52ヘルツのクジラたちと最後の手紙

買ってから少し読んで、なぜか読む気になれず本棚に置いていた。1年に一回くらい手に取っていた気がするが読み進めなかった。そして今年になってようやく読み始めたけど、またしばらく寝かせた。でもふと急に読みたくなって読んでみたら一気に読めてしまった。そんなふうにしてこの本はゆっくりと、確実に僕のところに届いた。

ここ数年何を読んでも自分に必要な物語だと思えなかった。村上春樹やカズオ・イシグロなどあれほど自分の心を揺さぶった作家たちの新作にも心躍ることはなかった。今なら分かるがそれだけ自分が閉じてしまっていたのだろう。でも、ちょうど会いたいと思っていた人をいつもは使わない駅で見かけて、相手も自分のことを見つけて互いに駆け寄ってハグするみたいに、全てのタイミングがぴったりと合った時にこの本を読むことができた。この本とはそういう思いがけない嬉しい再会みたいなものだった。

最後の手紙を書く。きなこと52は愛情を知らずに育ってきた。自分と君にも同じところがあったのだろうかと重ね合わせた。思い返すと自分も妹だけが甘やかせる環境でもっと愛が欲しいと思って育ってきたかもしれない。だから誰から愛されたくて、だれかに愛を注ぎこんでいたのかもしれない、と。でもそれは単純化しすぎた物語だ。

この本では、きなこは二度と死んでいる。そして二度と生まれ変わっている。一度は支えるだけの人生。二度目は支えられるだけの人生。そして三度目の人生でお互いの魂の声を聴き合い、支え支えられる人生となった。そんな魂の番のような人と巡り会うためには実際に3回くらい人生が必要なのだろうと思う。

自分は自分の限界を超えて支えすぎてしまったのかもしれない。このままだと共倒れになると思った君は僕のために僕のところを去ったのだといまでは納得できる。逆に支えてもらえないと僕は立つのが難しくなっていたのだろう。だから君に去らざるを得なくしてしまったことが申し訳ないし、悲しい。

でもぼくは君の声を聞けたことが本当に嬉しかった。きなこと52のようにお互いでしか聴き合えない声を聴いて、お互いを魂のレベルで理解しあおうと本当にできていたと自信を持って言える。それは3回分の人生が必要なくらいすごいことだったんだ。

どうか君がこれから愛を注ぎ注がれる魂の番と再び出会ってずっと幸せに過ごせる未来が待っていますように。いつまでもどこかで祈っています。そしていつでも僕は君と話がしたい。僕は本当に君に出会えてよかった。

この本を読んだことをきっかけにして、また僕は開いていけるかもしれない。この本は僕のための物語でした。

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