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8.息子の純真

ある月明かりのきれいな夏の夜。
部屋の豆電球を消し、窓をあけて親子四人で布団に寝そべりながら、そんなまばゆい夜空を眺めていた。
おやさまのひながたの道中で語り継がれている、月夜の糸つむぎのエピソードが自然と口をつき、それに興味深く聞き入るこども達。まるでその当時のおやしきの情景が夜空に浮かびあがってくるかのよう。

そうしているうちに、それまで蒸し暑かった部屋は外から入り込む風によって次第に涼しくなり、やがて心地よい眠りへと誘われるようにまどろんでいく。

そんな夜もあった。


また数日後のこと。
教会の敷地の隅にささやかではあるけれど、野いちごが植えられている。彼等に水やりなどの世話をしているのは妻だった。その野いちごが大好きだった三歳の息子は、毎日のぞきに行っては大きくなってきた実をひとつかふたつ見つけては摘み、おやさまのところに持っていってはお供えする。そしてそれを夕食後のデザートにして食べていた。

数日間、雨が降り続いた。
ようやく晴れ間が見え、久しくご無沙汰だった野いちごの葉っぱをのぞきに行くと、以前にも増してたくさん実がなっている。
嬉々としながら摘んでみると、小さなざるが一杯になるだけの、ちょっとしたサプライズな収穫量となった。

その野いちごのざるを抱えて息子と神殿に向かうと、
「自分でおやさまにお供えしておいで」と息子に託す。
彼はにこにこ満面の笑みを浮かべながら

「びっくりするよ~( ^^) 」

とお社の向こうのおやさまに話しかけながら、山々盛られる野いちごをそっと捧げていた。毎日ちょっとだけしか持ってこないのに、今日はいっぱいお供えできたから、それを見ておやさまはきっとびっくりするぞと期待に胸したのであろう、息子。

しばし二人で手を合わせ、やがて息子は再びおやさまの下に歩み寄り、野いちごのざるのお下がりを両手で抱え、意気揚々と戻って来る。

「おやさまはなんて言ってた?」とたずねると、

「“ありがとう~”ってかわいい声で喜んでた‼」

彼はそう答え、きゃっきゃっしていた。

【2012.7】


…そんな息子も歳月を経て、いまや高校生となりました。
当時の彼の純真さを顧みると、ほろりとします。
あの時はあんなに小さかった息子は、今では私よりも背が高くなり、休日はよく祖父の割った薪を一輪車に積んでは薪小屋に運んでお手伝いしていたりなどします。時の経過を感じさせますね。


ほんのつい先ほどよく見たら、そんな息子が祖母と一緒に野いちごを収穫している様子が伺えました。十二年経っても相も変わらずです。
ちょうどnoteにあげた日のシンクロニシティ。

ここまでお付き合いくださりありがとうございました‼
それではまた(^^)/ 


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