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もうマーケティングは要らない。いや、マジで。

もうマーケティングは要らない。いや、マジで。

そう思った、お話。


とあるメーカーさんが、お母さんたちの写真アルバムづくりを応援しようと懸命に頑張っておられて、そのプロジェクトサイトの編集執筆の依頼がきた。

そもそも担当者さんご自身がお母さんで、また産休に入られる直前ということもあってか、僕に依頼くださったメールの文章もとても熱がこもっていたので、これは誠実に応えなければと、お話を伺うことにした。

こういうご時世なのでzoomで顔合わせをし、そこでプロジェクトの意味や、現状、この先のビジョンについて担当者さんがとても丁寧に説明してくださった。実はこの、お母さんのアルバムづくり支援プロジェクトが立ち上がった当時、このメーカーさんとお仕事をしていたので、企画が立ち上がった背景と、そこから約10年経った現状について、僕自身も思うところがあり、担当者さんの、なんとか新しく立て直していきたいという気持ちが痛いほどわかった。

ここで少し説明すると、アルバムづくりにはそこに至るまでに数々の障壁があって、それらがお母さんたちからアルバムづくりを遠ざけている原因となっているのだけれど、そのなかでも最大の問題が、写真のショット数の多さ。つまりはスマホやデジカメのなかにある大量の写真データだ。

フィルムカメラの時代と違って枚数に制限なく、気軽に写真が撮れるようになることは、伴って写真プリントも増えるはずだと、かつてメーカーさんたちは期待したに違いない。しかしその結果は真逆で、写真をプリントし、アルバムにするという行為はどんどん後回しにされてしまった。

SNSで刹那に消費していく写真データたちのなかから、残しておきたい写真を選ぶだけでも、相当根気のいる作業。これはまさに苦行だ。もはや、やらねばならないという義務感でやりきるしかないという状況。だからこそ、お母さんたちのアルバムづくりを応援したい。なんとかアルバム完成までの距離を近づけてあげたい。担当者さんの切実な思いはとてもよくわかる。

しかし僕は、その担当者さんの熱い熱い思いのたけを聞きながら、実は、ずーーーーーっと違和感を感じていた。

そこで僕は担当者さんにむかってこう聞いてみた。

「そもそもアルバムってお母さんがつくらなきゃいけないものですか?」

明らかに場が凍った。やっちゃったかな、と思ったけれど、そこは僕がこの仕事を引き受けるかどうかの分水嶺であることは間違いなかった。そこは明らかにしておかないと進めない。

確かに、アルバムづくりはお母さんのもの。そう思われてきた。男女の役割分担がよいもわるいも明確だった昭和平成までの世の中はそこに対してみんなが自然と納得していたんだと思う。けれど、例えば僕の娘のアルバムは僕がつくったものと、妻がつくったものと二種類ある。アルバムづくりという、最愛の娘への、最大最高のプレゼントを、お父さんだって作りたい。そう思って僕もつくった。

そんな風に、夫婦それぞれがつくるパターンもいいし、そもそもアルバムづくりは一緒にやる方が作業がはかどるから、夫婦2人で作ってもいい。なんだったら、子供も入れて家族一緒につくったっていい。

これはどんなメーカーさんでもありがちなんだけれど、真摯にアプローチをしようとするほど、市場動向やユーザーの意見を知ろうと、マーケティング的なアプローチに頼り、結果既存ユーザーの意見ばかりを聞いて、そこに距離を置いている未知なるユーザーの声を取りこぼしてしまう。世の中でマーケティングと言われるものの多くは大抵これで、そんなもの自身の決断の説得力のための資料や、新たな計画の安心材料集めでしかない。

当たり前だけれど、人は自分が立っている場所から見る景色しか見えていない。その自覚を持つことこそが何より大事だ。この担当者さんは自身がお母さんであるという立ち位置から、お母さんのために! お母さんを助けたい! お母さんを応援したい! という気持ちが高まり、このプロジェクトのターゲットを必然的にお母さんだけに限定してしまっていた。

しかしそれは、結果としてまたしてもメーカーさん自身が「アルバムはお母さんがつくるもの」というイメージを世間に焼き付けることにつながる。

少なくとも僕はそこに加担したくなかった。担当者さん自身、お母さんたちにヒアリングをすると、みなさん「やらなきゃいけないことはわかってるんですけど、なかなか手がつけられなくて」「そのうちやろうやろうとは思うんですけど」と、どこか引け目を感じてらっしゃると話していた。だからこそアルバムづくりを応援したい! そのまっすぐな気持ちのベクトルを、「別におかあさんがつくらなくてもいいのでは?」と言ってあげることに向けることはできないのか。

担当者さんは、僕の意見をとても真摯に聞いてくださって、zoom会議の終わりに「少し時間をください」とおっしゃった。一緒に会議に参加されていた上司にあたる男性も「これは社内できちんと話し合うべき」ともおっしゃってくれた。僕はあらためて、あ〜、いいメーカーさんだなあと思った。


さて、ここからは、長年アルバム作りに向き合ってきた僕なりのアルバムづくりの秘訣を公開します。

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藤本智士(Re:S)

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ラッキーカラーはブラウン!
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編集者。1974年兵庫県在住。『Re:S』『のんびり』『なんも大学』編集長。著書に『風と土の秋田』リトルモア、『魔法をかける編集』インプレス。『アルバムのチカラ』(共著:浅田政志)赤々舎。その他、『ニッポンの嵐』『るろうにほん 熊本へ』(佐藤健)など、手掛けた書籍多数。