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ばかまじめに幸あれ

バカなのかクソなのか

人から「まじめですね」と言われたら、おおむね良いことだと受けとれるが、「くそまじめですね」と言われたら、喜べはしないだろう。
わたしは以前、他人から
「まじめまじめくそまじめ」
とこってりした関西弁のイントネーションで言われたことがある。
くそまじめという言葉からは、融通のきかなさだとか、けむたがられそうな感じだとかの、本来は長所であるはずの“まじめ”な人柄から生じるクソな部分がにじんでしまっている。

そんな本来良い評価ととらえていいはずの“まじめ”に“くそ”がついたばかりに、心がやさぐれてどうしようもないわたしに、福音とも呼べる言葉が歌となって届いた。
Creepy Nuts の2022年のアルバム“アンサンブル・プレイ”に収録されている「ばかまじめ」。YOASOBIのAyaseさんと幾田りらさんとの共作だ。

やりたくないことをやってもその分素敵な何かが訪れるわけじゃないのに、今日もまたがむしゃらにがんばってしまう、不器用でいじっぱりでばかまじめな人々への応援歌ともいうべき歌詞とご機嫌なメロディ、そして“目一杯吸い込んだ空気”とシャウトするDJ松永さんに勇気づけられる一曲だ。

ばかまじめという言葉は、もしかしたら造語なのかもしれない。(うちにある古い広辞苑には載っていなかった)
だけどそこには、“まじめ”から生じるキュートな部分があふれているような気がする。
やっても損してしまうようなことだけど、つい頑張ってしまう、感謝されようとか計算が働かないピュアな意欲を持つ人物を、わたしは想像するのだった。

YOASOBIとの共作なのでライブではやらないのかな?と思いこんでいたから、昨年11月の神戸ワールド記念ホールで R-指定さんの曲ふりからイントロがかかった時にはめちゃめちゃ嬉しかった。声は出せなかったけれど心の中で“目一杯吸い込んだ空気”を一緒に叫んだ。

ラジオスターの悲喜劇

Creepy Nuts が2023年1月16日のオールナイトニッポンで、3月いっぱいで月曜1部パーソナリティから卒業することを発表した。
音楽活動に専念するためというのが主な理由で、多忙になった彼らが、それまで自分たちの活動の追い風となっていたラジオとのつきあいかたが難しくなってしまったのかな?というのを、ふたりの語りから感じた。

わたしは3年前、コタキ兄弟の四苦八苦というドラマをみていてCreepy Nutsを知った。オープニングテーマを歌う彼らは、ドラマの主人公たちが通う喫茶店内でミニライブをやっているという設定で、ドラマのオープニングの度に画面に登場していたのだった。
その曲“オトナ”とふたりの佇まいがなんだか怪しくて気にかかっていたのだが、面白いという評判のラジオを同じ年の夏頃からradikoで聴きはじめた。
最初は、 R-指定さんみたいな声の人が松永さんで、松永さんみたいな声の人が Rさんに思え、「ジブさん」から石川県の郷土料理・治部煮を連想するなど、混乱をきわめた。
そして徐々に、一種独特なラジオネームのリスナーからのメールを読み上げ、同時通訳の人のような感度で返していくふたりをすごいと思い、南紀白浜アドベンチャーランドのCMソングを美声で歌うRさんや、物を躊躇なく捨てていく松永さんを違う意味ですごいと思った。

3年前の2020年、それはコロナ禍が始まった年でもあった。
先の“オトナ”に出てくる歌詞ではないけれど
「俺たちはただ 普通に息を吸って吐くだけがなぜ難しいんでしょうか」と問いかけたくなるくらい、人間の生活が一変したのだ。
ミュージシャンである彼らにとっても、自由にライブができないことから生じるさまざまなジレンマがあっただろう。しかしリスナーとしてラジオを聴くのは、ただシンプルに面白い会話を楽しめる時間だった。
日本語ラップの世界の入口を教わり、あいのりにはどんなキャラクターの人がいたのかを知り、安住紳一郎の日曜天国のオープニングトークをなめてはいけないことを心にきざんだ。

終了の発表があった翌日、出勤中のバスの中で放送をきいた。
ラジオは現状報告の場だけれど、ヒップホップも現状報告の音楽だと松永さんは話し、ラジオを終了するのは本来は選びきれないなかでの決定だったのかなと感じた。
そして「自分で決断したことなのに、まだ実感がない」と話す松永さんからは、放送しながらも完全には心の整理ができていないような印象を受け、まさに現状報告なのかと思った。
ラジオはパーソナルな部分が聴き手にダイレクトに届く媒体だと思う。ヒップホップに疎い自分が、ライブに行ってみようと行動できたのは、たぶんラジオを聴いていたからだ。そしてそんなわたし以上に強くて深い影響を受けた人は山ほどいるだろうし、Creepy Nut自身がラジオに感謝している。
みんながみんな、ばかまじめ!泣ける!

放送の終わりの方で、あと2か月ほどあるので、楽しくやりたいと思いますと R-指定さんが語っていたので、彼らの勇気ある決断を尊重し、残りの放送を楽しみたい。
コロナ禍の心もとない日々に笑わせてくれ、くそまじめの呪いを解いてくれたふたりにありがとう!









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