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直帰力。それは家で寝るチカラ。

久しぶりに訪れた群馬県高崎市。僕にとって高崎と言えばREBEL BOOKSがある街だ。4年前にトークさせてもらって以来、店主の荻原(おぎわら)くんは僕にとって大切な友人で、何より僕は彼のたおやかな所作と声がたまらなく大好きで、こういう店主のお店が近所に欲しいなあといつも思う。

10坪もないであろう小さな書店ながら、閉じたセレクトではないポップさと、物事の深淵をも感じる棚づくりに毎回驚かされる。訪れる度に「ちょうどこれ読みたかったんだよなぁ」という本が自然と目についてきて、旅中の僕はいつも困ってしまう。泣く泣く3冊くらいだけ選んで本を買おうとするのだけど。結果、今回も旅の序盤なのに6冊も買ってしまってた。

こんなにも気持ちよく本が流れているということは、本好きの良いお客さんがいる証拠だから、あぁここ(高崎)はいい街だなあと思う。少しばかり源流に近い川の中流域のようだ、と自分だけがわかる喩えに悦に入る。

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前置きが長くなってしまった。とにかくそんな素敵な書店、REBEL BOOKSの荻原くんに誘われて、僕は2年ぶりの高崎にやってきた。荻原くんがディレクターの1人を務める「湯けむりフォーラム」という群馬県のプロジェクトの一環で、ソトコトの指出さんと、ジモコロの柿次郎と鼎談をして欲しいという依頼だった。指出さんにお会いするのも3年以上ぶりな気がするし、柿次郎は逆によく会っているものの、その分、安心感もある。だから単純に楽しそうだなと思ったのだけれど、しかし何より僕は、荻原くんのお誘いだから即引き受けた。

鼎談の模様は 湯けむりフォーラム のサイトでいずれUPされるようなので、ここでその内容は書かないけれど、そりゃあ楽しかったよね。何より久しぶりにお会いした指出さんが、先輩ながら進行役になってくださったことで、ある種のライブ編集が出来ていて、とても見やすい動画になっているんじゃないかと思う。さすがだった。おそらくほぼNO編集で公開出来るんじゃないだろうか。

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さて、コロナ感染が落ち着いてくれたこともあって、こうやって高崎の街にやって来れたわけで、ならば本番同様、その後の打ち上げも楽しみな僕は、後輩の柿次郎に「今日は帰るの?」なんてさらりと聞いてみる。「いかようにでも!」と返答する柿次郎が、今度は指出先輩に「指出さんは?」と聞くと、「ええ、今日はちょっと帰ります。でももう少し話したいし、まだ時間早いから、打上げの前に少しだけでもどこか行きませんか」と指出さん。

そこで柿次郎と僕は、きっと同じことを考えたように思う。

指出さん帰り方上手い。

まずここで一つ、大前提となるのが、指出さんと柿次郎と僕は、数いる編集者の中でも、おそらくかなり上位な地方出張多い組で、且つ、その職業柄、飲み会呼ばれ率も相当高いということ。そこで僕のような人間は、出張が続くほどにダラダラと連日の飲み会を繰り返し、右近にウコン、左近にヘパリーゼを配しながら、なんとかやりきって帰途につくという人生を繰り返してきた。流石にアラフィフな僕は辛い時は思い切って帰るようにしているけれど、それもなんだか逃げ切るような帰り方で、後ろ髪を何度バサバサ切り落としてきたかわからない。柿次郎に至ってはまさに命削り真っ最中で、「そんな時代もあったねと♪」つって、柿次郎の顔見つつしみじみと酒飲めそうなくらいだ。

という、帰り下手な僕と柿次郎だからこそ、きっと、まったく同んなじことを考えた。

指出さん、帰り方うまーーーーーーい! と。

まず最初に今日は帰ると静かに断言。

からの、「でも話したい」という気持ちの吐露。

それが社交辞令じゃないことをアクションで示す一軒行きましょうの誘い。

しかしそれはその店終わったらもう帰るということの念押し。


帰り方、うめぇーーーーーーー!


指出さんのそのスマートな帰り方にときめいた僕と柿次郎は、打ち上げがどうこうという以上に指出さんの「直帰力」とも言うべき力の源泉を掘ることに興味津々となってしまって、近くの店に移動した後も、指出さんに色々と質問を投げかけ続けた。

例えば柿次郎がこんな質問をした。
「出張が入ると、さらにその前後に他の出張入れがちになるじゃないですか? 指出さんって何歳からそうやって出張に出張重ねるの止めたんですか?」

そういった質問の答えを聞けば聞くほど、指出さんはとにかく無理をせずきちんと家に帰る天才だった。家で寝る。という当たり前の行動を続ける指出さんの話に「なんであの時帰るって言えなかったんだろう」と後悔してばかりの2人は、いつしか指出さんのことを神様を見るような目で見ていたように思う。

指出さんが語る、家で寝ることの回復力の話に「ええそうです」「はいわかってます」「ですよね」そう心の中で呟きながら、大きくうなづくしかない2人。そんな2人を前にサラッと自然にジャケットを羽織った指出さんを、僕達が見逃すわけはなかった。しかし、しかしだ。そんな指出さんを僕も柿次郎もしかと確認していながらも、それをただ見守る以外に術はない。

しかしそこですぐに指出さんは帰るわけでもないのだ。入店時に脱いだジャケットを再び羽織るというフェーズを経てなお、指出さんの視線はまだまだ我々に向けられている。それどころか話の内容は徐々に深くなっていく。地方に呼ばれる理由として、かなり深刻な課題について相談されたり、その解決を求められて地方に行くことが多いと言う指出さん。そこで、柿次郎と一緒に来ていた、同じく後輩編集者の友光だんごが、こんな質問をした「そうやって地方に呼ばれて深刻な課題に触れ続けていたら、それを抱え過ぎて自分自身も辛くなってきたりしませんか?」うむ、なるほどな質問だ。しかし、それに対する指出さんの答えは

「いや、大丈夫ですよ。抱えこんだりとか全くないです」

その答えを聞くや否や、僕と柿次郎は奇しくも声を合わせてこう叫んだ。

家帰ってるからだーーーーー!

それはまるで小学一年生。答えがわかったことが嬉しくて、先生にあてられることも待てず答えを叫ぶ小学一年生の男子だった。

最高な夜(の手前)だった。

その後、ついにマフラーを巻いた指出さんは、いよいよ帰ります感をさりげなく演出。寒さから守ること以外は、ちょっとしたコーディネートの差し色程度にしか認識していなかったマフラーの本来の使い方を知ったような気さえして、もしここでマフラー売ってたら、3万以下なら買ってたかもしれないなと思う。

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