見出し画像

和歌山を知り直す旅。 「御坊市編」

 9月に入ってなお猛暑日な和歌山2DAYS。まずは和歌山県御坊市の旅。
 和歌山大学の大澤先生のありがたくも熱烈なオファーのもと、来年10周年を迎えるという「御坊日高オンパク」を開催されているみなさんを前に、地域編集をテーマにした講演をするため和歌山にやってきた。そもそもオンパク(ONPAKU)ってご存知だろうか?

 地域に見合った体験型プログラムをいくつも企画し、それを限定期間、集中的に行うことから、「地域資源の発掘」や「人材の育成と連携」を効果的に実現しようというもの。このノウハウを軸とした「オンパク手法」なるものをベースに、これまで全国70を超える地域でさまざまなオンパクが開催されてきた。ここ御坊日高地区においてもそれが開催されており、来年2025年に10周年を迎えるという。そのプレ事業として、持続可能な地域づくり勉強会が行われており、その枠組みのなかで僕の講演を企画してくれていた。

 僕はいま、延々と新著を抱えて旅をしているのだけれど、講演後にはたくさん用意した本も綺麗になくなって、あんなに重かったスーツケースが軽くなるという体感は何度味わってもありがたく嬉しい。心を込めてつくった本を目の前で買っていただける喜びというのは本に限らず、どんなものづくりでも同じに違いない。つくる→買ってもらう。そのシンプルな構造でしか味わえないことがたくさんあるから、僕はものづくりを続けている。

 御坊までは、大阪駅から「特急くろしお」に乗って約2時間。御坊駅まで迎えに来てくださったメンバーが、日中がっつり、 町を案内してくださったのだが、それがとても楽しかった。というのも、僕の本やブログなどの文章を読んでくださっていたのか、予定を決めすぎず、その時の偶然の出会いや、興味のままに案内してくれたのが、僕にはとても心地よかった。

 今回の事業のリーダー的な存在の平野さんという女性の、「さあどこにお連れしましょうかねえ」という一言から、ワンボックスに同乗しているメンバーがあれこれ情報交換。そんななか、走行距離たったの2.7km。西御坊~御坊の5駅、片道わずか8分という、日本一短い私鉄「紀州鉄道」というのがあると聞き、急遽乗車させてもらうことに。

いまも硬券
仕事終えたとこなのにオンパクスタッフにわざわざ呼び出されて私服丸出しで撮影される駅長
デカいなオイラ

 ほんの数分の乗車ながら、ローカル線から町の風景を眺める時間は格別。正直、通学に使う高校生や年配の方くらいしか、日常的に使っているわけじゃないと聞くけれど、それでも、町の人たちの暮らしに少し触れられた気がして嬉しい。

 そういえば、車内にキュウソネコカミのサインと写真が飾られていた。彼らは僕が暮らす、兵庫県西宮のバンドとして有名だから「なにゆえ?」と思って聞いたら、ボーカルのヤマサキセイヤさんが御坊市出身なんだそう。地方を旅していて、ああ、あの人はこの町で育ったのかあ、なんて思うのはシンプルに楽しい瞬間だなあと思う。

 紀伊鉄道西御坊駅を降りるとすぐに、森仁水産という魚屋さんがあった。平野さんが「ここの大将が面白いの」と、店の中に入っていくので、その後ろについて中へ。

面白い大将と、ハードルだけ上げられた、店主の森本隆夫さん。
森本さん、型にとらわれない自分だけの書という意味の「己書(おのれしょ)」の師範。
つい先日、作品展が開催されたばかりで、新聞記事を見せてくれた。
なるほど、この字も森本さんの己書なんですねと言うと、
いや、そうなんだけど、自信あるのは裏なんだよ。と、看板をひっくり返す。
「一魚一縁 鯖の棒ずし」 
さすが、撮られ慣れてる。

 うん、たしかに、面白かった。

 面白いといえば、昼食でいただいた「せち焼き」がとても面白かった。せち焼きというのは、そば入りのお好み焼きのようなもので、御坊のソウルフードなのだそう。その元祖という有名店があるけれど、「私がお勧めしたいのは別の店なので、そっちに行きましょう」と連れて行かれたのは、なんと「Agito」という名のバー。

真昼間にバー? と不思議に思いつつ、おそるおそる中に入ると、紛れも無くバーだ。

 こんなところでその、せち焼きが食べられるの? と、ただただ不思議な気持ちでいると、メニューに「せちごぉて屋」と別の屋号が書かれている。あらためて外に出てわかったのだけど、奥にあるバーの厨房部分がテイクアウトのせち焼き屋さんになっているのだ。

