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博多シャイニング(博多ホッピング2) 前編

◉悪夢再び?!

博多に呼ばれた。

比喩でもなんでもない。
シンプルに「博多に来ませんか?」と声をかけてもらった。
しかし僕を博多に呼んでくれる人なんて一人しかいない。

彼の名は日野昌暢(ひのまさのぶ)。

博報堂ケトルに所属しながら、全国で泥臭い地域編集を続けるナイスガイだ。

ちなみに、下の写真で「LAS VEGAS」と書かれた暖簾の『S』の部分から顔を出しているのが日野ちゃんだ。
いいおじさんが楽しんでいる風なこの写真をあらためて見て僕は震えた。
だって彼はまさにドSの化身。

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博多への愛と熱が増幅し過ぎて、髪の毛がチリチリとパーマ然とした珍しいタイプの人間だ。いや、彼は本当に人間だろうか。

詳しくはこの記事を読んでみて欲しいけれど↓

前回の博多入りの際、オイラは彼のそのふくよかヘアの左右に二本の角を見た。つまりは鬼だ。博多愛の鬼。僕にとっては「わるいこはいねえがー?」と迫ってくる秋田のナマハゲの方がまだいくらかマシだ。
ナマハゲは四十五のおじさんの胃腸を痛めつけたりはしない。

しかし、あらためてみて欲しい。この写真を。

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灯に照らされ、デコが輝く日野ちゃんは、まさにいろんな意味でシャイニング。のれんの向こうに、きっと斧を隠してる。なにが博多ホッピングだ。博多シャイニングじゃねえか。

◉大人なアテンド?

そんなジャック日野に誘われて、また博多に行くなんて、いよいよ食われに行くようなもの。誘いのままにホイホイ博多入りするほど、オイラもバカじゃない。

しかし、

今回は日野ちゃんの誘いのトーンが違った。
前回の反省を踏まえて大人なアテンドをします」という。

……前回の反省?

え?! 日野ちゃん反省してるの!
いや、待て。言ってるのは鬼だ。そうそう簡単に信じるわけにはいかない。

だけど…

一軒目はお寿司だという。

あ~、お寿司!!! OSUSHI!この響きよ。ラーメンも焼肉もカレーもイタリアンもみんな大好きだけれど、これらの料理がどんなにがんばっても、接頭辞の「御 -お-」はつかない。「お焼肉」とも「おラーメン」とも言わないのだ。要するに「お」の称号は「寿司」の特権だ。

とにもかくにも、まず最初のアテンド先にお寿司をもってくるというのは、これは確かに反省の色と受け取っていいんじゃないか? しかもそこは、ミシュラン1ツ星の名店だという。オイラの心は揺れた。

いや、嘘。揺れてなんかない。

それを証拠に、「お」がつくのは「お寿司」だけじゃない。「お蕎麦」も「お豆腐」も「お」がつく。それなのに、イヤイヤ博多入りする感を演出しようと僕はあからさまに情報操作した。そうオイラは行きたかったんだ、博多に。だってオイラにはもはや博多への愛がある。

ここで前述の「博多ホッピング」記事で書いた自分の言葉を引用してみる。

町が好きになるってことは、誰かを連れまわしたくなる気持ちとイコールだ。つまりは連れて行きたいお店ができる、ただそれだけで、町への愛が芽生えてく。

約束の日、僕は新神戸駅から新幹線で博多に向かった。

◉ジョニーさん

新神戸から「さくら」に乗って2時間と少し。博多駅に到着したオイラは日野ちゃんの指示のままにタクシーに乗り換え、まっすぐお寿司屋さんへ向かった。

やってきたのは『すし幸徳』。

タクシーを降りると、店の前になんだかヤンチャ感漂うおじさんが一人煙草をふかしていて、どう見積もっても寿司と似つかわしくない風貌に、この人がジョニーさんだな、と確信した。

そうそう、実は今回日野ちゃんは、僕のアテンド役として、ジョニーさんという助っ人を呼んでいると言っていたのだ。

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↑右端のおじさんね。(一応言っとくけど、携帯灰皿ちゃんと持参してますすからね)

正直、上品なお寿司屋さんの構えに怯みそうになっていた僕は、目の前のスモーキングおじさんのカジュアルマジックで一気に緊張がとけた。しかもタクシーを降りた僕を見つけるなり「藤本さんですよね?」と握手を求めてくれて、普段なら、それはそれでまた別の緊張を覚えるんだけど、あまりに愛くるしい笑顔なものだから、僕は秒で「この人とは仲良くなれそう」って思った。

初対面のジョニーさんとともに、幸徳さんの暖簾をくぐると、中にはすでに日野ちゃんと、前回同様カメラマンのキヨさまこと、清永洋がカウンターで待ってくれている。

ここでさらにジョニーさんの説明をすると話が飛びすぎる気がするので、それはおいおい話すとして、まずは「すし幸徳」の寿司写真を連投。

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ちなみに今回は、カメラマンのキヨ様が「写真を撮るつもりで来てない」と宣言しやがったから、この寿司写真は全部僕のiPhone写真だ。それでも美味しそうに見えるんだから、幸徳さんの寿司のポテンシャルの高さがわかるというものだ。

◉鮨と道具

日野ちゃんが自信を持ってアテンドしてくれただけあって、幸徳さんの寿司はすばらしく美味かった。握りひとつひとつをじっくり噛み締めながら僕は、シャリが共に赤酢(酒粕を醸造してつくられたお酢)を使っているからか、富山の名店『鮨人』を思い出していた。

『鮨人』の大将、木村泉美さんのお寿司を7、8年前にいただいたとき、木村さんは「美意識」という言葉を何度も使ってお店のことを話してくれた。

お客さんは寿司にお金をはらってくれるんじゃなくて、寿司にこめられた僕の美意識にお金をはらってくださる。
だから実は本名は「木村泉」なんだけど、名刺には「美」を足して「木村泉美」としているんです。

