判断自体は良いんです。その売買代金を使って物件入替と自己投資口取得に充てるというのも良いと思います。問題は、この物件を2020年4月に追加取得してるんです。そう、コロナショックを経て、ホテルの見通しが相当不透明だったあの時に。なんであの時組み入れたんだよと…リッツカールトン京都をあのタイミングで取得するのは既定路線だったと言われていますが、さすがにタイミングがあっただろうと思いますね。だからいつまで経ってもREITはゴミ箱と言われる。

そういえば白金台タワーのアレは解決した?

今後の見通し

さて、一時は2,000ptを力強く超えようとしていた指数も、少しだれてきている様子。全体的に不動産ファンダメンタルズが不調な中ではいくら安定インカムが期待できるとは言ってもP/NAV1.0倍から大きく乖離した水準は示しづらい。J-REITも含めてグローバルREIT全体がアメリカのインフレの状況と金融政策に振り回されてるので、引き続きFOMC前のマクロ指標はウォッチしておきたい。ジャクソンホールも控えてますし。
日銀の政策変更は、黒田総裁の間は気にしなくていいのではないでしょうか。しかも、ここで米国がリセッション入りするようなことがあると、利上げし続けるという判断になるのでしょうか?多分、日銀はオロオロしてる間に米国の利上げが終わって結局なんの変更もしなかった、ということになるんじゃないでしょうか。完全に勘ですが。
あとは例年夏場に多いPOがどの程度投資口の需給を緩めるか。こればっかりは出てみないとわからない。3,4月に指数がそこそこ順調に上昇していたことがPO増の動機となるか。

セクター別では、依然としてオフィスは厳しい。去年の冬ごろは「2022年上半期で底打ち」とみんなが声を揃えていたのに、蓋を開けてみると業績、稼働率が反転上昇する期待は薄い。
住宅は明るい兆しがあるものの、上位銘柄はバリュエーション上の魅力に乏しい。
物流はそもそもPOによる投資口需給の緩みが怖いし、上昇すると見込まれる空室率がマーケットにどのように受け取られるか。リバーサルはもう少し後じゃないでしょうか。
となると、やっぱり今四半期も商業とホテルになるのか、と思うのですが、ホテルは良いとして商業は構造的不人気セクター。大きなアップサイドは狙いづらい。個別で狙うなら自己投資口取得やりそうな総合型に目をつけるぐらいでしょうか。

下で買いたい人は控えていますが、その人たちが目線を上げて1,950とか2,000ぐらいの水準で買い上がっていくことは想定しづらい。また、#利回り4パー教 信者が多いのか、利回り4%水準が来るとすぐに反発する傾向にあります。買い場がきても短かった梅雨のように、すぐ終わってしまうかもしれません。できれば気温じゃなくてJ-REIT相場が噴き上がってほしいのですが、2023年竣工ビルのオフィスリーシングが絶好調で、そこから発生する二次空室もすぐ消化できたという状況でないと難しいですね。つまり厳しい。

いずれにせよ、不動産のファンダメンタルズがよろしくないし、好転も望み薄なことはわかっているので、引き続きアメリカを中心とした金融政策、マクロ指標に注目しておいた方が良さそうです。

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