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カオスな棚の秘密

栞日

 朝一番の飛行機で神戸から松本へ。搭乗時間たった1時間で飛んで来れちゃうんだからFDAありがたい。松本空港から松本駅までバスで移動したあとは、いつものようにまっすぐ『栞日』へ。

朝7時から開いているブックカフェ。松本の朝は大抵ここで過ごす。

 店に入るなり、店主の菊地くんが「おー どうしたんですか? 打合せ?」と一言。旅する編集者として、長く日本中をふらふらしていると、大抵の土地にこうやって居場所があることがとても幸福。
 はちみつバタートーストと栞日ブレンドを頼み、信濃毎日新聞を読みながら、つくづく僕は全国の友だちに支えられているなと思う。

 しばらくゆったりさせてもらっていたら、松本の大切な友人の一人、藤原印刷のお兄ちゃんこと、藤原隆充くんがきてくれた。実は今回、藤原くんが車を出してくれて長野のいろいろを案内してくれることになっていた。早速お会計を済ませ、一番最初にむかってくれたのは、東御市にある『わざマート』だった。

わざマート

 山の上のパン屋として有名な『わざわざ』の平田はる香が、あたらしくはじめた新業態の店舗で、一言でいえば、良心に満ちたコンビニ。都会にある生鮮ベースのオーガニックスーパーではなく、地方のコンビニ的な展開に僕はとてもワクワクした。

 本来、食に対するポテンシャルが高い田舎ほど、都会的利便性を優先しがちだ。その食品の安全性や生産者の哲学は二の次どころか、まったく無頓着だったりすることも多いから、コンビニ的既視感のある棚に、良心的な食品たちが並ぶ姿は、僕にとってとても魅力的にうつった。

 藤原くんが、事前に平田はる香に声をかけてくれていたようで、スタッフさんが、わざマートに併設予定の『よき生活研究所』のスペースを案内してくれた。

 まだまだ工事中ゆえ、余計に想像ができなかったけど、スタッフさんも平田はる香の頭の中にまだまだついていけてない様子で、それがまた平田はる香らしくて最高だなと思う。

 スタッフさんの説明から僕が想像したのは、暮しの手帖の商品テスト的ニュアンスと、岡山県西粟倉の『ようび』さんのような、家具をじっくり体感できるショールーム的ニュアンス、さらに『喫茶ランドリー』的な地元のみなさんの日常使いニュアンス。その3つが渦を巻いてカオスになった場所。つまりはまあ、やっぱり僕の頭では意味わかんなくて、でもその不確実性にときめいた。
 桃鉄で言うなら、完全に「ぶっとびカード」だ。

お土産にスコーン買って帰る

 そう言えば、わくわくとわざわざは似てるな。

VALUE BOOKS

 東御市を出て、上田市に移動。目的は『VALUE BOOKS』。古本買取&販売でお馴染みのバリューブックスは、オンラインがメインながら、上田市内に『NABO(ねいぼ)』という実店舗も運営されている。8年くらい前に偶然訪れた際、昔僕がつくっていた『Re:S』という雑誌をまるで新刊のように扱ってくれているのを見つけて感動したことを覚えている。

 と思って、サイトをのぞいてみたら、現サイトの写真にも『Re:S』が写っててなんか嬉しい。

 僕はこのところずっと、出版のあらたな仕組みについて考えていて、そこにおいて古本というものがとても重要な鍵を握っているゆえ、そのことを直接相談してみたいと、藤原くんに頼んで、バリューブックスの編集者、飯田光平くんと会うアポをとっていた。ちなみに僕が飯田くんのことを知ったのは3年ほど前に読んだこの記事だ。本を愛する人にはぜひ読んでほしい。

 そんな飯田くんが予約をとってくれた、上田の有名なお蕎麦屋さん『くろつぼ』で待ち合わせ。

これまた長野の友人で、ジモコロ編集長、徳谷柿次郎とも合流
鴨つけそば美味かった〜

 美味しいお蕎麦を食べながら、みんなの話題は長野の風土に。上田を拠点にする飯田くんと、松本の印刷屋の藤原くん、長野市内に拠点をもつ柿次郎、それぞれがそれぞれの町を冗談混じりにディスりあうプロレスは、互いへのリスペクトが漏れちゃってて最高に愛に溢れてる。なんだかんだで、ONE NAGANOだな、とよそ者の僕はあらためて思う。

念願の倉庫へ

 ランチを終え、飯田くんの車を追いかけやってきたのは、市内に三つもあるというバリューブックスの倉庫。大きな建物の屋上に車を停めるこの感じ、もしや……と思って聞いてみたら、元ホームセンターだという。

 さて、ここからが今日の本題。

 バリューブックスには、毎日、二万冊の古書が送られてくる。

 届いた古書を段ボールから取り出し、ISBNコード(ってなに? という方はコチラの記事を)を読み込むことで査定額を算出。さらに一冊一冊、ページをめくって目視したものが、総数なんと120万冊という在庫となって保管される。そして注文を受けたものから、日々新たな持ち主のもとへと旅立っていく。

 今回、飯田くんに倉庫を案内してもらって得た気付きはとても多く、本に携わるものとしてとても胸に迫るものがあった。しかしそれについては、先に紹介した飯田くんのレポート記事「本が命を終える時」に、よっぽど丁寧に代弁されているので、ここでは書かない。

どうしても古紙回収にまわってしまう本たち

 なのでここでは、かなり独特な気づきについて書いてみる。

 それは在庫の整理方法に関すること。もう少し丁寧に言うと、本棚に収められる本の並べ方のはなしだ。たとえばみなさんは、この写真を見て、どんなことを感じるだろうか?

 何十万冊という、都会の大型書店並の在庫が収められたバリューブックスの棚には、毎日一万部もの買取書籍が加えられ、一方それと同じくらいの数の書籍があたらしい持ち主のもとへと旅立っていく。いったいどのような在庫管理をすれば、そんなに効率的に本が循環するのか? その答えが、この写真にある。

 バリューブックスの書棚は、図書館や大型書店のそれとは、明らかにちがっている。さて、その違いとは何か?

 それは、分類されていないということだ。

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