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甘ったるい

その時々の感情に最も寄り添ってくれそうな単語を脳内から選び抜き、助詞の最適解と思わしものを当てはめる。
それができない。ひとつのメールを返す。それだけのことなのに、1時間近くかかってしまうのだ。



会いたくてたまらなかった人を街で見かけたのに、声をかけられなかった。顔を見た途端、話したくなくなった。空想のなかで話せれば、それで満足だった。



信号待ちをしていると、蝶がおぼつかない足取り(羽根取り?)で目の前をひらひら。次の瞬間、車に吸い込まれていった。あの子は死んだ。
物事の終わりというものはあっけなく、私はいつだってその事実の傍観者だ。



外は雨降りだった。
私は小刻みに意識を手放した。何度も死んで、生まれた。起き上がり、指先を掻きむしる。



気が済むと、次に甘いコーディングがなされた胡桃を棚から取り出し、ひたすらに口に詰め込んでいった。
次第に、どこまでが舌の味で、どこからが胡桃の味なのかわからなくなった。人間の舌は、甘いのだ。



舌先に確かに残る甘ったるさ。その奥に残る感傷。夢のなかで満足がいくまでメールを返した後、私はユートピア探しに出かけた。僕ら地獄にも天国にも出会える。

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