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生徒がゼロから学校生活の仕組みを創る⁈ 共学化に向けた合意形成の試みをレポート【共学化への道・生徒編】

自由学園中等科・高等科は、2024年度から男女共学となる予定です(東京都認可申請中)。
 ※共学化の目的、経緯などはこちらからどうぞ  ↓↓↓

2019年に学内で共学科が発表されて以降、授業でも男子部と女子部の生徒が一緒に学ぶ機会が増えるなど、徐々にその流れが進んでいるように見えました。

しかし、2022年の冬、当時高校1年生(現高2)の生徒たちから声が上がります。

それは、「学園主導ではなく、自分たちで共学化について考えていきたい」というものでした。この動きをきっかけに、2023年春から男子部女子部それぞれ(中学2年生〜高校2年生まで)の生徒24人が「共学化係」として活動を始めました。

あらかじめ決められた答えや結論がなく、ゼロベースで話し合いを進めている「共学化の仕組み創り」について、生徒たちの活動をレポートします。

生徒編では、共学化係として活動する高校2年の鈴木風香さん(女子部)と柿崎亮慈さん(男子部)にお話をうかがいました。係活動を開始するまでの経緯や共学化への想い、今後についてなど、現時点で思うことを率直に語ってもらいました。

左端が鈴木さん、右端が柿崎さん。

■ 生徒発「共学化係」 発足の理由

――女子校や男子校が共学化するのは昨今めずらしくないですが、それに当たって生徒自ら学校生活のルールを創ろうという動きは、あまり聞きません。まずは、こうした活動に至るまでの経緯を教えてください。

鈴木さん(以下鈴木):
「一番最初の動きは、私たち現高校2年生の女子部4人からでした。来年(2024年)、つまり私たちが高等科3年生から共学化することが決まっていたので、男子部の生徒たちがどう思っているのかを聞きたい、という話になったんです。

それで、2022年12月に男子部の先生(2022年度高等科1年生の担任)に相談し、興味のある人に立候補してもらう形で、まずは男子部4名(現高2)が加わり、8名で活動を始めました。

ただ、最初は別に『共学化のために〇〇を決めよう!』とか、そんな大袈裟なかんじではなくて、お互いの学校生活のことを全然知らないし、まずは交流してみたい、親睦を深めたい、くらいの軽い気持ちでした」

柿崎さん(以下柿崎):
「僕は、女子部の提案を受けて係に立候補しました。共学化される年に、自分が最高学年である高3になるので、何かしら関わっていきたいと思っていたんです。そんな時にちょうど女子部から提案があったので、やってみようと思いました。

係のミーティングの様子。

2023年の1月頃から活動が始まったんですが、最初は単に交流していろいろ話しをする、といった内容でした。その中で徐々に、女子部のルールや細かい仕事(自治的な活動)内容の違いなどを聞く機会が増えて、学校生活がかなり異なることを知りました。

あとここ数年、授業でも女子部と一緒に受けるものが増えていて、以前よりもお互いの生活について知る機会は多くなっていたので、そうしたことから現状を知った部分もあります」

男子部と女子部が一緒に取り組む共生学の授業。

――「女子部と男子部の間で学校生活のルールが異なる」ということ自体、お互いに話すまであまり認識していなかった、ということなんですね。

鈴木:
「はい。特に私は高校から入学したので、男子部に限らず、女子部のことについても、この係で活動するまでは結構知らないことが多かったですね。係で新しく聞いたことがたくさんありました。

こうした違いがはっきりするにつれ、具体的に共学後の新しい学校生活のルールや運営方法を決めていった方がいい、それなら自分たちの学年だけで話し合っても、偏りが出てしまうのではないか……と思うようになりました。

私たち現高2は、共学化して1年で卒業してしまうわけですし、他の学年の意見も聞こうということになり、他学年からも係への立候補を募りました。その結果、、合計24名という、現在の体制(中2〜高1の男子部女子部各3名、高2年のみ各4名)ができました。それが今年(2023年)の3月頃で、本格的に活動を開始したのは、この4月からになります」

■ 男子部と女子部で異なる学校生活の仕組みとは?

――具体的には、ルールや生活方式がどう違うのでしょうか?

柿崎:
「自由学園は基本的に、生徒たちの『自治』によって学校生活を運営しているので、細かく委員や当番が決まっています。それぞれが役割を果たすことで、生活が回っていくイメージです。

例えば、朝学校に来て教室に入れるのは、担当の委員が教室の鍵を開けてくれるからですし、礼拝や食事の場所を整える仕事もあります。朝の本鈴(朝の挨拶)を仕切るのは委員長と副委員長の仕事ですし、その他にも、例えば掃除のチェックをする委員、食事の数や食後の食器洗いを確認する委員などもいます。

