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やりたいことより、やらないことを謳おう。

無断で映像や静止画を使用し、字幕やナレーションを付けて映画作品のストーリーを紹介するファスト映画というものがあると、一連のニュースで初めて知った。こんなことを当たり前に賛同など出来るわけがないけれど、こういったものが生まれる背景には向き合ってみたいと思った。

ここ数年、アニメ、映画、ドラマ、YouTube動画など、魅力的な映像作品が増えすぎているから、あれもこれも全部観たい!という欲望を満たさんとする気持ちは当然よくわかる。けれどまあそれが無理だということもみんなわかっているはず。ならば、少しでも多くを観たいという気持ちではなく、潔く観ないという選択をしてしまう方がいい。

例えば僕は48歳になるけどこれまで海外に行ったことがない。
そして今後もおそらく行かない。
それは20代のときに行かないと決めたからだ。
その結果、僕は多少、人よりは日本を知っているように思う。

捨てることで得たものを実感して生きている。

これまで何度、海外取材や視察のお誘いを受けたかわからないけれど、「行かない」という選択をしている僕は、そういうお誘いは即決でお断りするか、なんとなくお茶を濁してその先は考えないでいる。実際、そう公言するうちに、お誘い自体も少なくなった。

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数日前、山形県の住みます芸人となっているソラシドの本坊元児さんの
『脱・東京芸人 都会を捨てて見えてきたもの』という本を読んだ。

本坊さんは都会を捨てたくて捨てたわけではないけれど、目の前の状況に黙々と向き合った結果、山形に住むという選択をした。しかしそれは、ご本人も書かれていたけれど、正直なところ山形を選んだのではなく、都会を捨てる決意をしたということ。つまり、やりたいことを謳うのではなく、やらないことを決めたということ。

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昨日、ジモコロで、こんな記事がアップされた。
『生きることを肯定できる地元で、自分のことはどうでもよくなった』

長野県飯山という超絶雪深い土地から『鶴と亀』という超イケてるフリーペーパーをつくっている小林直博くんのインタビュー記事。
この記事の冒頭で小林くんのこんな言葉が紹介されている。

「僕は『ここを出ない』って決めたんです。決めたら、迷わなくていいですから」

言わずもがな、彼の言葉は強く僕に刺さる。土門蘭ちゃんによるこのインタビュー記事は上から下まで全部旨味しかないのでマジ読んでほしい。

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一昨日のこと。以前から気になっていたまま一度も訪れることができていなかった『GASAKI BASE』という兵庫県尼崎市にあるDIYパーツのお店に行ってみた。

足立さんご夫婦が、元金型工場だった建物に住み、みずからリノベしながら暮らしていく様を丸ごとエンタメ化していて、それがなんだかとても面白く、初対面なのに何時間も話し込んでしまった。その際に彼が言っていた話のなかで印象に残ったのは、夫婦でやれることのキャパシティの話だった。例えば、ネット広告はもう出さないとか、空き家対策的講演などの依頼は受けないとか、それら全部やってみた上での判断ながら、丁寧にやらなくていいことを定めていく話がとても素敵だと思った。

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と、こんな風に、ここ数日で出会ったものや人がすべて、同じことを言っている気がした。

例えばあなたの目の前に「これまでジブリを観たことがなくて、この際観ないでおこうと思ってる」という人がいたとする。あなたはどんな言葉を返すだろう。多くの人は「いやいや絶対観たほうがいい!」とジブリの良さについて語ろうとするんじゃないだろうか。自分が観てとても良かったという実感をシェアしたいという気持ちだから、それはそれで素敵だと思うけれど、僕はきっと良いもわるいも「へえー、そうなんや」としか返せないように思う。それは僕がジブリが好きじゃないとか感動しないとかじゃなく(実際、めちゃ好き)、その選択をも尊重しあえたらいいなと思うからだ。きっと僕は「ジブリ観ない分、他に出会ったいい映画あったら教えて」とかなんとか言うように思う。

何かをするぞ! という選択はなんだかポジティブでわかりやすいけれど、
何かをしない。 という決意も決してネガティブなわけじゃない。

それぞれの「選択」にフラットに振る舞えるようになることが、生きやすい世の中につながるんじゃないかと考えている。

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