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『ヒラク、この日いないってよ in 金津創作の森美術館』 ~前編~

◉いきさつ

現在、福井県あわら市『金津創作の森美術館』にて開催中の『発酵ツーリズムにっぽん/ほくりく』。会期は9/17〜12/4ということでちょうど折り返し地点にあたる11/3に、展覧会のデザインを担当したクリエイティブチームのメンバー3人でトークをしてきました。

今回のnoteはそのトークの書き起こしです。テキストで見やすいように、加筆修正編集しているので、トークを聞くより、よりわかりやすく伝わるように思います。ぜひぜひご覧くださいませ。

2022年11月3日(木・祝) 14時〜 会場:金津創作の森美術館
『ヒラク、この日いないってよ』クリエイティブチームの展覧会よもやま話

藤本智士(クリエイティブディレクター/兵庫県西宮在住)
寺田千夏(アートディレクション・デザイン/福井県福井市在住)
財部裕貴(アートディレクション・デザイン/石川県金沢市在住)

◉おにゅうくんとは何者なのか?

藤本 今日はなんと言っても、ヒラクがいないですから、それぞれ積もり積もったものを解放できるんじゃないですか。
寺田 ちなみに、今、ヒラクさんはどこにいるんでしたっけ?
藤本 大阪の阪神百貨店で開催中の発酵ツーリズム展にいます。

藤本 昨日が初日だったんで行って来ましたけど、平日にも関わらずたくさんの人がいて。今日なんて祝日なので、ものすごいみたいですよ。それはまあいいんですけど、とにかくこの大事な文化の日にね、メイン会場の福井だけではなく、大阪の阪神百貨店でも発酵展をやっているということ自体でわかってもらえるように、もう、とにかくとっちらかってるんですよ(笑)。
寺田 ほんとに。
藤本 とにかくいま、いろんなところで、関連展示を色々やってるのを、同じクリエイティブとして整理しなきゃいけないというのも、我々の仕事の一つという側面もある。デザイナーさんたちは特に。
財部 そうですねー。
藤本 では、せっかくなので、メインビジュアルのあたりから話していきますか?
寺田 おにゅうくんのことから話していきましょうか。
藤本 そもそも、おにゅうくんって何者なのか?
寺田 おにゅうくんは、この展覧会のメインキャラクターなんですけれども、今年の春、夏とずっとヒラクさんと一緒に取材をしていくなかで、キャラクターが欲しいよねっていう話になって。旅の途中で「こんなキャラクターいいんじゃない?」っていうアイディアを出していって、最終的に、このおにゅうくんになりました。ちなみに初めのヒラクさんのラフがこれで、

寺田 この時点でけっこう出来上がってはいるんですよね。おにゅうくんのまわりに水と発酵を象徴するヘビ、山を象徴する鹿がいて、衣装は福井県小浜の「お水送り」から着想を得ています。お酒が好きだとか、みんな伝承に基づいているんですけど、遅刻をするおっちょこちょいなキャラクター像なんかをヒラクさんからもらって、キャラクターに仕上げていくところから始まりました。

藤本 もともと、この発酵ツーリズムという展示は、東京の渋谷ヒカリエで2019年に開催されたのが最初で。

藤本 ヒカリエは洗練された印象のある場所だけど、ここ、金津創作の森は家族連れで来てくださったり、周辺の森も含めてとても気持ちの良い朗らかな場所なので、良い意味のゆるさみたいなものが重要じゃないかなっていうのが根本的にあって、とっつきやすいキャラクターが欲しいねっていう話になったんだよね。

寺田 そうですね。それで、これが一発目に上がってきたやつですね。

財部 今回イラストを描いてくださったのは漫画家のスケラッコさん。
藤本 知る人ぞ知るというか、とても有名な漫画家のスケラッコさんにお願いをして、ちょっとずつ形作っていきましたね。
寺田 今のものに一番近いのはEですね。最初は、小ちゃいしずくのような案もありました。
藤本 水の神様だからね。
財部 かわいいですね。
寺田 このようにしてキャラクターが仕上がっていきました。

