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『グッド・ライフ』幸せになるのに必要なのは、やっぱりお金じゃなかった。

「結論は冒頭にある。しかしそこで読むのをやめる人はいないだろう。
様々な人生に一喜一憂しながら、線を引き、直接気持ちを書き込んだこの一冊を、僕は娘に残そうと思う。これはもはや僕のエンディングノートだ。」
 ----藤本智士(有限会社りす代表 | 編集者)

 これは6月20日に発売が決まった書籍『グッド・ライフ 幸せになるのに、遅すぎることはない』(辰巳出版)に寄せたコメント。

 最近僕はあらためて本は道具だと感じているので、読書しながら、本に直接、赤線を引いたりメモしたりしている。また、それらを共有する『つんでレ』(積んでる書籍のレッドラインの略)という名のオンラインイベントまで始めたりして、一冊の本を、しがんで、しがんで、使いたおすことが習慣づいてきた。そんななかで『グッドライフ』は、最近もっとも書き込みで赤く染まった一冊。

 冒頭のコメントは、そんなふうに、琴線に触れた箇所やメモが残された一冊は、ある意味で最高のエンディングノートなんじゃないかという思いで書いたものなのだが、その本意みたいなものを、今回はこのnoteに綴ろうと思う。

 僕は以前、思い立ったいまから始めようという想いを込めた『いまからノート』(青幻舎)なるエンディングノートを作ったことがある。それは既存のエンディングノートが遺産相続をメインにした身辺整理ノートを軸にしたものばかりだったからだ。

 自分の親がどんな思いで人生を過ごし、何を思い、何を大切にし、そして何を幸福だと感じて生きてきたのか、ということを知れるようなエンディングノートこそが必要なんじゃないかと思っていた僕は、事務的な項目の記入やチェックリストではなく、写真(+コメント)で胸の内をやさしく開放出来るような一冊を作りたいと、イラストレーターの福田利之さんに協力をお願いして作り上げた。

 その冒頭に書きおろした詩をここに引用してみる。

いまから
土にかえる
じゅんびをします
ふわふわただよう
たましいが
しっかり地面を
踏み締められるように
とびっきりの靴を
はかせます

叶わぬはずの
地面をあるく
わたしの
人生のおと

『いまからノート』(青幻舎)2017年

 文頭の「いまから」と、文末の「のおと」をつなげた『いまからノート』は、僕も福田さんもとてもお気に入りの一冊なんだけれど、思うようには売れなくって、でも今ならこれをアプリ化してフォトブックにしてリアル配送するようなサービスにすると良いかもなあなんて思う。(どなたか一緒にやりませんか?)

 さて、冒頭の『グッド・ライフ』だが、そういう意味で僕は、この真っ赤になった一冊を娘に残したいと思ったのと同時に、この一冊に書かれているさまざまが、今後、娘の人生にも訪れるであろう幾多の苦難に立ち向かう大きなヒントになるはずだとも思った。

 『グッド・ライフ』の副題「幸せになるのに、遅すぎることはない」は、本というプロダクトの購買層に向けたメッセージとして、とても有効で強いコピーだけれど、いま現在の僕の気持ちにのみフィットする副題をつけるなら「幸せになるのに必要なのは、やっぱりお金じゃなかった」という感じだろうか。というのも最近、僕はずっと「お金」のことについて考えている。お金のことばかり考えていると書くと、どう稼ぐかについてばかり考えているように思われるかもしれないが、僕はどちらかというと「お金」というものが奪ったものについて考えていて、それが僕は「コミュニケーション」だと思っている。

 今朝も偶然ツイッターで、「日本のデザインはなぜに説明的なのか?」についての考察が流れてきて、とても興味深く拝見した。そこに書かれていたのは、西欧人と日本人との「コミュニケーションに対する感覚の違い」。ある種の美意識を優先した、シンプルで説明不足なデザインであっても、西欧人の場合は誰かに聞いたりコミュニケーションをとることで解決するだろうと考えるけれど、日本人は人見知りなことに加え、聞かない美学のようなものまで存在するので、結果的に、説明過多なデザインでないと伝わらない、となってしまうと。

