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新型コロナウイルスのおかげで

 新型コロナウイルスとの付き合いも半年を過ぎ、単純な気の緩みというより、カッコよく言えば「共存していく覚悟」、素直に言えば「諦め」のようなものを感じ始めている。すると不思議なもので、ただただ恐ろしく感じていたばかりの新型コロナウイルスがもたらしてくれた恩恵をも実感する場面が増えてきた。

 ちなみに昨日までの5日間、秋田で動画撮影を行っていたのだけれど、そこでもコロナのおかげで、こんな風に作品制作をすすめることができるのかと、知れたことがあったので、まずはそのことについて書いてみる。

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 毎年10月に開催している「いちじくいち」というマルシェイベントがある。本当なら5年目となる今年の実施を諦めることにした僕たちは、リアル開催の代わりにオンラインで何かしら企画しようと考えていた。そこで、そもそも「いちじくいち」はなんのために始めたのか? ということをあらためて考えた。

 ちなみに、この「あらためて考えてみる」という場面をたくさん与えてくれたのも、新型コロナウイルスのおかげだなあと思う。

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 北限のいちじくと言われる秋田県にかほ市のいちじく。糖度が低く小ぶりな、そのいちじくを甘露煮にして保存し、一年を通して食すのが、にかほの、秋田のいちじく文化だ。その独特ないちじく文化を背景に、北限のいちじくを軸としたマルシェイベントを編集。それをきっかけに、美味しいいちじくを育む、にかほの風土を体感して帰ってもらうことが、「いちじくいち」の何よりの目的だった

 そこでいちじくの生産風景や、甘露煮づくりの工程をまんなかに、鳥海山や日本海、その他、伝承芸能や豊かな食など、にかほの魅力的なコンテンツをたくさん詰め込んだ動画を作成し、いちじくいち開催の代わりにオンラインで発表しようと考えた。

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 楽曲は数々のCM曲を手掛け、ミュージシャンとして多岐にわたって活躍する盟友、早瀬直久(べべチオ)くんが作詞作曲してくれた。そしてその曲にあわせた振付を、ゆずやサカナクションなどのMVの振付を担当&出演したり、NHKのシャキーン!などにも出演する、ダンスパフォーマーで、これまた古い友人のホナガヨウコに依頼した。

 限られた予算のなかでのオファーに申し訳ない気持ちだったのだけれど、ホナガヨウコにいたっては、振付だけでなく、映像の監督までやりたいと言ってくれて、ならばと僕は秋田県能代市出身の映像クリエイター、くしまかずゆき君に撮影をオファーして、自分なりに最高の布陣を固めた。

 そうしていよいよ5日間に渡る秋田県にかほ市での撮影がスタートしたのだけれど、新型コロナウイルスの影響で、東京在住のホナガヨウコをどうしても現地に呼ぶことができなかった。今回の動画は、いわゆる全力ダンス動画ではないのだけれど、それでも映像にPOPな花を咲かせたいなあと、ホナガヨウコが簡単な動きを考えてくれて、出演いただく市民のみなさんにも、身体を動かしてもらうことになっていた。だから、ホナ(僕は、そう呼んでいる)が現場にいないのは、かなりの痛手。しかしこればかりは仕方がない。

 そこで、現場でホナに代わって振付指導ができるように、現地スタッフのためだけに基本的な身体の使い方を知る、事前ワークショップをZoomで開催してもらい、その後、市民の方に参加いただくワークショップを同じくZoomを使って実施した、その上で本番に臨んだ。

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 ホナが丁寧に絵コンテと映像コンテを作成してくれたおかげで、基本的には、現場チームもイメージを共有しつつ撮影を進めることができたのだけど、現場というのは想定外の宝庫だ。急遽、体調不良で来れない人が出たり、環境がロケハン時から変化しているなど、現場スタッフが困惑するような様々が次から次へと現れる。しかしその度にホナとLINEをつなぎ、テスト撮影した動画を東京からリアルタイムにチェックしてもらうことで、臨機応変に微調整し、なんとか予定通りに撮影を完了することができた。

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 LINEとzoomをフル活用して監督がオンラインで現場に指示をとばしながら撮影を進めるという、これまでにはあり得なかった状況ながら、かえってそのコミュニケーションの難しさが、よりわかりやすい言葉選びと、現場にいればいちいち言葉にしないだろう互いの思いの言語化につながり、撮影は驚くほどスピーディーだった。