 確かに、地方ってこういう二毛作よくあるよなと思いつつ、せち焼きを注文。しばらくして出てきたのは、見た目シンプルな、そば入りお好み。いわゆる、モダン焼きと言われるものや、広島焼きに近いと思うのだが、せち焼きは、つなぎに小麦粉を使っていない。ならば何をつなぎにしているのかと言うと、卵。卵だけをつなぎにしているので、そばが入っているのに、とても軽い食べ心地。そして最高に美味い。

見た目はふつうのお好み焼き

 いやあ、美味しすぎてハマる。これは、家でもやってみたい。
 その後も、偶然出会った中村さんという表具屋さんに突然、お邪魔してみたり……

以前、展覧会で写真を表具したいと思ったものの、やっていただけるところを見つけられなかったというお話をしたら、「やってますよ!」と言って見せてくれた! 吃驚。
またやることになったら今度は中村さんに相談しよう。
こういう道具と整頓に萌える

 1日平均1000個を売るという、本町三丁目商店街の人気店「まるきん精肉屋」さんのコロッケをいただいたり……

そりゃあ美味しいよね。ミンチカツも人気なのだとか。

 暑い中、コロッケ食べて喉が乾いちゃったからアイスコーヒーでも飲みたいですねと言ったら、オリジナルブレンドが、国際味覚審査機構の審査会で優秀味覚賞(Superior Taste Award)☆☆二つ星受賞という快挙を果たしたコーヒー屋さんに連れて行ってくれて、アイスコーヒーをテイクアウトしたり……

ATARU DOFFEE
ちょい深めなコーヒーが美味しかった。

 軒先のお手製の吊り看板がとんでもなく可愛くて立ち寄った、有田屋という和菓子屋さんで、大好きな「あゆやき(鮎菓子)」を買ったり……

この布製の手作り看板。店主の奥さんが作ってるんだって。めちゃ可愛い。
愛用している鮎菓子ペンケースとともに。講演前にペロリ食べました。

 老舗の醤油屋さんで、和歌山が醤油発祥の地と言われていることを知り、金山寺味噌を買ったり……

金山寺を徑山寺と書くの初めて見た。うり、なす、しょうがなどの夏野菜がたくさん入った、おかず味噌。変な原料一切入ってなくてさすが。食べるの楽しみ。

 とにかく半日回っただけとは思えないほどの充実旅。夜の講演も冒頭のとおりで、ずいぶんと遠い存在だった御坊がぐっと近くなった気持ち。料理宿の「喜作」さんでの打ち上げも楽しく、和歌山のお酒もいただいて大満足。そのまま喜作さんのお部屋に泊めていただき、打ち上げでずいぶん遅い時間になったにも関わらず、温泉にも入らせていただいたり、何から何までほんとありがたい。僕は最近、あまり朝ごはんを食べないのだけど、打ち上げの際に、御坊のみなさんがあんまり勧めるものだから、お言葉に甘えて喜作さんの朝食をいただいたら、これは勧めてくれるはずだと思うほどの美味しさで、おひつのご飯を空にしてしまった。

地元の食材を使った、手の込んだお料理ばかりで嬉しい。
黒牛のあきあがり、美味しかったなあ〜
温泉に浸かれるかどうかで回復度、劇的に変わるよね。
充実の朝食
近くで取れる鮎の干物が、これまで食べた干物のなかで一番に好みだった。
和歌山らしい梅干しも最高だし、こちらの料理長の腕の良さと愛情がしっかり伝わる。
そりゃあご飯もすすみまくるよね。

 最後、この二日間ずっとアテンドしてくれた平野さんが、宿から御坊駅まで送り届けてくれた。そこに同じく二日間一緒に同行してくれた蔵光農園の蔵光さんも来てくれて、無農薬の葉みかんをくれた。めちゃくちゃ嬉しい!というのも、つい先日、妻の誕生日に得意料理のレモンパスタをつくってあげたいと、無農薬のレモンを探したのだけれど、ちょうどいまの時期はレモンのオフシーズン。そこで代わりに見つけた、まだ実の小さい緑の夏みかんを使って、初めて夏みかんのパスタをつくってみた。来年の春に収穫されるものの摘果なのか、まだ小さな夏みかんは、レモンほど尖った酸味はなく、レモンとはまた違った味わいがよい感じで、またつくってみたいと思っていたところだったのだ。なんてタイミング!

蔵光さんにいただいたみかんは無農薬なので皮を擦って使う夏みかんパスタには最適!

ここから先は

244字 / 2画像
この記事のみ ¥ 200

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?