どんな委員や当番があるか、何を担っているのかなどが、女子部と男子部でかなり違っているんです

女子部の生徒が食事(昼食)を作る様子。

鈴木:
「委員の違いでいうと、女子部は食事系の委員が細かく決まっています。自由学園の中等科・高等科は自分たちで食事(昼食)作りをするのですが、調味料を補充する委員、ふきんや燃料を管理する委員などがありますね」

柿崎:
「男子部には、女子部のような調理に関する委員はありませんが、寮に関しては詳細に委員の仕事が決まっています。でも、これもお互い話すようになってわかってきたことなので、何が違うのかもまだはっきりしていない部分が残っています」

寮では、食事作りだけでなく、掃除や洗濯も自分たちで取り決めて行います(男子部のお風呂掃除の様子)。

■ さまざまな想いが交錯 生徒たちの「共学化」への想い

――「共学化」について、そもそもお二人はどう感じていましたか?

柿崎:
「僕は中等科から入学したので、入学後(中1の冬)に共学化が決まりました。僕の場合は、元々共学のほうがいいなぁと思っていたので、(実際に共学になると聞いて)おもしろくなりそうだなと思いましたね」

鈴木:
「先ほどもお話ししましたが、私は高校からの入学なので、学校生活が始まる時点で共学になることは知っていました。中学も共学だったので、まあ普通というか、特に抵抗はなかったですね。

でも、昨年1年女子部で過ごしてみて、すごく楽しかったんです! みんなとても仲がいいし、自分たちの好きなモノやコト、例えば服だったりオシャレだったり趣味だったり……について、周りの目を気にせずに話せます。恋バナやグチも、みんなで楽しく共有できますし(笑)。

だから、このままのほうが楽しいかも……と思ったりしましたが、今は共学化になっても楽しくなるように、活動したいと思っています」

共学化係で話し合うようになって、お互いの学校生活の違いを知った生徒も多いといいます。

柿崎:
「確かに、別学には『周りに気を遣わなくてもいい』という良さはあると思いますね。それに、1学年1クラスでずっと過ごしてきたので、クラスメイトとのつながりも強いです。

だから、『共学化』されて別の文化が入ってくることに多少抵抗があるというか……、戸惑っている人が多いのかなと感じました。中には『男子部』だったから、という理由で入学した人もいるので、そういう人たちは、共学化をすごく嫌がっていますね」

――お二人は前向きだけれど、周りにはそうでない人もいる、ということでしょうか?

鈴木:
「そうですね。係になってから、自分の周りだけでなく男子部女子部、学年の枠を超えて話すようになって、男子部は男子部、女子部は女子部、つまり『現状のまま』がいい、という人が結構多いんだなと実感します。

それに、高2女子の共学化の係には、『共学化を止めたいから係になった!』と言っている人もいますからね。理由についてはいろいろあるんでしょうが、元々各部が持つ『伝統』がたくさんあって、それがなくなってしまうことに抵抗があるのかな、と私は感じています。

女子部の朝の本鈴の様子。

『女子部らしい』といわれている生活様式や習慣などがいろいろあり、そこにアイデンティティと強いこだわりがあるのだと思います」

柿崎:
「僕の周り(男子部)も、基本的には同じですね。

自分たちのやり方や生活の方式がある中で、これまでもお互いに、男子部と女子部を比べている部分がありましたし、対抗心……のような意識、感覚もあったと思います。そこで一緒になるっていうのは、やっぱりちょっと違和感というか、抵抗感があるんじゃないでしょうか。

あとはやっぱり、変化……ですかね。大きく変化するということ自体に、戸惑いがあるんだとも感じます」

《 “女子部らしい” 学校生活様式の例 》
 ▶︎食事支度のマナー
  テーブルセンターの使い方、食事作りの方法、
  盛りつけの仕方など
《 “男子部らしい” 学校生活様式の例 》
 ▶︎寮での生活
  男子部は原則として入学年次は全員入寮。
  中1の生活の世話をする「新入生部屋室長」、
  「新入生係」を高3から選出。

校舎の修繕も自分たちで行います(男子部)。

■ 初の全校での話し合い 「ワールドカフェ」の開催

――4月からの共学化係の活動は、具体的にどんなことを行っているのでしょうか。

鈴木:
「係の活動としては、2週間に1回放課後集まって、話し合いをしています。一番最初に、プロのファシリテーターの方と一緒に、決めなくてはいけないことは何で、それを話し合うための時間はどれくらいあるのかを明確化して、大まかなスケジュールを作成しました。

その中で、生活方式の違いの大きな要因になっている『委員会制度』について、まずは話し合いを行うことになりました」

【自由学園の委員会制度】
▶︎高校3年生から委員長、寮長を、高校2年生から副委員長を、全校生徒が参加する選挙で選出。
▶︎選挙の任期や詳細な方法は各部によって異なり、男子部の任期は約50日、女子部は約60日。高3の間に、(自らの意志にかかわらず)一度は委員長及び寮長に立候補する仕組みとなっている。
▶︎ 委員の種類や役割は各部それぞれで、生徒たちは常に何らかの委員に属し、学校生活での役割を担う。

柿崎:
「僕たち係だけでなく、他の生徒がどう思っているのかを共有するために、ワールドカフェ形式で、高2〜中2の全員が参加して話し合いを行ったのが6月中旬でした」

ワールドカフェで話し合いを行う高校1年生

――実際に話し合いを行ってみて、手応えはどうでしたか?