 これは確かに一理あるなあと思ったし、何より僕がこのツイートに惹かれたのは、まさに「コミュニケーション」の部分だ。日本人がある時期まで、ものすごい勢いで経済成長を遂げたのは、上述のようなコミュニケーションに対する意識のなせるわざだったのかも、とすら思った。

 スーパーで98円で売っているペットボトルのジュース。それと同じものがスーパー店頭の自販機で120円で売っている。明らかに店内で買った方が安いけれど、それでも自動販売機で買う人が一定数いて、では、その人がその差額22円で支払っているものは何なのかと言うと、それはレジを通してお金を支払う際のちょっとしたコミュニケーションの面倒さだという話がある。

 つまりお金というのは、面倒なコミュニケーションを省いてくれるとても便利なツールだ。日本人のコミュニケーション下手が、苦手なコミュニケーションの省略につながる新たなサービスや商品を生み、それがまさに大量生産大量消費社会に向いていたことから、その結果として、急激な経済成長がもたらされたんじゃないかとすら思った。

 なぜか僕は何年かごと、定期的にお金を疑う周期みたいなものがあって、そのはじまりは確か2007年くらいだった。当時僕は自身が作る雑誌で「物々交換してみる」というタイトルの特集を組み、当時まだ未踏だった北海道まで、物々交換の旅に出た。そのときにわかったことは、物々交換は本当に大変だし面倒だし、大抵うまくいかないということだ。

 友人が自然農法でつくったお茶を片手にスタートした物々交換の旅。さまざまな出会いのもと、お茶が色々なものに変化していったけれど、その度に僕は、出会い頭の見知らぬ人に必死になって語り、説明し、コミュニケーションをとった。全力でそのモノの価値やここにいたるまでの経緯を説明して、ようやくそれが、別の何かに交換される。だから、いま目の前に在るものを、自分が欲しいものに交換するなんて奇跡。だけどその困難極まりないことを、いとも簡単に叶えてくれるのが「お金」なのだと身をもって理解した。

 どんなものであれ一旦「お金」にチェンジしておけば、大抵のものと交換することができる。こんなに便利なツールはない。お金は面倒でしかたがないコミュニケーションを綺麗さっぱり端折ってくれる最高のアイデアだ。しかしすべてのものには、良い部分とわるい部分がある。そうやって幸福をもたらしてくれるはずの「お金」は、どうやら幸福だけをもたらしてくれるわけではない。それどころかその真逆のものを生み出してしまっているかもしれないと、みんなが薄々気づき始めている。

 さあ、ここで『グッド・ライフ』だ。推薦コメントにも書いたように、この本の結論は冒頭すぐに書かれている。それは「健康で幸せな生活を送るには、よい人間関係が必要だ」ということ。つまり、コミュニケーションを避けていれば、幸福な人生は訪れないということだ。そして、この一文のリアルを、84年にわたって、さまざまな人たちの人生を縦断研究した結果から、丁寧に紐解いてくれるのが、この本の最大の特徴でもある。これらを読み進めることで、多くの人が僕と同じように、豊かな気づきを得るだろう。

 人間が関わらない悩みなんて一つもないと言われるように、我々が苦悩するとき、その原因は大抵、人間関係の問題だ。恋愛を想像するとわかりやすいかもしれない。最高の幸福をくれるのも、最大の苦悩をくれるのも愛する人だ。その絶望に打ちひしがれて、人との関わりそのものを閉ざしてしまっっては、決してその後の人生に幸福が訪れることはないだろう。だからこそ、コミュニケーションはとても重要で、だけどコミュニケーションはしんどいし面倒。しかもそのコミュニケーションをお金は省いてくれる。だからこそ、お金は危うい。お金が無条件に幸福を連れてきてくれるなんてことはまったくもって幻想だ。

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