 「現場チームとして大事にしたいこと」「ホナとして譲れないポイント」が現場でどんどんクリアになることで、普段の撮影なら、カメラマンと監督の間でブラックボックスになってしまいがちな、OKとNGとの微妙な境界線をも、現場の若いスタッフを含めたみんなで共有できたことの意味はとても大きい。

 これはオンラインでの遠隔ディレクションのお陰だし、元を辿れば、新型コロナウイルスのおかげだと強く思った。

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 もう一つ、新型コロナウイルスのおかげだなあと感じた、最近の出来事についても書いてみる。

 7月からスタートした編集を学び合うオンラインスクール的サロン「Re:School」。このサロンを始めるにあたって僕が大切にしたのは「学び合い」。ファンクラブにも、カルチャーセンター的な教室にもしたくなかった僕は、メンバー全員がフラットな立場で互いに学び合う場作りを意識している。そのためにまず最初にやったことが、70名いるメンバー全員による一人語りラジオ。

 そのことは以前書いたので詳しく触れないが、互いのラジオを聞き合ったメンバーのコメントが活発になっていくにつれて、「◯◯さんと◎◎さんに、□□をテーマに話して欲しい!」といったようなコメントが増え、ならば、そういう対談イベントを毎週企画しよう。と、グーグルカレンダーを共有することにした。すると、瞬く間に11月頭までイベントスケジュールが見事に埋まった。

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 ちなみにこれまで開催されたイベントを、タイトルのみ一部紹介するとこんな感じ。

「居場所を育てる」
「聴くことで広がる世界」
「偏愛!伝統・郷土食」
「まちに本屋があること。」
「地域社会へ はじめの一歩と続け方」
など。

 この魅力的なタイトルはもちろん、話し手や聞き手のディレクション、内容などすべて、メンバー自らが企画編集したオンラインイベントが毎週行われている。僕は心底、オンラインサロンを始めてよかった!!! と感動しながらメンバーのイベントを楽しんでいる。

 そして先日、こんなタイトルのイベントが開催された。

『おっちゃんの趣味狩猟とマタギってなにが違うんだろう?』

 秋田にいまも残るマタギに憧れて、この春から北秋田市の地域おこし協力隊となった山田健太郎くんと、最近、罠猟の免許を取ったという、群言堂の広報担当の『三浦編集長』こと三浦類くんの実体験をベースに、タイトルのとおり、マタギと趣味狩猟のおじさんとはいったい何が違うのか? について話す企画だ。以下は進行役の加藤千晴さんが書いた告知文↓

協力隊として秋田へ飛び込んだ山田健太郎さん。
マタギと一緒に山へ分け入り、自分より多くのことを自然から感じ取っている様子を目の当たりにします。
一方で、ある疑問が・・・
・ふつうのおじさんとほとんど変わらない気がするなあ・・・
・獲物を「授かる」と話しているけれど、なんか言葉が仰々しい気がする・・・
行動を共にする中で、「マタギと猟師は違うのか?」という問いに辿りつきました。
今回はこの問いをみんなで深ぼっていきたいと考えています!
ぜひ、一緒に考えてもらえるとうれしいです!
~マタギ見習いと考える、ちょっと先の未来~
マタギ見習いとして活動する山田さんのお話を聞きながら、自然と人との関係性や、集団の中での人の関係性のあり方や富の分配など、現代を生きるヒントを見つけていけたらいいなあという壮大な企画です。


 そもそもマタギってなんだ? という方も多いと思う。マタギとは、北海道や秋田などの山岳地帯でクマ狩りをする狩猟集団で、狩猟を専業としてきた人たちのことを言う。しかし現代ではもちろん狩猟だけで食べていけるはずもなく、現代に残るマタギはある意味、副業的になっている。僕も、秋田のとある村最後のマタギと言われた方にインタビューさせていただり、自分自身もマタギ体験するべく一緒に山に入らせていただいたことがあるので、今回の企画に関しては、僕なりの回答というものを持ち合わせた上でイベントを拝見していた。