鈴木:
「なかなか難しかったですね。今回は、何かを決定するためではなくて、まずは『委員会とはそもそも何なのか』という根本的なところから話し合おう、という意図で開催したんです。でも、それがみんなにしっかり伝わっていなかったようで、ゴールが不明、やる意味がわからなかった……というような声ももらいました。

そういったところも含めて、準備不足だった部分などはたくさんあります。改善点を踏まえて、今後はもっと良くしていけると思っています」

委員会室で役割分担について話し合う様子(女子部)。

柿崎:
「今回のワールドカフェは、失敗してもいいからとにかくまずは1回やってみよう、ということで開催したんですよ。まあ、ちょっとしたトラブルも起こりましたけど、話し合いができているグループもあったので、僕は想像より良かったのかな、と思っています。

話し合いのゴールについて言えば、共有が足りなかった部分があると思うけれど、そもそも『それぞれが見ている方向』が違う、とも感じました。

ワールドカフェの様子(中学3年生)

僕個人としては、共学になるに当たって、今までの男子部・女子部でやっていた方法の共通部分や良い部分を組み合わせていくのはちょっと違うのかな、と思っていました。新しい学校になるのだから、仕組みも一から創る必要があるんじゃないかなぁと。

これまでの委員と同じように、委員長と副委員長2人必要なのかとか、実は委員会以外のもっと良い方法が別にあるんじゃないかとか、そこまで視野に入れて考えてほしかったんです。だけど、『目の前にある課題』に注目していて、僕らと視点の置き方が異なる人もいました。そこをうまく汲み取れなかった部分はあると思います」

鈴木:
「確かに、みんな結構細かい部分にこだわっているんだな、とは感じましたね。今さらそんな大枠を話し合うんじゃなくて、もっと具体的に決めていった方がいいんじゃない……という、『心配』に近い意見を言う人が多かった印象です」

■ ゼロからの合意形成  その難しさ、今後の方向性は?

――実際に一歩を踏み出してみて、課題も成果も感じたということですね。多数決などの安易な方法に頼らず、しっかりと話し合いを積み上げて合意形成していくのは、なかなかハードルの高い作業です。
今後、どのように進めていきたいかなど、現時点でのお二人の想いを聞かせてください。

柿崎:
「そうですね、今は、いろいろな人が本当に多様な意見や想いを持っていて、なかなか難しいな、というのが正直なところです。まだ共学化に納得いかなくて、学校生活を良くしていこうと、前向きに考えられない人もいるのが現実です。

僕からすると、なんでそんな考え方になるんだろう……って思ってしまうこともあるんですが、いろいろな考えがあることを前提に話し合いを行う必要があって、それが一番難しさを感じている部分ですね。

男子部の校舎とグラウンド。

だけど、やっぱり僕は、これまでの寄せ集めではなく、新しいもの(ルールや制度)を創っていきたいし、そうなった時には広い視点を持たなきゃいけないと思っています。今あるものを組み合わせて考える方が簡単で、僕自身も流されてしまいそうになりますが、みんなと一緒に、できるだけ粘って考えていきたいです

鈴木:
「個人的には、『いろいろな人の意見をなるべくたくさん聞けるようにしたい』と思っています。

柿崎くんのいうように、『新しいものを創る』という視点も、とても大切だと思っています。だけど、私自身があまり新しいことを思いつかない、既存のものに思考が寄ってしまうところがあって、人の意見を聞くことで自分にはない考えを思いついたり、取り入れたりすることが多いんです。

女子部の委員会室に掲示されている、話し合いのルール。

なので、今後話し合いを進めていく上でも、なるべく多くの意見をお互いに聞き合えるようにできたら、そういった環境や機会を用意できたらいいなと思っています。

『共学化後のより良い方向性』は、人によって違うのが現実だと思うんですね。今後話し合いが進んで方向性が決まっても、『それはあんまり……』と感じてしまう人は絶対いると思うんです。

でも、その人たちにとって完全ではなくても、最低限納得できるというか、ある程度「これなら仕方がない」と思えるくらいまでの結論に持っていけたらいいな、と今は思っています」

―――――

全員が参加する話し合いをベースに行う合意形成。社会人生活のなかでも、こうした経験のある人は少ないのではないでしょうか。

全員が晴々とした顔で「納得」できなかったとしても、「これならいいか」と思える新しい仕組みができるのか……、生徒たちの試行錯誤は続きます。

次回「共学化への道・生徒編」では、共学化係担当の山縣先生に、教員側から見た係活動についてお話を聞きます。

取材・執筆 川崎ちづる(ライター)


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