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今を生きる浅田政志が映画化される理由

 今日(10/2)、いよいよ映画『浅田家!』が公開された。

 2014年に出版した浅田くんとの共著『アルバムのチカラ』も原案の一つになったことから、新たに取材した原稿を加えた『アルバムのチカラ 増補版』も先日出版されたところだ。


アルバム文化を未来に。
写真をプリントして残すことの尊さを伝える。

 これは、僕の編集者人生の中で最も長くテーマとして掲げ続けていることの一つ。

 『アルバムのチカラ』は、僕がアルバムに愛を注ぐその理由がすべて込められていると言ってもよいくらいなので、ぜひとも映画を観た後にでも、読んでもらえればと思う。

 浅田政志という稀有な使命を持った写真家との出会いから、こうやってあらためて著作を読んでもらえることは本当にありがたく、嬉しい。

 そこで今回は、なかなかこういう機会もないと思うので、僕の視点から浅田政志の何がすごいのかについて書いてみたいと思う。

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 もう、6年以上前だったか、写真集『浅田家』が映画化されるかもしれないと浅田くんから聞いたときは本当に驚いた。小説や漫画が原作ではなく、写真集が映画化されるということもそうだけれど、何よりまず、浅田政志は生きている。存命の写真家が主人公となる映画なんて、僕の知る限りでは聞いたことがなかったし、いったい誰が浅田くんを演じるのだろう? と、そのことがとても気になったことを思い出す。

 数年後、ようやくキャスティングが決まって、浅田くんをニノが演じると聞いた時は、そのご縁にもまた驚いた。今回のことを機に『ニッポンの嵐』以来、久しぶりにニノと再会できたこともとても大きな喜びだった。ニノと一緒に、スーパーマリオの生みの親である宮本茂さんや、ジブリの宮崎駿監督に会いに行った時のことを思い出す。ちなみにこのお二人に会いに行くと決めたのは、ニノがゲーム好きなことはもちろん、二人の「宮」さんで二宮だ! という駄洒落が背中を押してくれたことを無駄に告白してみる。

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 さて、浅田くんの話だった。

 僕が浅田政志の存在を知ったのは、大阪の小さなギャラリーでの展示だった。当時うちの会社にいたデザイナーの美歩という女の子と一緒に観にいったことを記憶している。展示の内容はもちろん『浅田家』。たしか2004年か2005年くらいだったと思うから、そう思えば写真学校の頃から20年近く彼は「家族写真」をテーマに活動を続けていることになる。2008年には写真集『浅田家』が出版されて、そのことをまた美歩から教えてもらってすぐに購入した。梅佳代ちゃんの『Umep』に続いて、なんだか写真界に新しい風が吹いてきたようなワクワクした気持ちになったことを覚えている。

 そんな浅田くんに初めて撮影を依頼したのは2009年のこと。

 明石家さんまさんの師匠でもある、笑福亭松之助さんのDVD BOXのアートディレクションを担当することになった僕は、デザインを担当する美歩の熱烈なプッシュもあってDVD BOXのデザインに使用する写真を浅田くんに撮影してもらうことにした。それどころか浅田くん撮影のミニ写真集的ブックレットまで封入。外箱から中身まで何もかも浅田くんの写真一色のとんでもないものが出来上がった。

 いまさらながらよくこの企画が通ったものだと思う。しかも発売は2009年春だから、制作期間はまだ浅田くんが木村伊兵衛賞を受賞する前だったはず。

 あまり知られていないけれど、このDVDは浅田くんの密かな代表作だと個人的には思っている。当時、他にも様々な芸人さんたち、しかも師匠クラスのみなさんのDVDのアートディレクションをさせてもらっていたのだけれど、落語家の師匠がたのDVDといえば、落ち着いた和柄で、背筋がシャンとするようなデザインが好まれがちだった。そんななか、松之助師匠はとにかく「そういうキチッとしたのはいらん」とおっしゃる。そして師匠自ら出てきたコンセプトが、笑福亭松之助のお葬式だった。

 明石家さんまさんにしっかりと引き継がれている、松之助師匠の楽天的でおおらかで自由な考え方と生き様。これを形にするクリエイターとして浅田政志以上の存在はいない。それがデザイナーの美歩との共通した思いだった。実際、異端児と言われ続けた師匠の発想とそれまでの人生を、一枚一枚の写真のなかに構成し表現してくその手腕に、僕は浅田政志という写真家の類稀なるパッケージ力を見た。これは僕の領域で言えば「編集力」に他ならない。