それを聞いた僕は当時めちゃめちゃ感動して、自分の仕事についても深く考えた。『すし幸徳』の大将、森下幸徳さんにも、同じ種類のこだわりを感じたのだ。

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ちなみに、大将の森下幸徳さんは、日野ちゃんの高校の後輩だったことが、今回話しているうちにわかった。みんな若いのにすごい。45歳のおじさんたちの背筋が伸びる。

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自然栽培のササニシキを使ったシャリが、なんだかとても不思議な入れ物から出てくるのが気になって聞いてみると「わらいずみ」という、電気のない時代の保温窯で、岐阜の職人さんがつくっているとのこと。ちなみに依頼してから、三年以上待ってようやく手に入れたそうだ。

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シャリの温度を徐々に下げて、程よく水分を吸収するわらいずみ。ひとつひとつ手作りされたその姿がとても美しく、しかもその中から、秋田の曲げわっぱのおひつが出てきた。

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良い寿司屋は道具を見ているだけでも楽しい。曲げわっぱだけでなく、秋田樺細工の茶さじが使われていたり、各地の伝統工芸やその技術が目に入る。

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なかでもこの木製冷蔵庫の存在感の強さ。こういった木製冷蔵庫の職人さんも数少なくなっているという。ここから、じっくり寝かし仕込まれたネタが出てくるたびに、次はどんな鮨が握られるんだろう? とワクワクする。

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と、ここで気づいた人もいるだろう。握られた鮨の写真以降、店内の写真は僕のiPhone写真じゃない。キヨ様が撮影した。なんだかんだ言ってカメラ持ってきてるキヨ様が、たまらずカメラを出してきた。そうだよ。無理すんなよ、キヨ様。オイラも仕事できてないけれど、こうやって書きたくなるし、キヨ様も撮りたくなる。それが大人の粋な遊びだよ。

日野ちゃんがお会計を済ませてくれるあいだ、目に入ったのが壁にかけられたこの書。

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僕はこれ見よがしに、キヨ様にこう言った。「これ、キヨ様のための言葉やん」

一旬 いましかない

その一瞬は、その瞬間にしか撮れない。これほどカメラマンに撮って緊張感のある言葉はない。

額装された書を守るガラスに、「結局今回も撮る流れかよ…」と、奥歯を噛むキヨ様の姿が写っている。

◉風呂兄

とにかく最高のランチだった。

ゆっくり丁寧に出される鮨を、じっくりいただく時間はとても贅沢で、博多ホッピング冒頭にしてもう何も食べたくない。いや、食べてやるものか。とさえ思った。

すると、な、なんと、胃袋強制拡張おじさんこと日野ちゃんが、「次は風呂に浸かりましょう」という。

神かよ!

お、おと、おとなのアテンドだ!!!

そうなんだよ。いままさにオイラはこのまま銭湯でも行ってサウナ決めたら最高だなあと思っていた。日野ちゃん、心読めるんですか? 超能力者なの? DaiGoなの?(メンタリストのほう)

そして日野ちゃん「ここからがジョニーさんの本領発揮です」と言う。

おっとそうだった。ただのご機嫌おじさんかと思っていたけど、ジョニーさんにアテンド役をと言ってたのは、そういうことか! ジョニーさんは福岡のファッション業界で知らない人はいない名うてのバイヤーで、アパレルショップ以外に、飲食店もプロデュースするなど、福岡のイケてるおじさんの代表なんだけれど、そんなジョニーさんがいま一押しなのが、お風呂文化だという。日野ちゃんいわくジョニーさんは「風呂兄(ふろにい)」とも呼ばれているらしい。

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そんなジョニーさんが連れてきてくれたのは、長尾湯。

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構えからして、もう最高だ。

ジョニーさんが言うには、銭湯文化が最も充実しているのは関西だという。特に西式健康法に代表される、温冷浴の本場はなんと言っても関西だと。そう思うと福岡でしっかり温冷浴が楽しめるところは、そんなに多くないけれど、数少ないなかでもここ長尾湯はジョニーさんにとって一番の風呂だという。

サウナ好きの僕としては、温冷交互浴こそ、僕の唯一の楽しみであり、且つ、日々の健康をキープする最高の相棒だ。すし幸徳の前で握手した瞬間にわかりあえた気がしたあの気持ちは、きっと温冷の御礼を持つ者どうしのフォースの交互交換だったのだ。

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見ての通りだ。最高に整った。

サウナの室温は90度ながら湿度は高く、すぐにしっかり汗をかく。そして温冷浴に欠かせない水風呂の温度が12度!!! 最高だ! 通常は18度くらいが多いが、僕の常サウナ『神戸サウナ』の水風呂は11.7度。ほぼ同等の水温! 最高にキマる。そのまま上の写真のように休憩スペースで天井にあるシーリングファンの風を浴びれば一気に全身にあまみ(血流によって皮膚に浮き上がる赤い斑点)が広がり、脳内にキラキラと星たちが輝く。

至福。

おじさんたちにしかわからないであろうこの悦び。
ジョニーさん、日野ちゃん、ありがとう。

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と、休憩室にとても気になるポスターが貼ってあった。この人どこかでみたことあるぞ……。

あ!

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ラッキーカラーはブラウン!
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編集者。1974年兵庫県在住。『Re:S』『のんびり』編集長。著書に『風と土の秋田』『ほんとうのニッポンに出会う旅』共にリトルモア、『魔法をかける編集』インプレス。『ニッポンの嵐』『るろうにほん 熊本へ』など手掛けた書籍多数。
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