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必要なのは「空気を読むチカラ」より「水をさすチカラ」。

Amazonのおすすめを怖いと思う気持ちもなくなってきた昨今。
今日も僕たちのフリック&クリックは重要な情報の塊となってさまざまな企業活動に活用されている。

便利さと引き換えに提供しつづけているビッグデータにいくら抵抗しようとも糠に釘。暖簾に腕押し。グーグルにお手紙。

しかしこれは僕たちが求めていた世界でもある。

趣味嗜好を満たす心地良い世界。耳障りの良い世界。自分にとって都合のよい世界。
それをSNSはつくってくれる。
Facebookは知らず、自分と思考が似た人、つまり、共感の可視化ボタンである「いいね!」を押した人の投稿が目につくようになっているし、Twitterも当然ながらフォローしている人の界隈がまるで世界の鏡のように写る。

だからいつのまにか僕たちは
Amazonのおすすめのようにカテゴライズされた箱庭のなかで生きている。

本来インターネットは多種多様な世界を見せてくれるはずだけれど、
その入り口となるアプリやソフトの成熟と共に、それぞれのサービスという名の玄関から覗く世界は、ある意味で現実社会以上に偏っている。

だからこそ僕たちにはリアルな現場が必要だ。

✳︎

だけど、ネット世界のリテラシーをまとい過ぎて着膨れしつつある僕たちが、再び素っ裸でリアル社会に飛び込むには最早かなりの勇気が必要。

風土から生まれる独特の慣習や、防衛本能から来る閉鎖的で保守的な思考で固められた狭い地域コミュニティを超えるべく、インターネットがあるのも間違いないけれど、
その逆で、上述のような偏ったSNS的世界を超えるべく、オフラインの現実社会があることも間違いないと僕は思う。

少なくとも現実の社会はSNSと違って、自分好みなモノ以外を不可視化してはくれない。自分の趣味嗜好とはおよそ合いそうもない、モノや考え方やルールで溢れているし、それどころか、そういったものが直接的に関わりを求めてきたりもする。

そんなしがらみからの抜け道としての役割を、かつては「会社」というものが担っていたのかもしれない。だからこそ会社は家族的終身雇用が善とされてきた。けれどそんな時代も終わってしまった。

家族や地域といった、ときに鬱陶しくもある密な関係性から逃げ出す手段の一つでもあった会社が、また別種のしがらみを生んでいる。そもそも会社組織におけるルールやしきたりは、あくまでもその会社のものでしかない。「会社」はひっくり返すと「社会」だけれど、それはつまり会社のルールは、ひっくり返さなきゃ、社会のルールにはなりえないということでもあるのだろう。

✳︎

インターネット上の偏ってはいるけれど心地よいコミュニティと、面倒ながらも、未知なものと意図せず出会えるリアル社会の両方を、振り子のように往来し、それぞれの世界に活かし合う生き方。

それが僕にとって、いま理想とする生き方だ。

そのためには、家族や地域でもなければ会社でもない、もう一つのコミュニティが必要で、しかもそれがオンラインとオフラインの狭間にあるとちょうどいい。ある種の心地よさというオブラートに包まれながら、異物を飲み込むことができる場所とでも言おうか。

✳︎

そういった考えのもと、僕はこの夏からオンラインサロンを運営している。これは僕のサロンに入ってみたらということではなく(現実いまはサロンメンバーを募集していない)、こういうサードプレイスを多くの人が持つべきじゃないかという話。

オンラインゆえに、暮らす地域はバラバラだけれど、それでも共通した考え方を持った人たちが集まるサロンは、良い意味で箱庭。過剰な賞賛もなければ、安易な否定もない、安心安全なコミュニティのなかだからこそ、人によって考え方も生き方も趣味嗜好もまったく違うという当たり前の事実を受け入れられる。

僕が運営するサロンでは毎週末に、メンバーそれぞれが自ら企画した、なんらかのオンラインイベントが行われていて、先週も『かあさんウェビナー 育児と編集』という変わったタイトルのイベントが開催された。

サロンメンバーのなかには、子育て真っ只中の方も多く、そんなお母さんたちが自らの子育てを、編集というテーマを切り口にただ話してみるという会だったのだけれど、そこで僕はあらためて、オンラインサロンという3つ目の場所のチカラを思い知った。

言わずもがな、子供の個性はそれぞれだ。育児とは子供たちの個性と、世の中の「ふつう」という圧力とのたたかいとも言える。当たり前にあるそれぞれの個性を、決まった枠におさめていく日本の学校教育では、はみ出してしまわざるを得ないキャラクターがたくさんあって、それを「ふつうはこうだ」とか、また、そんな言葉にしないまでも確実に存在する「空気」で、お母さんたちがいかに苦しんでいるかがとてもよくわかった。

✳︎

1977年に書かれた『空気の研究』(文春文庫)という本のなかで、山本七平は、日本人が物事を決めるときにもっとも重要なのが空気だと言っている。空気とは「非常に強固でほぼ絶対的な支配力をもつ『判断の基準』」だと。

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必要なのは「空気を読むチカラ」より「水をさすチカラ」。

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編集者。1974年兵庫県在住。『Re:S』『のんびり』編集長。著書に『風と土の秋田』リトルモア、『魔法をかける編集』インプレス。『アルバムのチカラ』(共著:浅田政志)赤々舎。その他、『ニッポンの嵐』『るろうにほん 熊本へ』(佐藤健)など、手掛けた書籍多数。

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