 目の前にあるものを写すのが写真だ。しかし、ただそのまま撮っただけでは映らないものがある。背景や物語や人柄といった確かに在るけれど写らないものを浅田政志はその演出をもって次々と可視化させていく。そこに浅田政志は写真表現としての楽しさと、写真家としての使命をも感じているのだと思う。だから彼は、写真を撮る前の被写体とのコミュニケーションをとても大切にする。これは僕の仕事で言えば「取材」だ。取材にとって一番重要なことは聴くこと。この当たり前の「聴く」という行為ができる人とできない人がいて、それが僕はプロの表現者の境界線だと思っている。あくまで僕の考え方ではあるけれど、優秀な表現者はみな代弁者だ

 彼が評価されるようになるまで、写真というものはなんだかとても小難しいもので、そこに写っていないものを想像したり、感じたりしなければいけないという圧力みたいなものが確かにあった。しかし浅田家は違った。そこには多くのヒントのようなものが散りばめられていて、それを頼りに僕たちはその写真にとても容易に入っていくことができる。彼の作品の間口の広さとその奥深さは、優秀なエンタメと同質のものだと思う。だからこそ彼が木村伊兵衛賞を受賞したときはとてもとても嬉しかった。

 そしてもう一つ、僕が浅田くんの写真に対して、その根っこのところで共感し続けていることがあって、それは

人は死ぬ。
けれど写真は残る。

 ということだ。

 少なくとも数十年すれば確実に消える肉体の一方で、プリントされた写真やアルバムは残っていく。デジタル画像はパソコンやスマホなどのハードを介さなければ見られないから、それそのものとして残るという意味ではプリントには叶わない。しかしアナログデジタルどちらにしろ、一枚の写真にその人の多くを、また、その人に向けられた多くの愛を込めようとするのが浅田政志の写真だ。

 松之助師匠の仕事をご一緒したことで、僕はあらためて彼のアプローチとその使命に、共感した。僕はこういう写真家を待ってたんだなあと思った。残念ながら松之助師匠は昨年93歳でお亡くなりになってしまったけれど、きっとこのDVDを残せたことで、師匠は安らかに逝去されたんじゃないだろうかと勝手ながら思っている。師匠の身体はいまこの世に存在しないけれど、師匠の存在は浅田政志が残した写真にパッケージされて、いまもなおここに確かに存在する。

 だから、そんな彼自身が、今度は中野量太監督によって、映画『浅田家!』で、その仕事や人となりを残されることの意味。なんと象徴的で興味深く面白いことだろう。彼がこれまで多くの人に対して果たしてきた使命を、中野監督が、ニノが、プロデューサーの小川真司さんが果たさんとしていることに、僕はなんだかとても不思議なチカラを感じている。

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 DVD制作で彼とご一緒させてもらったその同じ年(2009年)に、僕が企画したのが『アルバムエキスポ』という展覧会イベントだ。

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※上の写真は2010年の第二回アルバムエキスポ

 スマホの普及によって写真をプリントしない人が増えて、アルバムをつくるという文化が途絶えかけていたなか、なんとかアルバムの良さを伝えたいと思い企画したそのイベントには、多くのミュージシャンや俳優、芸人や写真家など多くの方に協力いただき、リアルに子供の頃の家族アルバムなどを出展いただいた。そこで当時、浅田くんにも写真集ではない、実際の浅田家のアルバムを出展してもらった。そしてさらに、象徴的な一枚の撮り下ろし作品も出展してもらった。

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 浅田家のみんなが浅田家のアルバムをまるで宝箱を開けた瞬間のような姿で眺めているこの作品が僕はいまでも一番と言っていいほどに大好きだ。この展示で僕は彼の作品をこう評した。

浅田政志の作品は「一枚のアルバム」だ。

 浅田くんが撮る写真は、アルバム一冊分に値するような家族の物語を、たった一枚に込める。まさにそれは、一冊ではなく、一枚のアルバムだとそう思った。

 浅田くんの協力を得ながら『アルバムエキスポ』というイベントを続けていくなかで、2011年、東日本大地震が起こり、僕は浅田くんに一緒に取材しないかと電話した。そこから冒頭の『アルバムのチカラ』へとつながる旅がスタートした。

 さらにその後、2012年からは秋田県のお仕事として僕が編集長を務めた『のんびり』というフリーマガジンで、4年間、一緒に秋田を取材してまわった。特にその表紙写真はまさに浅田節ともいえる演出写真で、毎回その準備は大変だったけれど、その分、現場で奮闘してくれた秋田メンバーたちにとっても、とても大切な作品となった。

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 あくまでも僕から見た浅田政志ではあるけれど、今を生きる一人の写真家がどうして映画化されるほど特別な存在なのか、映画『浅田家!』をもって、彼を知ってくれたかたに、少しでも伝わればいいなと思う。


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編集者。1974年兵庫県在住。『Re:S』『のんびり』編集長。著書に『風と土の秋田』リトルモア、『魔法をかける編集』インプレス。『アルバムのチカラ』(共著:浅田政志)赤々舎。その他、『ニッポンの嵐』『るろうにほん 熊本へ』(佐藤健)など、手掛けた書籍多数。
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