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得意な人から学ぼうとしていたけれど、それは間違いだったかもしれない。

「こんなこと誰が知りたいの? そんな風に思って尻込みしてしまうんです」
「こんなこと話したらみんなどう思うだろう? と思うと話せなくなる」
「発信することの責任みたいなものを感じてしまって、学生の頃のように自由にSNSで発信できなくなってしまった」
 
 彼らはラジオでそんな話をしていた。


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最近、地域編集をキーワードに、地域や世代を超えて互いに学びあえる場をつくりたいと「りスクール」というオンラインサロンをスタートさせた。

この「りスクール」のポイントは「学びあい」にある。

妙な編集教室みたく、僕が教壇に立って一方的に課題を与えたり、何かを教えるといったことには興味がないので、僕はだからこそサロンという枠組みを活用しようと思った。

オンラインサロンと聞くと、なんだか怪しい空気が漂うと思うけれど、僕はそれこそがチャンスな気さえしている。

僕にとってのサロンは、レオナール・フジタこと画家の藤田嗣治の逸話に出てくるようなフランスのサロンや、阪急の創業者、小林一三のような経済人、初代桂春団治などの芸能文化人までが集ったという、かつての大阪の社交的サロン。はたまた、夢を持って上京した若き漫画たちによるトキワ荘から、さらには赤塚不二夫たち夜遊びの達人がタモリを見出した博多の夜の店にいたるまで、そういった世代を超えて才能を認めあい議論しあえる、文化的サロンのことだ。そのオンライン化と考える方が、僕にはしっくりくる。

けれど、いま世の中にあるほとんどのオンラインサロンは「ファンクラブ」か「カルチャースクール」な気がしている。

ひと昔前のユーチューバーじゃないけれど、そこに漂う胡散臭さは、ブルーオーシャンを隠す深い霧だ。その向こうに確かにある本質的な魅力を鷲掴んで、真摯にその構造に身を委ねれば、僕なりのオンラインサロンが運営できるんじゃないかと感じていた。

僕は冗談でなく、どのサロンに参加しているかということが、自分の故郷や、出身校のように、ある種の重要な出自として認識される世の中になると考えている。


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長々と書いてしまったけれど、そういうわけだから僕は、やたらと人数を増やしていくことよりも、見通せる範囲でのサロン運営にチャレンジしたいと思っていた。なので、せいぜい学校の1クラス(せいぜい35名くらい)を定員の目処にしようと考えた。というより、それくらい申し込んでくれるといいなと願っていた。しかしタイミングが良かったのか、気づけば既にその倍の申し込みをいただいてしまって慌てて募集を締め切った。

予想外の70名もの参加者を前に、その一人一人をしっかり把握するためにはどうすればいいか? スタートを前に僕はずいぶん頭を悩ませた。何度も言うけれど「りスクール」のポイントは「学びあい」にある。僕が参加者全員のことを把握していくだけなら、僕が努力すればいいだけだが、肝心なのは、参加メンバー一人一人にも、他の参加者のことをしっかり認識してもらうことだ。

教える→教わる の一方通行から脱して、それぞれに学び合う関係性をつくっていくためには、そのことは欠かせなかった。だからと言って、一人ずつ自己紹介の時間をとれば、たった5分でも×70人で6時間もかかる。たった5分でもだ。

そこで思いついたのが「ラジオ」だった。


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結果、これが最高にハマった!

ラジオは究極の「ながらメディア」だ。家事をしながら、仕事しながら、お風呂に入りながら、通勤通学中、いろんなタイミングで何かをしながら聴くことが出来る。オンライン上とはいえ、70名が同じ時間に顔をあわせることは難しい。だけどラジオなら、それぞれのタイミングで聴くことができるし、何よりラジオは、映像以上にその人となりが見えてくる。

そこで参加者全員に自己紹介ラジオを録音してもらうことにしたのだけれど、その際にちょっとしたルールを設けた。「尺」、つまり収録時間を年代によって決めたのだ。

◉20代→20分〜30分
◉30代→10分〜20分
◉40代→5分〜10分
◉50代以上 〜5分

僕はいま46歳だけれど、歳を重ねるにつれさまざまな経験値が増え、その結果饒舌になり過ぎているなと反省することが多い。実は「りスクール」の応募条件として「聴くこと」が得意な人、もしくはそうなりたいと願う人。というのがあるのだけれど、それはそんな僕の反省からきている。なので、会社組織など、社会の多くの場面において、どうしても発言のウェイトが少なくなりがちな若い年代の人ほど、長く喋ってもらうようにした。

また、基本は自己紹介なのだけれど、初めての体験ゆえ、話すことに迷うこともあるだろうと、以下のテーマを参考にお喋りしてもらった。

1)住んでいる町のこと
2)いまの仕事のこと
3)どうしてりスクールに参加してみようと思ったのか
4)いま困っていること(苦手なこと)
5)みんなに伝えたいこと(知ってほしいこと)


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予想を超えて大所帯になってしまったメンバーの自己紹介をなんとかよい形でやれないだろうか? が起点だったこの試み。僕はいま毎日送られてくるメンバーからの音声データに、ジングルをつけてはアップするという作業をひたすら続けているのだけど、これが僕のいまの一番の楽しみとなっている。

それもこれも、当初から僕が描いていた「学びあい」の姿が、早速このラジオ企画によって実現しはじめているからだ。


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ラジオ。しかもまったくの一人語り。それはまさに自分と向き合う時間。特定のメンバーとはいえ、見知らぬ誰かに話すという行為はみんな初めてだろうし戸惑いもたくさんだったと思う。それでもとにかくやってみたラジオそれぞれが本当に素晴らしいのだ。それぞれが早速コメント上でお互いのラジオの感想を伝えあい、そこから得た学びや共感をシェアしあっている。しかも面白いのは、話すことや、発信することが苦手だと言っているメンバーのラジオほど「学び」が多いこと。

僕たちはいつも、得意な人から学ぼうとするけれど、それは間違いだったかもしれない。不得意だという人の言葉や行動にこそ学びや気づきの種がある。僕はりスクールメンバーのラジオから、そんな学びをいま得ている。


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発信が苦手だという人たちは、こんな風に言う。

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得意な人から学ぼうとしていたけれど、それは間違いだったかもしれない。

藤本智士(Re:S)

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編集者。1974年兵庫県在住。『Re:S』『のんびり』編集長。著書に『風と土の秋田』リトルモア、『魔法をかける編集』インプレス。『アルバムのチカラ』(共著:浅田政志)赤々舎。その他、『ニッポンの嵐』『るろうにほん 熊本へ』(佐藤健)など、手掛けた書籍多数。

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2006年に創刊した雑誌「Re:S(りす)」編集長の藤本智士が、いまあらためてお届けする、あたらしい“ふつう”のnote「Re:S」。 日々のこと。旅のこと。地方のこと。編集のこと。 記事アップは月4回以上かなぁ。

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