 ちなみに僕なりの回答とはこうだ。マタギが趣味狩猟と違う点は二つ。「授かる」という意識と「マタギ勘定」

 熊を仕留めるギリギリまでは、なんとしてでも仕留めるぞ! という強い気持ちで熊を追い立てていくのだが、見事に仕留めたその瞬間から、不思議なことに仕留めた!という思いが消えて、「授かった!」という気持ちになるのだという。だからこそ、仕留めた人が英雄になることなく、下から追い込む役割の人たちも含めた大人数の仲間たち全員が、均等にその分け前をいただく。その慣習を「マタギ勘定」と言う。

 授かる。つまり、神様からのギフトを、マタギ勘定をもってシェアする。これはマルセルモースの『贈与論』や、レヴィストロースの『野生の思考』につながる、人類の大いなる知恵だ。その精神を守り続けているのがマタギなのだと僕は取材を終えてそう思っていた。それが僕の回答だった。

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 Zoomのウェビナー機能を活用したこの一連のイベントは、イベント終了後に、視聴メンバー全員をパネリストに昇格させて、引き続きみんなで感想や意見を言い合ったりするのが恒例となっている。北は北海道から南は沖縄、遠くはデンマークまで。さまざまな土地から、さまざまな世代、さまざまな職業のメンバーがいるRe:Schoolゆえ、ウェビナーイベントは、そこからが本番と言ってもいいくらい面白い。

 その気づきは、本番後のみんなとのセッション時に突然訪れた。

 話し手の一人だった山田健太郎くんが、人間が生きるために他の生き物の命をいただいているという意識を持ったことが、マタギへの興味につながったという話をしてくれたことを受けて、そう言えばメンバーの山中さんという女性が、保健所の職員として、食肉のと畜検査などを担当していたことを思い出した僕は、山中さんに感想を聞いてみた。山中さんは保健所の職員として、健太郎くんのその言葉がとても嬉しいと話してくれて、そこからみんなの思考が、マタギや狩猟を超えて、食べること、生きること、命をいただくこへと深く深く入り込んでいった。

 そんなとき、ずっと黙って聞いていた20代メンバーの美優ちゃんという子が、こんなことを言い出した。

「わたし、最近、口内炎が二つも出来てしまって…」

 ん? いったいなんの話? みんなそう思ったに違いない。しかし、美優ちゃんはマイペースながら、その分、しっかりと自分の中で思考を深めていける、とても稀有な女の子だということをメンバーのみんなも知っていたので、何を言い出すんだろう? という思いとともに、何かを期待していたようにも思う。そして彼女はこう続ける。

「それで、口内炎にはビタミンB2が豊富な豚肉がいいよ、って言われて、最近豚肉ばっかり食べてたんですけど」

 美優ちゃんはゆったりした口調でさらに言った。

「わたし、豚肉をサプリメントみたいに栄養として食べてしまってたことに気づきました」

 !

 僕はもうハッとするどころか、思いっきり顔面をどつかれたような衝撃を受けた。たしかに。やれ内臓脂肪を減らすにはほうれん草がいいだとか、イワシにはカルシウムと、そのカルシウムの吸収を助けるビタミンDの両方が含まれているから食べた方がいいとか、まさに僕たちは自分たち目線でただただ栄養として生き物を食べたりしてはいまいか? と、20代の美優ちゃんに、とんでもない気づきをもらった。

 コロナ禍にサロンを始めて、いろんな土地のいろんな世代の人たちとこうやってオンラインで顔を合わせ、さまざまな意見を聴けるようになったことに、僕はあらためて感謝の気持ちでいっぱいになった。

 そしてさらに、もう一人、同じく20代の福井くんという男の子がこんな話をしてくれた。

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新型コロナウイルスのおかげで

藤本智士(Re:S)

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編集者。1974年兵庫県在住。『Re:S』『のんびり』編集長。著書に『風と土の秋田』リトルモア、『魔法をかける編集』インプレス。『アルバムのチカラ』(共著:浅田政志)赤々舎。その他、『ニッポンの嵐』『るろうにほん 熊本へ』(佐藤健)など、手掛けた書籍多数。

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2006年に創刊した雑誌「Re:S(りす)」編集長の藤本智士が、いまあらためてお届けする、あたらしい“ふつう”のnote「Re:S」。 日々のこと。旅のこと。地方のこと。編集のこと。 記事アップは月4回以上かなぁ。

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