◉ヒカリエの展示

藤本 それがポスタービジュアルというかメインビジュアルに帰結していくんですね。ちなみに、この金津創作の森美術館で発酵展をしたいっていう話はいつが最初だった?
千葉(学芸員) 最初にヒラクさんに声をかけたのは2019年です。
藤本 あ、じゃあもうヒカリエで展示をしたその年に声をかけてくれて、そこから3年越しで開催できることになったと。で、ここなんですけど、会場の大きさがヒカリエの3倍あるんですよ。まずそれにビビったよね。
財部 ビビりましたね。
藤本 当時はヒラクも、北陸の発酵のポテンシャルに対して半信半疑なとこともあったから、下手すると47都道府県を薄く伸ばしていくようなことになりかねない。とにかくそれだけは避けたいなと思いつつ、いざ蓋を開けてみると、北陸の発酵の多様さにヒラクを中心に全員が打ちのめされていく。結果、会場構成的には大きく3つに分かれてるんですが、その3分の1(つまりボリューム的にいうとヒカリエの展示一つ分が、がっつり北陸の発酵だけで構成できたっていうのは、全体構成かたちづくっていく立場としては、とても安心した。だけど、それを作らなきゃいけない、ちーこちゃん(寺田)は大変だったよね。
寺田 そうですね。デザイナーになって10年ぐらい経つんですけど、展覧会のデザインをしたことがなくて。いきなり出て来た仕事で、こんな大きな会場で、何から手をつけていいのかもわからない状況だったんです。ヒラクさんとも初めましてで、ヒラクさんからは「とりあえず僕の取材に着いて来てくれたらなんとかなるから」って言われて「なんとかなるんかな?」って思いながら、半信半疑でずっと着いて行き。そうしたら、本当に道中に色々と出て来るんですよねアイデアが。今みなさんが見てくださっている回転する「おすし」の展示だとか、いろんなアイディアが湧いて来て、それを3人でどんどん形にしていくっていう数か月間でしたね。
藤本 ちーこちゃん的には、財部先輩が前回ヒカリエでのデザインワークを担当していたから、そこは心強かったんじゃないですか?
寺田 はい。本当に。
財部 ちーこちゃんの不安や心配は僕も経験しているので、「わかるよ、わかるよ」ってなだめながらやっていましたね。「がんばろう」って。
藤本 やさしい。でも、今でこそ財部くんも先輩面してそう言うけど、ヒカリエのときはチーコちゃん状態だったからね(笑)。
寺田 本当に?!
財部 本当に。
藤本 デザイナーさんをディレクションする僕の立場からすれば、そもそも僕たちがデザインするこの「発酵」っていうもの自体が、都会より地方のほうが、多様で豊かじゃないですか。シンプルに古いものが残っていたりするので。そんな発酵の展覧会をつくるのには、きっと東京で活躍されているデザイナーさんじゃないほうが良いなって思ったんですよね。しかも渋谷のヒカリエで、デザインの業界ではとても有名なナガオカケンメイさんが主宰しているD&DEPARTMENTのスペースでの展覧会だから、まさにフックアップというか、これをもって経験値を上げたり、チカラをつけることにつながる。僕は地方でのお仕事が多いので、地方に優秀なデザイナーさんがいろいろいらっしゃるなあと思うなかで、もちろん伴走するので、展覧会のデザイン初体験という財部くんにぜひチャレンジしてほしいなと思ってお声かけしたのが最初でした。
財部 ありがとうございます。
藤本 やりきりましたよね。
財部 本当に大変でしたね。もはや全然思い出せないくらい大変でした。ずーっと机に向かって、パソコンに向かって、粛々と作り続ける日々。
藤本 防衛本能的に脳が忘れようとするのかな(笑)。出産の話みたい。
財部 でも今回の展示のお話をいただいたときに、渋谷ヒカリエのときも大変だったけど、やりきったときのおもしろさだったり、お客さんがたくさん来てくださって展示を見てくれている様子を見ていたので、そのためにがんばれるかなと思ったし、ちーこちゃんという優秀なデザイナーさんもジョインしてくれるっていうこともあったので、今回もお引き受けしました。
藤本 なので財部くんの担当としては、前回のヒカリエでの展示内容、つまり47都道府県の発酵食品の展示を今回の会場のバージョンに転換していくっていうことだから、なんとなくのイメージは掴めてましたよね?
財部 わりとそうですね。
藤本 一方、ちーこちゃんはゼロだよね。
寺田 ゼロですよ。

◉展示のつくりかた

寺田 これは、かなり初期の頃の図面です。7月の時点のもの。
藤本 今思えば、9月から始まる展覧会の初期の図面が7月って言ってる時点でギリギリ感あるな。
寺田 ちなみに初めにヒラクさんから届いた北陸部分の会場イメージ、これだけですよ。

財部 そうでした!
藤本 こんなんでも展覧会ってつくれるんだね(笑)
寺田 笑
藤本 だけど、ここに、ヒラク先生のありがたい言葉がけっこう詰まってるよね。すでにここにバタバタ茶が入ってるとか、「北陸は食国(おすくに)」「水が運ぶ祈りと文化」とか、本展で伝えたいど真ん中が抽出されているので、それこそ我々にとってはかなり十分な図面だったかもしれない。そもそも図面といえるのかわかんないけど。
財部 その点、僕の担当部分は前回やっているので、わりとデザインを組みやすかったんです。47都道府県の展示は「島の発酵」「山の発酵」「海の発酵」「街の発酵」と、4つのカテゴリーに分かれていて。今回もそこを踏襲しつつ、以前よりはスペースが確保できる分、若干自由度高く旅をする感じで見てもらおうという感じだったので。
寺田 入り口から入ってすぐ、財部さんが担当される47都道府県のところは、ある程度きれいに順路に沿って見られる感じで。そこを経て、北陸のスペースに行くんですが、ヒラクさんから先ほどの資料と一緒に、北陸のスペースは順路をなくしてほしいって言われてたんですよ。自由に見れる、回遊できるような空間にしたいっていう要望があって、なので、あらためて図面の真ん中部分、北陸の展示のあたりを見てもらえると、ピンボールの機械のような配置になってるのわかりますか?

