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地方で生きてく一つの答えのようなもの。

 台風の影響で鹿児島&宮崎の出版記念イベントが延期になってがっかりしたけれど、そのおかげで、秋田で「のんびりし〜な」というテレビ番組を一緒にやってる、カメラマンの清永くんの個展&オープニングトークに行ける! と思い立ち、慌てて新幹線に飛び乗った。

のんびりし〜な HP

 のんびりし〜なでは、清永くんより僕の方が随分年上に映るかもだけど、実際は一つしか変わんない。たしかに、雑誌とか編集とかの世界で言えば、まあ僕が先輩だったり、どうしても最初の出会いが、編集長とカメラマンという立場だから、出会い頭をずっと引きずっている感じはあるものの、実際のところ、まあ同級生みたいなもんで、なんだかんだでやっぱり同世代の仲間として助け合いたい気持ちが大きい。

清永洋「PLENUM」2017.9.5〜11.30


 そんなことで急に東京入りして一泊。翌朝関西に戻る前に、神田駅近くの喫茶店でモーニング食べてたら、またもや突然思い立ってしまった。

 あ、美里ちゃんの個展観に行けるかも……。

 この日は偶然、宮城県の松島に移住した彫刻家の友だち、佐野美里ちゃんが初めて松島で個展を開催するその初日で、あらためてHPを見てみたら13時半からオープニングトークもあるとのこと。出版記念ツアーのスケジュールがみっちりで、どうしても会期中に伺うことが叶わないと思っていた僕は、早速iPhoneで乗換案内をチェック。

 こういう衝動的な行動について、マネージャーのはっちにはよく叱られるんだけど、はっちの言う通り、案の定、体力的にしんどくなる癖に、そう思っちゃったら行かずにはいられなくて、気づけば東京駅から仙台行きのやまびこに乗車。連休初日で満員の新幹線の連結部分にしゃがみこみ、松島町役場のスーパー公務員、綾さんにこっそりメッセージ。察してくれた綾さんが松島駅まで車で迎えに来てくれて、13時25分会場着でギリギリセーフ! 突然の訪問に、まさに鳩が豆鉄砲くらった表情の美里ちゃん。

佐野美里 HP

 そんな流れで見た美里ちゃんのトークが素晴らしくて、ちょっと前置きが長くなったけど、本題はここから。

 美里ちゃんがどんな家族のもとで育ち、どんなことを経て彫刻に出会い、どうやって作品づくりをしているのかを、スライドともに丁寧に語ってくれて、初めて知る、作家佐野美里の背景に僕はとても感動したんだけど、僕が感動した一番のポイントは、実はその内容以上に、美里ちゃんがこのトークを町の人たちに向けて、一生懸命に届けようと話してたこと。

 トーク相手として出演していた千葉伸一さんは、会場の2Fにあるロマンというカフェのオーナー。僕も松島に来るたびに頼りまくるキーマンで、超絶オシャレおじさんなんだけど、妙に反骨というか、その気概をピンク色のアディダスのスニーカーの中敷にそっと忍ばせてるような人で、つまりはとても信頼できる。ちなみに千葉さんも先述の清永くんと同じで僕の一つ下。同世代にこういう人たちがいることに僕は随分救われてる。

 話が逸れちゃった。
 美里ちゃんが松島に移住したのは、この千葉さんがきっかけ。大工の棟梁をしていたお父さんが引退するから作業場が空いちゃうんだけど、どう活用すればいいだろう? と、同級生の友達に相談されていた千葉さんが、当時アトリエを探して彷徨ってた美里ちゃんとそのご家族を繋いだことから物語がはじまる。

 大きいものだと1tを超える木材を扱う美里ちゃんにとっては、大工の棟梁の作業場は広さも天井高も何もかもが理想の物件。一目見た瞬間に惚れ込んだ美里ちゃんは、興奮冷めやらないなか、わたしここに住みたいです宣言。アトリエどころか住むとまで言い出す美里ちゃんの勢いに若干引き気味のオーナー家族。しかし美里ちゃんはさらに東北芸工大時代の友だちに、できる限りDIYできる設計図面を作ってもらい、それをもって後日改めて貸して欲しいとお願い。これまたあまりのスピード感に、さすがにこれは勇み足すぎたと反省する美里ちゃんだったけれど、そこで棟梁が一言「そこまで本気なら、やるしかない!」

 そこから状況は一気に加速。体力的にも精神的にも限界を感じて引退したはずの棟梁が「俺も手伝う!」と言い出し、みるみる元気になって、作業場をリノベーションするはずが、棟梁をリノベーションしちゃったともっぱら評判に(笑)。

 松島と言えば、五大堂の風景など、島々が美しい沿岸部の風景が想像されるけれど、山間部にも多くの人が住んでいる。そちらは沿岸部と違って観光地ではないので、よそ者がやってくることはまずない。そんな土地に、彫刻家の女性が1人で移住して来たなんて事実は、ずっとそこに暮らす人たちにとって、なんだか意味不明でとても不安なことかもしれなくて、そのことを美里ちゃんは移住してからずっと、様々な場面で感じていたんだと思う。だからこそ、松島での個展のオープニングに、自分という人間がどんな風に家族の愛を受け、どんな葛藤を乗り越え、どんな思いでここ松島にやってきたかを、みなさんに伝えたかったのだと思う。

 僕はそのことに、なんだかとても感動した。

 佐野美里というよそ者の存在と、千葉さんというずっとそこに暮らしつつも外の目線をもった風と土の接点のような存在、それを裏で支える役場の綾さんのような存在。自らの感覚を信じて佐野美里を信じた棟梁とその家族。そしてそれらを支える、それぞれの友だち。

 ローカルに住む仲間がそれぞれの職能を持って、世代を超えて支え合いながら生きてく。それもこれも、わかりあえないことを前提に、わかってもらおうと行動した先に生まれる奇跡なんだと思う。

 その日のうちに関西に戻んなきゃいけなかった僕は、トーク後、またもや役場の綾さんに駅まで送ってもらってなんとかギリギリ乗車。去り際に綾さんが持たせてくれた松島のパン屋さんの惣菜パンを電車で頬張りながら、僕はローカルで生きることの魅力をも噛みしめた。


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