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「資金」より「資菌」。

 大竹しのぶさんの演技を生で観てみたくて去年、松竹座の舞台を観に行った。そこに出ていたのが向井康二くんで、その結果僕は彼が所属しているグループ、SnowManのファンクラブに入会するほどのファンになった。

 とまあ、四十五のおじさんがジャニーズのファンクラブに入った話はどうでもいいんだけど、

 今月デビューを控える彼らは年末年始さまざまなメディア露出が増えていて、いま発売の雑誌AERAにも登場。掲載されたインタビューが読みたくて久しぶりにAERAを買った。

 で、その巻頭特集が「耐性菌から家族を守る」というもので、気になって読んでみた。

 要は、風邪の治療などで安易に抗菌薬を処方してもらっていると、抗生物質が効かなくなる耐性菌が幅を利かせて、場合によっては死を招くよ、という、なるほど確かにそりゃそうかという話。

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 昨年アートディレクションさせてもらった『発酵ツーリズム』展以降、「菌」や「発酵」といった言葉に敏感になっている僕は、抗菌という言葉の功罪について考える。

 抗菌における「菌」は、=「わるもの」なんだろうけれど、決して「菌」そのものがわるいわけではない。バイキンマンだって意外にいいやつなように、腸内環境を整えてくれる様々な乳酸菌みたく、いいやつだっていっぱいる。しかしその「いい」「わるい」は、人間にとって有益か有害かという「菌」のみなさんにとっては随分身勝手な線引きだ。

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 ちなみに「ばいきんまん」の「ばいきん」における「ばい」ってなに? と気になったのでググってみたら「ばい」とは、「黴(かび」のことらしい。「梅雨」も、もともと「黴雨」と書いていたというから、なるほどだ。

 とにかく当たり前だけど「菌」は共存していくもので、排除していくものではない。けれどいまだにテレビCMほかで垂れ流され続ける抗菌の2文字に、ピュアで無垢で無思考(最後辛辣)な視聴者は「菌」を退治したい気持ちになっていくんだと思う。

 風邪やインフルエンザに抗生物質は効果がない。というか抗生物質はウイルスをやっつけるわけではないのに、処方を望む患者さんが多いのもその証拠だ。

 だから僕は、全国にいる醸造家や心あるパン職人さんたちが、目に見えない「菌」とともに生きているその多様な営みに、いつも感動する。

 なかでも、昨年、61歳という若さでお亡くなりになってしまった秋田の浅舞酒造の森谷杜氏には様々な気づきをいただいた。

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 森谷さんに会いたくて蔵にお邪魔させてもらうと、森谷さんはよく、蔵人のみなさんが食事をとるテーブルでお手製のまかない料理をご馳走してくれた。その美味しさと同時に、僕が強く感じたのは、ここで蔵人たちが一緒に食事をとるのは菌の交換と共有なんじゃないか、ということ。

 酒造りを共にするということは、蔵人それぞれが持っている目に見えない「菌」を信頼することで、それはすなわち目の前の人を信頼することと同義だ。

 そしてそれは、大袈裟かもしれないけれど、生きていくチカラそのものだと僕は思った。

 高度経済成長を経て、僕たちの親父世代はこぞってコミュニケーションを排除させていった。まるで菌を死滅させるかのように。

 家族や地域といったコミュニティを分断し、よりパーソナルなものに整理していくことは画一した小さな単位として管理コントロールしやすいのかもしれないけれど、街場で生きる僕たちは本当にそれが幸福なのだろうか。

 薬用石鹸的に無思考なまま菌を排除していくことは、人間そのものが持つ耐性力を排除していくようなものだ。菌の交換をすることで、互いに耐性を高めていく、そのベースとなるはずのコミュニケーションを排除することは、生きるチカラを弱めていくことなんじゃないかと本気で思う。

 菌は英語でfungusという。資本主義社会において欠かせない「資金」はfund。同じ愉しみ(fun)を持つこれらの言葉からすれば、僕らにとっていよいよ必要なものは資金ではなく「資菌」だ

 そんな資菌を稼ぐコツは、限られた資源や資産を囲い込むことではなくて、シェアしていくことだと僕は考える。積極的にシェアすることで資菌を貯めた人が、経済的な冬の時代を乗り越えていくと信じている。

 そう思えばファンクラブもその一つかもしれない。ファンクラブのファン(FAN)は、熱狂者という意味のFANATICの短縮系だけれど、楽しみながら菌を交換共有する仲間としてFUN(GUS) CLUBの方がよいように思う。

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 そんなことを考えるきっかけをくれた浅舞酒造の森谷杜氏には追悼の念とともに、あらためて感謝を伝えたい思いでいっぱいだ。僕は森谷さんから本当に多くのものをいただいた。

 あ、そう言えば、森谷さんのフルネームは…

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