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04.おじさんの多数意見より少数派な自分の気持ちを信じよう

 福岡県八女でのトークイベント後の懇親会で、大分県在住の1人の女性が、僕にこんな悩みを打ち明けてくれた。「長年地方紙の記者をやってきたけれど、もっと深く地元のことを編集していくためには、一回東京に出た方がよいんじゃないか? と、東京の編集プロダクションに就職することを決めたものの、本当にそれがよいのか迷っています」と。

 このことについて僕が正解を持っているわけじゃないから、最終的には自分で決めるしかないっしょ的なことしか言えないんだけど、ただ一つ思ったのは「一回外を見た方がよい」という誰からともなく伝え聞いているこの言葉を、僕たちはもう少し疑ってみてもいいんじゃないか? ってこと。

 人はみな真摯に語ろうとするほど、自分の体感でしかものが言えなくなるから、おじさんが若者にするアドバイスっていうのは、自分の人生の知見を伝えてくれているだけで、決してそれが正しいわけじゃない。

 「一回東京に出た方がよいんじゃないか?」という彼女の気持ちは、直接どこかのおじさんに言われたわけじゃないかもだけど、確実に言えるのは、この意見が意味するところは【一回東京に出といてよかったおじさん】が大量にいる。ってことでしかない。

 と思えばいい。

 人間なんていつまでたっても集団で間違いをおこしていく生き物なんだから、大多数の人間が言うことが正しいわけじゃないし。なんだったら、逆に疑ってかかった方がいいとすら思う。でも、おじさんたちって意外にピュアな親切心でアドバイスしてるから、礼儀は大事よ。

 彼女の場合は、僕が兵庫県に居続けて良かったとか、編集者なのに日本を出ないと決めているとか、そんなことを声を大にして言いつづけるもんだから、そういう天然記念物みたいなおじさんの意見を前にして、彼女のなかの常識が崩れてったのかもしれない。でもそれってとても大切な体験じゃないかなと思ったので、僕は福岡までやってきてよかったと本気で思った。

 人が迷う時は、いつだって困難な方に行きたいとき。
 彼女にとっては何かに頼って東京に行くよりも、地元に居続けることの方が困難で、だけどそうしたいと心の奥で強く思っていたにちがいない。

 数日後、彼女からメッセージが来た。

「東京の就職先にお断りの連絡を入れました。久々に自分で決断した気がします。自信を持つようにしてがんばります」

 うん、今度一緒に仕事しよう。

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