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手放すことで得られたもの。

引っ越しをした。と言っても、新居は市内の隣町だからほぼ環境は変わらない。仕事柄、旅の多い僕だけれど、あらためてこの町が好きなんだな。

引越しの際に思うのは、やはり物の多さ。これを機に断捨離しようと思うけれど、学生時代からずっと好きだった人の本や雑誌など、思い入れのあるものは、なかなか上手に捨てられない。何より書物は、いまの僕にとって済み印が押されたコレクションだとしても、別の誰かの元にいけば、ある意味、生鮮品のごとし新鮮さでたっぷりの栄養と教養を与えてくれる。食べ物の旬は一瞬だけれど、一冊の書物の旬は、出会う人とのタイミングや相性によって変化する。

うむ。ならば思い切って手放そう! 何度もそう思うのだけどそのままブックオフなどに持っていく気持ちには到底なれない。かといって、メルカリ出品などしていたらお金以上に大切な時間を自ら安価に切り売りするようなもの、というかつまりは面倒だ。ならば直接知人にプレゼントしようとも考えたけれど、そんな善意の押し売りみたいなことは、さらに気が引ける。

はてさて、どうしてものか。いよいよ身動きが取れなくなって困った。

とその時、はたと閃いた。

✳︎

このブログでも何度か書いているように僕は「Re:School/りスクール」という名前のオンラインコミュニティの運営をしている。

北海道から沖縄まで、それどころかアメリカやデンマーク在住のメンバーまで、何かしらの琴線に触れあって集った約70人の仲間とともに、オンライン上だとは思えない関係を日々育んでいる。こういうご時世ということもあり、ほとんどのメンバーと実際に会ったこともないにもかかわらず、どこか強く信頼しあえている不思議。

毎週行われるメンバー自主企画のオンライントークイベントで、それぞれが他では話せないようなことを吐露しあっている姿をみる度に、こういう場所が欲しかったんだよなあと、僕自身しみじみと嬉しさを噛み締めている。

もはや「運営している」なんて言うことすら憚(はばか)られるくらい、メンバーみんなでこの空気をつくりあげていることがとても心地よいし、何より楽チンで、互いを否定しないことからはじまるこの自然な空気を察知して大事にしてくれるメンバーの細やかさに心底リスペクトの気持ちが止まない。

調子に乗ってこのままもう少し話を脱線させるけれど、

僕は以前、「3つのお守り」という展覧会をしたことがある。

当時、僕が大切だと思って取り組んでいた3つのプロジェクトについて紹介する展覧会だったのだけど、その3つとは、「水筒」と「ご朱印帳」と「家族写真」だった。

水筒は、マイボトル運動からの、&bottle開発につながる一連の流れを。

御朱印帳は「ALBUS」 という商品開発につながる流れを。

家族写真は当時やっていた「りす写真館」(※いとう写真としてカメラマンの伊東俊介がいまも活動中)や、映画『浅田家!』の原案となった浅田くんとの共著『アルバムのチカラ』につながるようなアルバム文化へのアクションについて。


10年以上前の小さな巡回展企画だけれど、それら3つを「お守り」と表現したところに僕自身、そもそも何を追求しようとしていたかを知る思いがしている。つまりはこうだ。

◉水筒→ライフライン的な安心感
◉ご朱印帳→神様にまもられているような安心感
◉家族写真→信じられる人がいる安心感

そう思えば僕はずっと心のどこかで「安心」というものを求め続けていて、その安心をくれるものを「お守り」と表現したのだと思う。だからこそ僕はRe:Schoolという場所をつくろうと思ったんだと思う。

生きていくということは他人とコミュニケーションを取っていくことだから、ともなって辛い思いをしたりしんどさを抱えたりしてしまうことからは絶対に避けられない。だからこそ、そのつらさを吐露し、弱さを自覚して表現することができる場が必要なのだ。

編集を学ぶスクールという体をしたRe:Schoolは、その実、そういった安心感のある場所として存在していて、だからこそ積極的に参加しようが、仕事でそれどころじゃなかったりしようが、まったく構わないしそこについては心配しても干渉しない。それぞれが必要なときにそこに在る。ただそれで救われる場所なんだと思う。

ああ大いに脱線した。

そんなりスクールのメンバーに、福島県福島市で『Books&Cafeコトウ』という古書店を営む小島くんというメンバーがいる。

僕は自分が大切にしてきた蔵書を彼に引き取ってもらおうと思った。ずっと手放せないでいた横尾忠則さんの書籍たちや、つげ義春の全集など、コトウの店内を思い出しながら段ボール5箱分の書籍を彼に送って、買い取ってもらったのだ。

すると小島くんからこんなメッセージが来た。

「今回の本たちはまとめて並べるつもりなので、たぶん、藤本さん棚が生まれると思います。 よき本たちが並ぶのも嬉しいのですが、藤本さんの思考がコトウに流れ込むことも、とても嬉しいです。 店が、より育ちそうです。」

そして実際に『Books&Cafeコトウ』の一部にこんなコーナーができたと写真が送られてきた。

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