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名刺を持たないようにした。

 一年前くらいから「そろそろまた名刺追加発注しなきゃなあ〜」なんて思いつつ、忙しさにかまけて先送りにしてたら、いよいよ名刺の残りが0になり、さすがに「あ、やべ!」と思って探しまわったら、引き出しの奥にぺろっと2枚だけ出てきて、とりあえずこの2枚でなんとか乗り切るかと思って、もう半年以上経つ。

 このまま僕はしばらく名刺を持たないことにしようと思う。

 というのも、いまのところ名刺を持っていないことで起こる不具合はないし、それどころかメリットばかり感じている。だから今回はそのことをシェアする。


 20代で起業したての頃は、名刺を持つこと自体が嬉しくて、つくることにも渡すことにも、なんだか心躍ったけれど、そんな無邪気なトキメキはとっくに消えて、僕が名刺を作る理由はいつしか、名刺交換という儀式において、名刺を持っていないことが失礼だからという、礼儀や常識をベースとした、ただの慣習になってしまっていた。

 これ、ぼく、いっちゃん好きじゃないやつだ。

 名刺交換そのものがなんか虚無の時間っていうか、ドライブ前に立ち寄るガソリンスタンドみたいな、面倒だけどやらなきゃ進まないみたいな、そんな時間になっていることは、とうの昔に気づいていた。

 それこそ最近はスマホアプリの『Eight』を使って、名刺をデータ変換させたら、名刺そのものはすぐに処分させていただくことが多い。だったら初めから、データで交換できればいいのになと思って(Eightユーザー同士だとそういうサービスもはじまったね)、2〜3年前からデジタル名刺を常にスマホケースに挟んでいる。

 相手が若い人のときには、これをスマホにかざして僕のSNSデータなどを一気にスマホに送ったりしてたけど、でもまあなんというか、名刺交換というあの時間においては、それもなんか違うなあとも感じていた。

 名刺交換はよいもわるいも儀式だから、どちらかというと、互いにマナーを見せ合う姿にこそ意味があるのだろう。それがただのデータ交換に終わってしまうと、なんか「効率」とか「生産性」とか、僕が最もすきじゃない言葉を口にするような人間に思われる気がして、そういうのがいやでもあった。古い慣習=悪しきものというシンプル構造でキラキラと攻め込んでくるZ世代に汲み入ったおじさんみたいに思われるのも癪だし。

 とにかく、いいもわるいも慣習化したものにはきっと、現在の僕には感じ取れない何かしらの良さがあるんだろうし、その容れ物を自分の目線だけで無闇に壊すことなく、僕自身のふるまいをこそ変化させることについて考えたいと思いながら、これまでうまくその答えを出せずにいた。

 それが、タイトルのような思いをはっきり公言しようと思ったのは、Re:Sの編集者で僕のマネージャーでもある、はっち(山口はるか)のとあるアクシデントがきっかけだった。

 そもそも僕が名刺を持たないのは勝手だけれど、はっちはその立場上、そうもいかないというか、年齢的にも若手になることもまだまだ多く、初対面の方に会うときは名刺入れをちゃんと持ってきたかどうかを気にしていた。しかし先日、とある会社の役員会の場所で、あろうことか、はっちが名刺入れを忘れてきてしまった。でもまあそんなことは誰にでもよくあること。「忘れてしまいました」と申し訳なさそうにメッセージしてきたはっちに「大丈夫」と即答した。「いま、Re:Sは極力ゴミを出さないように、名刺を持たないチャレンジ期間中ということにしよう」と。

 逆に僕は、冒頭に書いた、万が一のための2枚だけの名刺を持参していたのだけれど、それすらも出さないようにすると伝えた。そしてその日実際に、初対面の方たちが当然のごとく名刺交換をしようとしてくれた際に、「いま我々、名刺持たないキャンペーン中で」と言って、さらに「そのかわりというのもなんですが、帰ったらすぐにメール送らせていただきますね」と伝えたら、やっぱりみなさんとても好反応で、誰一人顔を曇らせるようなかたはいらっしゃらなかった。

 というのも僕は実際にこの半年間、まさにこの感じで名刺交換時間を乗り切ってきていた。というか、これが最適解だという実感を得ていた。いちばんエコなエコバッグはすでに家にあるカバンであるように、17色のSDGsロゴを刷った名刺よりも、ごみを出さないことに対する説得力も大きいし、Eightでスキャンすればアドレスを打たなくてもすぐにメールが送れるから、そこで今日お会いしたことのお礼の気持ちを送ると、大抵1、2ラリーやりとりが生まれたりして、そこでよっぽど人間的なお付き合いができる。ノズルを差して満タンになるのを待つセルフ給油的虚無ではなく、「窓お拭きしますか?」「はいお願いします」から生まれるコミュニケーション価値みたいなものが、名刺を持たないからこそ見事に爆上がりするのだ。

 今回名刺を受け取らせてもらった某役員さんも、メールの返信に「名刺レスも、電子名刺でもなく、きっかけづくりとしても素敵です。営業会議などでも話題にします!」とまで書いてくれたりして、最高だ。なので僕はいよいよ名刺を持たないことを、Re:S=Re:Standard、うちの会社の新しいふつうにしようと思った。

 名刺交換という場自体は受け入れ、当然、相手が名刺を持つことを否定することなく、自分たちをメッセージするという意味では、いまのところ最高の選択じゃないかと思っている。

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