寺田 ピンボールで球がポンポンと跳ね返ってくるような、そんな什器の置き方にしていて。つまり、お客さんがピンボールのボールで、自由にいろんなところに行けるような形にしてみました。

藤本 わかりやすいですね。そういうヒラクの直感的な想いっていうのを僕も信用しているから、それを現実的に落としていく部分で、お二人とも本当によく頑張ってくれましたね。そして、なんと言ってもヒラクとやる以上は、スケジュールがいつも厳しい。
寺田 そうですね。
財部 ヒラクくん自体が発酵食品の取材をしてまわるのと、同時進行で展示も進めなきゃいけないので。
寺田 特に今回、北陸の発酵現場の取材が終わったのが本当にギリギリでしたし、なんなら、今みなさんが見てくれた什器の上のパネルたち。入稿したのがこの展示が始まる1週間切ってたんじゃないかな。
藤本 そう考えると、ヒカリエは初日でもまだパネル切ってたんじゃないかな。
財部 やってました。ヒカリエは初日でも陰で粛々とパネル作ってましたね。
寺田 じゃあ、まだマシだ。
財部 下手したら初日に幾つか入稿してましたもん。
藤本 ちょっとずつ醸されていく展示だとか妙な理由つけてね(笑)。
財部 なつかしい。
寺田 でも醸されていくっていったらここもそうじゃないですか? オープンの日に向けて作ってはいきますけど、わたしは福井に住んでるのでここに近いこともあって、ここに通っては、お客さんが欲しそうなものを足していったり、例えば、今日も何人か被ってくれてますけど、おにゅうくんの帽子とか、あったら良いなと思うものを追加で作ったりとか。そうやって、きっと最後が一番良くなる。

藤本 展示ってそういう生き物的な部分があるから、そういった作業が大事ですね。何回も来てくださる人もいるし。
寺田 けっこういらっしゃいますね。
財部 ありがたいですね。
藤本 今は会期的にはちょうど折り返しを過ぎたから、いよいよ会場も発酵されてきて、においも……。
財部 けっこうにおい、きつくなってきましたね(笑)。
寺田 そうですね。
藤本 そこがまた、この展示の楽しみの部分だからね。
寺田 そうなんですよ。けっこうヤバいのもあるんです。
財部 静岡の潮鰹。日に日に、においが強くなってきてるみたいです。
藤本 とにかくそうやって、コントロールできないのが発酵のおもしろさだから良いですよね。

◉なぜQRなのか?

藤本 ちょっとこの流れでメインビジュアルの話をしようと思うんですけど。冒頭にも言いましたが、僕も人のこと言えないんですけど、ヒラクは自分で自分をコントロール出来ないタイプなので、とにかくやりたい!となったら延々と取材をし続けるから、そんななかで、僕としては公式本の原稿も書いてもらわなきゃいけないし、展示のテキストも仕上げていかなきゃだしと、僕に限らず周りのスタッフはみんな焦ってくるんです。だけど、僕もふだん編集者として現場取材をするからとてもよくわかるんですけど、現場に出れば出るほどアイディアも浮かぶし、何より人との出会いがあるから、そこで盛り上がって「こういうことやろうよ!」「こんなことできたら面白いじゃん」って企画が止まらなくなる。
寺田 まさにそうでしたね。
藤本 だよね。そうやって、取材を通してどんどん新たな企画が生まれていくから、ぶっちゃけ、展覧会の開催告知のために前もって作らねばならないポスターやチラシの入稿段階では、細かなイベントの詳細とかって、おそらく何もちゃんと決まっていないだろうと最初から思ってた。それを待ってから印刷してたら、それこそ会期始まっちゃう。であれば、最新情報はすべて、この味噌樽の中!って言えるように、味噌樽のなかをQRコードにして、いつ樽のなかのQRコードを読み込んでも、その時点の最新情報をHPで見てもらえる。っていう仕組みにしたかった。という意図をお二人に伝えて、デザインしていってもらったんですよね。
財部 そうですね。
寺田 イベントはやると聞いてるのに、具体的な日程とか本当に何も決まってなかったですもんね。
藤本 まあ、今日のイベントも含めて、どんどん急に決まっていくから。とはいえその度にチラシを刷るわけにもいかない。とにかく、ヒラクは本当に仕込みが上手なんですよ。どんどんどんどん仕込んでいく。だけど、マジ仕込んだっきりなんですよね(笑)。なので、まさに味噌なのか酒なのかを仕込む樽の中にQRコードを入れてほしいという僕の要望を、今回のメインビジュアルに関しては、ちーこちゃんがスケラッコさんと連携して、うまくデザインしてくれたなと思います。
財部 思いますね。

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